初めての乗り物
千李が着替えてダイニングに行くと
広いダイニングの大きな机で、美羽は、ご飯を食べていて
飛鳥は食べ終わって新聞を広げていた。
そして使用人の老婆が飛鳥の食事の終わった皿を下げている
「おはよう翔尾」
千李がそう言うと、老婆はにっこり笑って
まだ手の付けられていない食事の前の椅子を引く
「おはようございます千李ぼっちゃん、さぁ早くお食べくださいな
今日は待ちに待った日、忘れ物のないようにしませんと」
ニコニコ笑って翔尾は千李に食事を促しながらいそいそとダイニングを出て行く
千李は促されるままに席に座る
焼きたてのベーグルにハムと卵レタスが挟まっていて
コーンスープとコールスローがある、ベーグルを口に運べば
ホクホクした生地に半熟の卵が割れてとろっとした黄身が出てくる
胡椒とマヨネーズのコンビネーションが絶品だ
「千李、荷物は忘れ物無くつめたかい?」
飛鳥が読んでいた新聞を畳んで聞いてくる
「はい、飛鳥さん大丈夫だと思います」
口についた卵の黄身をふき取りながら千李は言う
飛鳥に朝の事を気にしてる様子はない
「ならよかったよ、敍樹はいつも余計なものまで持って鞄がパンパンだったけど
君の荷物は少なそうだね」
ダイニングの入り口に置かれている千李の荷物を見てにっこりした後、
飛鳥は懐かしそうに微笑む
きっとかつての悪友たちの若かりし姿を思いだしているのだろう
千李はあの日から始めて飛鳥の口から敍樹の名前を聞いてドキッとした。
懐かしいむ微笑みに辛さが見えたのは千李だけではないだろう
しばらく荷物を眺めていた飛鳥は畳んだ新聞を持って立ち上がる
「さて、私は仕事で見送ることができないけど、二人とも学園でいい子にするんだよ、
君たちの親は私や敍樹だから他の子供より注目され、はた迷惑な噂話もされるかもしれない、けど決して危ないことはしないでくれ、頼んだよ」
そう言って飛鳥はいつの間にかそばに立っていた翔尾から鞄を受け取り、新聞を渡す
そして部屋を出て行こうとした。
「あぁ、今日は私の友人が君達を迎えに来るよ、初めての乗り物に興奮して迷惑かけないようにね、じゃぁ華人の生活を楽しんで!」
飛鳥は手を掛けていたノブを回して部屋を出て行った。
「初めての乗り物って飛行機とかで来るのかな」
千李は疑問を美羽に投げかける
「わかんない、でもそんなことで興奮するような年じゃないでしょ?」
「そうだね、飛鳥さん僕たちを子ども扱いしすぎだよ」
ちょっと文句を垂れながら二人は食事を終わらせた。
そして荷物を持って玄関に行こうとした。
「おやおや、お嬢様、千李ぼっちゃん玄関ではなくお庭ですよ」
「「え?」」
二人は疑問を抱きながら促されるままに庭に移動した。
翔尾は、空を見てずっと目を凝らすと
「あぁ来ましたね、時間通りです」
とにっこり笑った。
二人は本当に飛行機できたのかと空を見上げるも、何もない
よーく目を凝らしていると
一つの雲がぐんぐんこっちに近づいてくる
「え、雲が落ちてくるわ!」
美羽がびっくりして指を指す間も雲はどんどん降りてきて
そこには3人の人が乗っているのが見える
雲はぼふんと音を立てて地面に着地すると階段のようなものが現れた
「母様久しぶり!」
