父さんは俺が父さんの秘密を知っている事を知らない
コメディーってほどコメディーじゃないかもです。
言うほど親子の掛け合いない。
『何処にでもいそうな人』これが周りから見た俺、森澤蓮への評価。
身長も体重も容姿も、おまけに成績さえも平均。
まさにKING ofモブ男。
きっと俺が通っている高校が物語の舞台だったら、俺はクラスメイトそのDくらいだろうか。
もしくは、名前も存在しない棒人間かも知れない。
だがしかし、そんなモブの俺にだって誰にも言えない秘密はある。
それは、俺の父親が今世間を騒がせている大怪盗『怪盗ブラックマン』だと言う事。
何でもその名前は、盗みに入るときの格好が全身真っ黒だからだとか。
最初聞いた時そのダサさに驚愕したのを今でも覚えている。
『怪盗ブラックマン』。
彼は資産家や富裕層から骨董品に美術品、宝石類などのお宝を何でも盗んで行くことで有名だ。
しかし、現在警察の調査によると『怪盗ブラックマン』の被害に遭った品々は全て模造品だと判明している。
その為『怪盗ブラックマン』ではなく、その品々の持ち主の方がバッシングを受けている様な状態だ。
まぁ、やっている事はただの泥棒と何ら変わりは無いのだが。
さてさて脱線してしまったが、重要なのはその『怪盗ブラックマン』が俺の父親だと言う事だ。
そもそも何故その事に気づいたかと言うと、あれは確か二ヶ月前の事だった。
その日、俺はバイトが長引き普段よりだいぶ遅い時間に帰ると、いつも誰もいないはずの家に明かりがついていた。
泥棒にでも入られたかと急いで鍵を確認したがしっかり施錠がしてあり、親のどちらかが久しぶりに帰って来たのかと思い、ただいまと声を掛けたが返事が無かった。
おかしいなと思いながら夕食がまだだったので夕食の準備をとキッチンに行くと、ダイニングテーブルに一人分の食事と、置き手紙があった。
親はもう既に出かけた後だった様で仕方なく置いてあった食事を温め直し食べる事にした。
温め直している間暇なので手紙を読むと手紙にはこう書いてあった。
『蓮へ ご飯作っておきました。温め直て食べてね!あと、洗濯物入れておいて!!まだ乾いていないものは乾燥機の中に入れといてください。 母より』
俺はその置き手紙通りにご飯を温め直し食べ、片付けたあと洗濯物を部屋の中にしまう事にした。
ベランダに出ると両親が忙しいから溜めに溜めていたであろう洗濯物がたくさん干してあった。
乾いているかを確認してから父と母の衣類を分けていく。
大体仕分けが終わり、やり残しがないか確認すると、端の影になって見づらい場所にまだ洗濯物が干してある事に気がついた。
きっと俺はこの時やり残しを確認してはいけなかったのだ。
だって、その洗濯物をよく見ると今世間を騒がせている大怪盗『怪盗ブラックマン』の犯行時に付けているマスクが干してあったのだから。
流石にこれだけで父さんが『怪盗ブラックマン』だと特定するには証拠が無さすぎる。
その時俺は、きっと父さんも『怪盗ブラックマン』の被害者をバッシングしている人達と同じで、ちょっとしたファンなのだと、思い込む事にした。
うんうん。きっと父さんは『怪盗ブラックマン』のファンなんだ!模造品を観させて金巻き上げてる資産家や富裕層の輩が気に入らなかったんだよな!
そんな風に自分に言い聞かせて、マスクを無視して洗濯物を畳み、それぞれの部屋へ持っていった。
皆さん。お察し頂けただろうか?
そう、俺は母さんの部屋に母さんの衣類を置いて次に父さんの部屋へ向かったんだ。
(あ、うちの親は共働きだから部屋は別々にあるんだ)
そして、俺は見てしまった。
父さんのベッドの上に無造作に置いてある『怪盗ブラックマン』の犯行時着ている服を。
勿論、これはきっと完成度の高いコスプレなんだ。
父さんにそんな趣味があったのか〜。ちょっと引くわ。
とか、何とか考えて気を紛らわしていたんだが、ふと俺はクローゼットが少し空いてる事に気がついたんだ。
「何か父さんが隠しているなんて思ってないし!ただ、クローゼットが開いてたから閉めようとしたしただけだし」
そう呟きながらクローゼットの隙間から中を覗くと、そこにはつい先日『怪盗ブラックマン』が“埼玉のドン“と呼ばれている資産家から盗んだとニュースになっていた絵画があった。
確か、第二次世界大戦中に行方不明になったとされていたゴッホの名画「タラスコンへの道を行く画家」だったと思う。
何でこんなものがうちにあるんだよ!?
いや、それはもう言われなくても分かってる。
やっぱり父さんは『怪盗ブラックマン』なのだ。
よくよく見れば他にも『怪盗ブラックマン』に盗まれたと報道されていた盗品があるではないか。
そうして俺は父さんが『怪盗ブラックマン』だという事実を知ったのだ。
まぁそれを知って俺の生活に何か変わったことがある訳ではなかった。
要は俺は父親が大怪盗でもモブだという事だ。
それでもやっぱり、俺の中では父さん=『怪盗ブラックマン』の方程式がいつもある訳で、俺は父さんを監視する事にした。
と言っても、両親は共働きで基本家に帰って来ないという事になっている。
今となっては、帰ってきていないのか半信半疑であるが。
そんな中タイミング良く父さんが週末帰ってくるという連絡を受けた。
これは絶好のチャンス!
