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神華牡丹学園物語  作者: 瑞目叶夢
1章華人の不安と仇の顔
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半人前と半端者


千李達は猿武に入部し、放課後は訓練の日々に追われた。

訓練は過酷で厳しく毎日、へとへとになって帰る、

だが、確実に鍛えられていることも感じる

5月の身体測定では確実に自分が成長していることを感じることができた。

6月になり2ヶ月経っても取り巻きは減ることはないが6人でいる時は人が寄ってこないので

最初の日々よりも充実した日々を送っている。


「なんか男の子3人は最近逞しくなったね」


美羽が3人を見てそう言った。

確かに3人は入学前より確実に筋肉が付いている

真望なんて今まで鍛えたことがなかったのもあり、ライラックたちの鬼修行で

しっかりした体つきになって来ていた。


「そうかな、でも確かに最近は武刀術の授業は楽かな」


千李は言われて自分たちの体付きを見る、確かに少し筋肉が増えている


「うむ!俺も最近は良く鍛えられ、訓練でもいい動きができているようだ!

夜もしっかり眠れるし、朝がすがすがしく起きれる、体を動かすのは素晴らしいな!!」


「しし、しっかりどころじゃないよ、か、帰ったらもうへとへとだよ

し、ししかもなんか睨まれるし、やや、やっぱり僕なんかがと、刀激戦に出るべきじゃないんだ」


かじりかけのパンを皿に置いて岸雄が机に突っ伏す

岸雄はこんなことを言ってるが結構鍛えられて姿勢もよくなり最近女子の熱い視線を向けられているが、本人は睨まれてるとしか思っておらず、おどおどぐわいは前にもまして酷いのだ、なんたって女子にモテるため、確かに男子からの嫉妬の視線もあるので、

睨まれているというのもあながち間違っていない


「そんなことないわ、岸雄君」



机に突っ伏してる岸雄の頭を優しくなでる女性、深瑠だ、

岸雄が男子に睨まれる最大の原因、人魚の深瑠のお気に入りと言うことだ。


「み、深、深瑠先輩!!」


岸雄も4月から部活で毎回、顔を合わせるようになり、その魅惑する姿にもなれたようだが、緊張してしまうのは仕方ない


「深瑠先輩こんにちわ、その軟弱メンタルに何か御用ですか?」


影姫がナイフとフォークを置いて深瑠に聞く

影姫は深瑠が来るといつも以上に岸雄に辛辣になる

これでもっと岸雄は優しい深瑠が気になり好きになるのだが

深瑠が自分の苦難の日々を作っていることには気づいていない


「まぁ影姫さん、そんなひどいこと言ってわダメだわ!

彼はとっても頑張ってるし、とっても強いわ、少し怖がりだけど

しっかりとした意思も持ってる、とっても素敵な男の子よ」


深瑠は岸雄にニッコリと笑いかける

岸雄は溶けそうな顔でありがとうございますと小さく言う

それを見て影姫は面白くなさそうに食事を食べだす


「そうだわ、岸雄くん千李君、今日から1週間、中間テストまで部活がないのよ

それでね、貴方たち6人を人魚の寮に招待したいのだけれど、いらしてくれるかしら」


ニッコリと深瑠が笑いかける顏は天女のように優しく美しい


「私たちもですか?」


「素敵!人魚の寮なんて楽しそう!行きたいです!」


美羽が驚いて聞くが、癒澄は嬉しそうに言うので行くことが決まってしまった。


「うふふ、良かったわ、じゃぁ放課後、瑠璃湖に来て!