茶髪の長い髪の、体毛が濃い女性が階段を飛び越えて翔尾に飛びつく
「久しぶりねぇ伽耶ちゃん、元気してたかい?」
翔尾は抱きついてきた女性を愛おしそうに抱きしめ嬉しそうにしている
「元気よ!母様は大丈夫?人間じゃぁだいぶ年でしょう?病気とか」
伽耶が心配そうに翔尾を見る
「大丈夫だよ、私は伽慈さんのぶんも長生きするんだよぉ、病気なんてしてられない」
翔尾はニコニコ笑って長いワンピースから、カンガルーのような尻尾を出して軽くとび跳ねたから千李達二人はびっくりした。初めて見たのだ
「え、翔尾、それは何?」
千李は翔尾のしっぽを指さして聞く
「ふふ、そう言えば初めて見せますねぇ、私も華人なのですよおぼっちゃま
私は名の通りカンガルーのようなこの尻尾と足で飛ぶように早く移動できるのですよ」
そう言って翔尾はふふと笑いながらスカートを少したくし上げると普通の人と違う足が見える、
「あぁ、お母様に会えたのが嬉しすぎて忘れてたわ、ごめんなさい、千李君と美羽様ね、美羽様はちゃんのほうがいいかしら?」
正直、美羽は王家の証である薄紅色の髪と桜家の証である銀髪がまじったこの髪で大昔の伝説の女王桜姫の隠し子の子孫と言われ、様付けされるのが嫌いだ、おかげで千李以外に友達ができたことないし、いつも千李が一緒にいるせいで千李まで友達ができなかった。華人でどんなあつかいをされるか知らないが、今の生活も十分いやな噂が飛び交っている、
「ちゃんの方がいいです、様付けってあんまり好きじゃなくて」
美羽がそう言うと伽耶はにっこりと笑った。
「そうね、距離があるみたいだものね、私も二人と仲良くしたいからフランクに呼ぶわね、よろしくね、美羽ちゃん千李くん!」
伽耶は二人の手を取って強く優しく握ってくれた。
「おい、伽耶、まだか?」
伽耶と話していると雲から男の人が降りて来た。
焦げ茶色の髪で黒い柄シャツに赤いネックレスのような数珠に
ボルドーのパンツで黒の革靴
思わずヤクザの人ですか?と聞いてしまいそうな服装のイケメンだ
「あぁそうね、もう行かなきゃいけないものね!ささ、二人とも急いで荷物を持って
キントウンに乗ってね!」
二人は伽耶にせかされて慌ててキントウンと言われた雲に乗る
「キントウンって本当にあったのね」
「日本のアニメのやつだよね」
「違うわ、中国の西遊記物語よ!本を読まないからよ、千李!」
そんな会話をしながら中に入るともこもこしていて
ふわふわベットの上に乗っているようだ
前の方に一本円柱形のガラス瓶があるのと隅に気の弱そうな焦げ茶色のぼさぼさ髪で少し顔の隠れてるうつむいている少年がいた
千李と美羽は促されるままに奥のその子の後ろにある荷物の隣に自分たちの荷物も載せ
男の子の隣に座った。
「こんにちわ、あなたも学園に行くの?」
美羽が聞くと、男の子は固まって目を大きく開き、ロボットのような動きで頷いた
千李と美羽がどう仲良くなろうかと思案していると乗り込んできた男の人に千李は頭をぐちゃぐちゃとなでられた。
「おう、坊主、お前が千李か!敍樹の顏して金髪のシャリ―二の青い目とかあいつがコスプレしてるみたいできめぇな!ははは!」
男の人は豪快に笑いながら千李のほっぺをむにっとした後、軽くぱちぱちと叩き、