父さんは俺が父さんが『怪盗ブラックマン』だと知っている事を知らない。
思う存分父さんをからかってやろう。
そう考えているとあっという間に週末になった。
そして迎えた週末、俺はいつも通りの時間に起きリビングは向かったんだ。
リビングには父さんはおらず、まだ眠っているのだろうと思い、俺は朝食の用意を始めた。
食パンをトースターに入れ、目玉焼きを作る。
目玉焼きが焼き上がり、パンと一緒にさらに盛り付けをしていると、父さんが欠伸をしながら起きて来た。
「ふわぁ、蓮おはよう」
「おはよう父さん。朝ごはん出来てるから勝手に食べてね」
「うん。分かった」
そう俺は父さんに伝えてから自分の朝食を始めた。
その間父さんは、コーヒーを入れ、コーヒー片手に新聞を読み始めた。
その新聞の大きな見出しには、『怪盗ブラックマン』今回も大成功!と書いてあった。
俺はその見出しを見て、父さんをいじる宣言をした事を思い出した。
よく考えれば、父さんは今まで俺に自分が『怪盗ブラックマン』だと黙っていたと言うことは、知られたくないのではないかと思ったので、俺はその事を知らないと言う体でからかう事にした。
なので、ふと新聞の見出しを見て思い出したと言う感じで聞いてみた。
「そういや、最近怪盗ブラックマンがまた模造品盗み出したらしいね」
父さんは、俺が怪盗ブラックマンっと言った途端にコーヒーを吹き出し、むせた。
「ブー!ゴホッゴホッ」
「うわっ、父さん汚い。ってか大丈夫?」
「ゴホッゴホッ、っ大丈夫だ」
俺は父さんの吹いたコーヒーを拭きながら話を続けた。
「怪盗ブラックマンが盗んでる盗品って今のところ全部模造品だったんだよね?怪盗ブラックマンって模造品何か盗んで何がしたいんだろうね?」
「っう、そ、そうだな。怪盗ブラックマンが盗んでるのは全部模造品だったってニュースでやってたな。ホント、カイトウブラックマンッテナニガシタインダロウナ。ハ、ハハハハ」
俺が『怪盗ブラックマン』の話をすると父さんは明らかに動揺した感じになった。
おまけに返事は片言だし、目が泳ぎまくっている。
いや、動揺し過ぎじゃね!?
どんなけ俺に知られたくないんだよ。
「そう言えば、こないだ洗濯物の中に怪盗ブラックマンが着けてるマスクによく似たマスクご干してあったんだけど、父さん何か知ってる?」
「へ、そ、そんなのシラナイヨ」
「いやね、本当『怪盗ブラックマン』のマスクにそっくりだったから父さんか、母さんのどっちかがファンなのかなぁって思ってさ」
「なんだぁそう言うことか、心配して損した」
「ん?父さん何か言った?」
「ん、いや何でもないよ。そのマスク多分お父さんのかなぁって思って」
「え、あれ父さんのなの?」
「そ、そう。実は恥ずかしくて言えなかったけど父さん怪盗ブラックマンのファンなんだよねぇ」
「へぇ、そうだったんだ。実は父さんが怪盗ブラックマンなんじゃないかって疑ってたんだよ。まぁそうだよね。盗んでる物が模造品だからって泥棒は泥棒だもんね」
「う、ゔん。っすん、ぐす。ぞゔだでぇ」
俺の言った言葉が心に来たのか半泣きで返事を返された。
いや、何で俺こんな奴に騙されてたんだ?
「まぁ、でも模造品なんかで金を巻き上げる奴らも悪いよな」
「そ!そうだよ!!!本物だと思っていた人を騙してたんだからそっちの方が悪いよ!」
「まぁ確かにね。それに怪盗ブラックマンってもう数十件犯行してるのに捕まらないとかまじクールだよね!」
「わぁ、そう!それ!蓮はよく分かってるなぁ」
俺が『怪盗ブラックマン』を褒めちぎると、父さんは満更でもない様子。
いや、父さんよ。
まじチョロ過ぎ。
「そう言えば、また怪盗ブラックマンが予告状出してたよね?」
「あ、ああ。次は千葉博物館に参上するって」
「へぇ、千葉博物館って確か今モネ展が行われてなかったっけ?」
「そうそう。モネ展の中にあるどれかを盗むんじゃないかって騒がれるよ」
父さんは俺に、今度の犯行についてニヤニヤしながら語ってくれた。
父さん的にはファンのポジションで語ってる風を装ってるみたいだが、はっきり言ってただの自慢話に聞こえて来る。
そして、週末は『怪盗ブラックマン』について父さんにひたすら語られて終わった。
翌朝、父さんはいつもの如く出張だと言ってキャリーバックを片手に家を出ていった。
「んじゃ、蓮。行ってきます!戸締りしっかりするだぞ!」
「分かってるよ。行ってらっしゃい。お仕事頑張ってね!」
これは、俺が父さんの正体を知っているけど知らないふりをしているお話。
父さんは俺が父さんの秘密を知っている事を知らない。