きっと歌の授業をしてるからすぐわかるわ!じゃぁね岸雄君、待ってるわ」


そう言って深瑠は、2階の妖怪達の席に戻って行った。

岸雄は、見惚れながら手を振っている

その後、なぜか不機嫌な影姫に岸雄は嫌味を言われて、

それを美羽と癒澄が落ち着かせ、

千李と真望が慰めると言う、落ち着かない昼休みになったのだった。


放課後、千李達は瑠璃湖に向かった。

昇降口から出て白虎寮の裏をまっすぐ進むと瑠璃色のきれいな湖が見える、そこから

透き通った綺麗な声の歌が聞こえる、だがそこに近づくにつれて、一際綺麗で優しい歌声が調子はずれな歌を歌っていることも理解できるのだ。

よく聞くとその声は聞き覚えのある声だ


「あーもうだめだめ!深瑠!あなたは外れなさい!そこでちゃんとみんなの歌を聞くのよ!見た目も声も一番よくてもそんな調子じゃ歌で惑わすなんて無理よ!」


「はい、」


大きな木の下まで来ると瑠璃湖が近く湖の岸で指揮棒を振る初老の美女がいて深瑠をしかりつけた。深瑠は悔しそうな顏をして岸を上がって歌う人魚達を見る

その後ろ姿はとっても寂しそうで、千李はどうしようと悩んだが、岸雄が走って行った。


「み、み、深瑠先輩」


「あ、岸雄君達、来てくれたのね、ごめんなさいまだ授業中なの」


深瑠はにっこりと笑いながら言う


「ぼ、僕も、一緒に聞いてていいですか」


「え、ええ、いいわよ」


岸雄はおもむろに深瑠の隣に座った。

千李達はそっとそこから離れて木の根元に腰を下ろし、授業風景を見ることにした。


静かに風の声と葉擦れの音に乗せて人魚の美しい歌声が聞こえる、

夢のような穏やかな時間だ


「さぁ今日はここまでです、皆さん素敵でしたよ、ではこれで授業は終わりです」


「「「はい、ありがとうございました先生」」」


教師はその生徒達の返事を聞いて岸を上がって深瑠の方に真っすぐ歩いてくる

他の生徒の人魚達は数人は湖の底に行き何人かはニヤニヤとしながら深瑠達を見ている


「深瑠さん、あなたはどうしてそんなに調子はずれに歌うのです、もっと周りの音を聞いて歌の気持ちを感じなさい」



「はい、ありがとうございました先生」


教師は固い顏をしていたのを解いて優しそうに少し寂しそうに笑いながら深瑠の肩に手を置く


「あなたは素晴らしいものを持っています、もっと肩の力を抜きなさい

そうすれば真価を発揮できるはずです」


「はい、」


深瑠はうつむき拳を強く握った。


そんな深瑠を見て教師は小さなため息を吐く、そのため息に、深瑠の拳はまた強く握られるのだ。


次に教師の目は深瑠を気づかわしげに見つめる岸雄に向けられる


「あなたは深瑠さんのお友達ね?と言うことは美羽様もいらっしゃるのね」


そう言って教師は大木の根元にいる5人に目を向ける

自分の名前が出てきて美羽はドキッとした。

人魚にはあまり良く思われていないと思っているからだ、なんたって美羽の母、

桜姫は八尾比丘尼、人魚の肉を食べた不老不死者なのだから

教師は今度は真っすぐ美羽の方に来てにっこりと笑う


「始めまして美羽様、わたくし、(れい)ともうします、お会いできて光栄ですわ、本当に凛々しく美しい桜姫様そっくりなお顔です、懐かしいですわ、桜姫様の幼いころを思いだします」