前の方のガラス瓶の前に座る
「もう、真木君そんな失礼なこと言わないの!ごめんね千李君!とりあえず急いでるから自己紹介は移動中ね、じゃぁ!ママ!行ってきます!」
乗り込んできた女性はくぼみの雲を引っ張りだして穴埋めをして、翔尾に手を振った。
男、真木が瓶をつかんで上に引くとキントウンはどんどん上にあがって行く
どんどん上昇していくキントウン
飛行機でもヘリコプターでもなく、まさか雲に乗るなんて思っても見なかた二人は
キントウンから見る地上にとっても興奮した。
もこもこのキントウンの上は自分の形に形作ってくれるから
どんな座席よりも気持ちいいし、ガラスや鉄でおおわれていないから外の風や空気も感じれて気持ちがいい、
雲の中を通る時は少し寒かったけど上に出てみれば雲海が広がっていて、雲海の上を通ってる時はまるで自分も雲海の一部のようだ。
「どぉ?初めてのキントウンは、とっても気持ちいいでしょう?」
「最高です!」「すっごくいい!」
二人は別の言葉で興奮気味に返事をしてすぐ外を見た
何の隔たりも無く雲を上から見る機会なんてなかなかないことだ
ふわふわもこもこの座席からよくよく見渡してみると、同じようにキントウンに乗って移動する人がちらほら見えだした。
「そろそろ着きそうね、二人も堪能したみたいだし、自己紹介しときましょう」
そう言って伽耶が後ろを見る
二人はそう言えば飛鳥の友人という以外この人達を何も知らないことに気づいた。
「私の名前は劉伽耶、旧姓は外剛伽耶、覚の半妖よ、父親は覚で母親は華人のあなたたちの家政婦をしてる翔尾よ、千李の母さんのシェリーニとは仲良くさせてもらってたわ」
「母さんの友達だったの!!??」
千李の言葉にちょっと悲しそうに伽耶は笑った。
「シェリーニは誰とでも友達だったわ、私は特別な友達ではなかったけど、彼女は半妖で見た目がおかしい上に心を読んでしまう私でも心から優しく接してくれた優しい人だっわ」
それを聞いて千李はとっても嬉しくなった。
両親の話はあの家では、話しにくくて一度もしてこなかった。
でもやっぱり母親は素晴らしい人だったんだと知れて、とても嬉しかった。
「シェリーニの親友は華無のあいつだろ、まぁあいつに華無し(はななし)なんて似合わないけどな
華しかないからなぁあいつ」
「もう、そんな失礼なこと言わないの!!」
運転?している男がニヤニヤしながら誰かを小馬鹿にするのを伽耶が注意する
「それで、このおバカさんが私の旦那様の劉真木よ、透過能力って言ってねなんでもそこにあるものが無いように通れたりするの」
伽耶がそう言うと真木は自慢げに話しだした。
「俺はな、敍樹の大親友・・・いや、相棒だったんだよ、学生時代は数多くの偉業を成したもんだ、なつかしいな、破天荒カルテットなんて呼ばれてな、俺と敍樹で俺の今の相棒の騰香圓唎の作った作品でテストしては後始末を飛鳥がしてくれてなぁ、楽しかったぜぇ!」
運転しながら真木は楽しそうに話している
「もう、自慢げに言わないの!イタズラしていろんな人に迷惑かけてたんだからね!」
伽耶がプンプン怒るも真木はまたニヤニヤする
「あぁん?そんな俺にめちゃくちゃアタックしてきてたのは誰だぁ?