「母様を知っているのですか?」


美羽はびっくりしてそう聞いた。


「えぇ知っていますよ、桜姫様の従者、桓玄(かんげん)様は私の兄でしたから、

当時私は10歳で、人魚としては未熟でした。そんな兄が同い年の桜姫様に会わせてくださったのです、それから時折、桜姫様は我らの隠れ里に遊びにいらしていました。

流罪の時、逃げだした時も我らの里でお過ごしになっておられたのですよ、

もちろんあの事件の後も我らは桜姫様を受け入れました。」


あの事件、歴史上で凄惨な時代と言われる紫陽花時代、愚王と言われる紫陽花王、

美羽の祖父であり桜姫の父

件の王の策略により殺されそうになった桜姫のために身を捧げた人魚の話は有名だ

その詳細がどうであれ、人魚は桜姫に身を捧げ、桜姫はそれを受け入れ髪一本、骨さえも残さず食らった。桜姫はその後、女傑、血の女王と言われ恐れられながら素晴らしい手腕で国を治めたが、世継ぎの為に生かしていた。忌子と言われた末の公子の妻たちの策略によって死んだことになり表舞台を退け、桜州にて神華牡丹学園を作ったと歴史の授業で習っていた。


「家族を食べられてお母様を怒ってらっしゃらないんですか?」


「美羽様、兄は望んで食べていただいたのです、愚王に食べられ、あの王が今も生きていたのなら、妖怪は地獄に追いやられ戦争の絶えない国だったでしょう、けれど桜姫様は我らが人になじめる術を学ばせてくださり人と学べる空間をくださった。そんな方をなぜ恨むのです?」


ニッコリと優しく笑う顏、少しだけあるしわが50代ほどの女性に見えるが何千と言う時を生きてきて、美羽の知らない母を知る人、その笑顔に嘘は感じられない、安心させるように笑ってくれる優しさに美羽は少し安心した。


「さぁ、深瑠から話は聞いております、船を用意してございますのでお乗りください

我らの寮をご案内しましょう」


澪が指さす方を見ればシロイルカのような生き物で一角獣のような角を持っている生き物、角イルカが大きな二枚貝を模した乗り物に紐で繋げられている

千李達は案内されてその貝の乗り物に入る、その乗り物は上の貝の部分が透明になっていて、外の様子が見えるようになっている、

ガコンと音がして2枚貝が閉まると角イルカ達がきゅいきゅいと鳴いて湖に潜りそれにひっぱられて千李達が乗っている貝も潜っていく

水色の世界が目の前に広がる、色とりどりの魚達、や水草が綺麗でよく見るとサンゴがある


「綺麗でしょ、この湖には海水も入ってるの」


外に居て上を泳いでいる深瑠の鈴のような声が貝の中に響く

水色の美しい世界に瑠璃色の尾鰭(おひれ)が美しく、泳ぎにあわせて揺蕩う髪が

幻想的で他の人魚も美しいが深瑠は仲でも一際美しく優雅に泳いでいる


「す、すごくきれいです!」


岸雄が嬉しそうに興奮して言う

それに周りの人魚達がくすくす笑う


「流石見た目はいい深瑠先輩、人魚の男がダメだからって人間を誘惑するなんて

人魚としてのプロ意識が高いわぁ」


「あらでも英雄の子はなびいてないみたいねぇ」


「半人前には半端者がお似合いよねぇ」



人魚達は高い笑い声を残してさっさと先に泳いで行った。


深瑠はさっと乗り物の下に隠れてしまった。


「み、深瑠先輩?」


「大丈夫なんでもないわちょっと疲れただけ、気にしないで」


そう言って深瑠はまた貝の上に戻ってくるその顔は優しい笑顔だが、

その笑顔に岸雄は胸が閉まる思いをする


「それよりごめんなさい岸雄くん、半端者なんて気にしないでね」


「だ、大丈夫です、な、なれ、なれてますから」


しばしの沈黙、真望がこっそりと聞く


「半端者ってどういうことだい?」


「半妖やその子供の事を半端者って言うんだ、

半妖や妖怪のクオーターは妖力が弱くなるから代わりに神華を身に着けるんだけどね」


「なるほど、また差別か」


真望はまた難しい顏をする

血統の差別というものは根深く難しいものだ

それによるいじめが発生するのに関し、真望は思うことがあるのだった。


微妙な空気の中一行はワカメの森を抜けるとそこには綺麗な水中都市が広がっていた。


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