俺の為なら誰の心でも読んでたじゃねぇか」
そう言われて伽耶はもじもじし始める
「だ、だってあの時は、そのワカカッタシ」
そのまま二人はイチャイチャしだした。
「な、仲良しだね」
「うん、なんか幸せそう」
二人は見ることのなかった母を思う
父親も、自分たちが物心つく前に死んだ母親も
もしどっちも生きていたなら、あんなふうにとは言わずとも
仲良く暮らしていたのだろうかと思った。
「あ。あの、ご、ごめんね」
二人が前の2人を見ていると男の子が話しかけてきた。
「あ、あ、の二人いっつもあぁ、なんだ、いつまでも新婚、みたいな、は、恥ずかしいとこみ、見せてごめん」
真っ赤になって縮こまり、恥ずかしそうな、今すぐどこかに隠れたいような男の子に
千李がなんと返そうかと思っていると美羽が話だす
「ぜんぜん恥ずかしいことなんてないわ、素敵なことよ、いつまでもなかがいいなんて
すっごく素敵なものを見せてもらえて嬉しいわ」
美羽が優しく言うと男の子は少し胸をなでおろして落ち着いたようだが、まだ顏は赤い
「ぼ、僕、岸雄、き、君たちは、み、わ、美羽、さ、様とせ、せん千李、きゅんりゃよね」
「え」
岸雄は、盛大に噛んでまた恥ずかしそうに隅っこにうずくまって丸くなってしまった。
ダンゴムシみたいだなぁなんて思いながら千李は手を出す
「千李であってるよ、よろしく」
「私は美羽、できれば様じゃなくてちゃん付けがいいな、お友達になりたいから」
二人がそう言うと岸雄は恐る恐る手を出して千李と握手する、千李は安心させるように
にっこり笑うとその子も少し笑った。
「みんな!もう着いたわよ!」
伽耶の声を聞いて周りを見ると、キントウンが沢山集まっていて、どんどん雲のトンネルのような物に沿って降りていく
ぐんぐん降りて行くと緑の芝生と沢山の人が見えてきた。
そして雲のトンネルを抜けると
大きな御殿が見えて、広い芝生にキントウンはぼふんと音を立てて着地する
「おら、全員さっさと降りろよー」
真木はそう言うと瓶をカチャカチャといじってる
そして岸雄は慌てて立った。その背丈は11歳にしてはとっても大きくて二人はびっくりした。隅の方に丸まってキントウンに埋まっていてその大きさが分からなかったのだ
「ど、どうかしたの?」
唖然とする二人に岸雄は心配そうに聞く
うつむいていなければかおがよく見えて
実は父親似のかなりのイケメンであることもうかがえる
背が高くてイケメンで千李はとっさに美羽を見た。
「岸雄くん大きいのね、びっくりしちゃった!」
美羽が驚きながら言う、見惚れているわけではないことに千李は安心する
「あ、うん、こ、こわ、い?」
「ぜんぜん!カッコいいと思うわ!」
その言葉に千李は焦るこの会話を続けたくないと思った。
「そ、そんなことより早く降りよう!僕、学園内も見たいな!」
二人は千李にせかされて荷物を持ってキントウンを下りる
千李がちらっと真木を見るとニヤニヤ笑われているのが見えた
心まで見透かされたみたいだ、キントウンの下では伽耶がクスクス笑っている
覚だから心が読めたのだろう、それとも心が読めなくても行動でわかってしまったのか
どのみち千李は恥ずかしさで赤くなる
自分の秘めた恋心は大人にはお見通しなのだ
みんな降りると真木は立ちあがって円柱型の瓶を引っこ抜く
すると、キントウンは瓶の中に吸い込まれて真木は軽く着地した。
美羽と千李はポカーンとしたあんなにいっぱい雲があったのに細い小瓶に収まってしまったからびっくりしたのだ、
「ふふ、すごいでしょ、これでどこでも運べるしどこでも乗れるのよ、華無には見られちゃいけないけどね」
伽耶はにっこりとした
「おっしゃ、じゃぁ俺は船の整理券とって荷物詰めてくるから、お前ら時間までに教材そろえてこい」
「えぇ、真木さんお願いしますね、さ、みんな行きましょう!」
伽耶にそう言われて、買ったものを詰める袋だけ持ってついて行くが、あんないっぱいの荷物、真木一人で運べるのかと思ったら、真木は首に掛けていた長い数珠を手に持ち、
手で空に何か書き荷物達に手を向けると
荷物はひとりでに浮かんで真木の後をついて行った。
千李はびっくりして立ち止まった。
「千李君も使えるよになるわ!とりあえず道具をそろえなきゃね!」
伽耶にそう言われて千李は伽耶について行った。
隣にちょっと不機嫌な美羽が来た。
「もぉ千李、浮遊呪文教えたでしょ?もっと本読まないと」
「ごめん」
美羽は勉強好きでよく本を読んでいるから千李よりも華人をよく知ってる
千李の知識はほとんど華無と一緒だ
さぁ、華人の世界の入り口に足を入れよう