魔法的思考
トイレに入り鍵を掛ける、ついさっき見た光景が頭から離れない…あんな美女が…無防備な姿で…いかん、このままでは用が足しづらくて仕方ない…。
気を紛らわそうと便器を覗く、水音がしなかったが一体どういう仕組みなのか興味があった。トイレの中も臭さを全く感じない、やはり魔法の効果なのか。
(うん…?どういうことだ…?全く何にも仕掛けが無いぞ…)
覗いた便器内には普通に窪みがあり木の箱のような構造になっているだけだった、しかし先程のエルフのお姉さんのブツは一切見当たらない、流れる穴も無しにどうやって痕跡が残らないのか全く分からなかった。
そうこうしているうちに息子は柔らかさを取り戻し、排泄に適した状態になっていた、疑問はあるが我慢も出来ない、箱目掛け用を足すためズボンを下げ、狙いを定め発射した。
『スーウ…』
便器に入る瞬間水流が何か光が蜃気楼で歪んだように消えて行くのが確認出来た、別の空間に転送されているようだった、少し狙いをずらしても完全に消えて行く、むしろ便器いらないレベルだった。
初めて認識出来る(連絡ベルはイマイチ実感が沸かなかった)魔法がトイレでおしっこというショボさだが、この世界の高度な魔法の一般生活への浸透を知れるという部分は間違いなく収穫だった。
壁に掛かった紙も普通では無かった、手にした瞬間に湿り気を帯び、ウエットティッシュに早変わりである。それでいながら床に落とすと乾いた紙の状態に戻るし、手を拭いたものを床に落とそうとした所、あり得ない軌道を描き、便器に吸い込まれていったのだった。
(だから和式のように床に穴が開いてる形状なのか、あの便器はあくまでこの部屋に転送の術式がある事を示してるだけか…?)
少し考え、履いていたスリッパを床に落としてみる、スリッパは消えず、床に落ちる、当たり前の光景だが、少しずつ疑問点がクリアされていく。次に便器に手を入れようと右手を入れてみる、手は消えず便器の底の箱に触れる事に成功する。
(この術は汚物転送だ…恐らく排泄物と備え付けられた魔法の紙のみに作動するんだ…)
『コンッコンッ』
トイレのドアがノックされる、少し長居しすぎたようだ。ノックを返しズボンの紐を締め、トイレのドアを開ける、あの巨乳は忘れもしない、ユリアたんだ。
「大丈夫だった?」
どうやらジークムントから様子を見てこいと言われたようだ、推定怪我人だ無理も無いだろう。
「ありがとう、大丈夫だよ」
先程とは違いしっかり返事が出来た、やった成長した…!きっと何かのステータスが上がったぜ…!
「じゃあちょっと下来て、師匠が呼んでるから」
「分かった、今すぐ行こう」
「はい、じゃあこっちね」
『ぎゅっ』
「!?」
ユリアたんの右手で左手を握られる、女性の手はあんなに柔らかいのか…また良い匂いがする、しかも良く見ればユリアたんの服はかなり体型をそのまま反映したデザインをしているではないか、完全に乳袋状態の胸部がユッサユッサと重力と弾力の狭間で揺れているのが丸分かりだった。
ユリアたんの視線がこちらに向いたら完全に通報レベルの表情だったのが自分で分かったし、手汗は止まらないし、また元気な如意棒は本懐を果たすべく拡張していたのだったが、幸いにも彼女が振り返ることは無かったのだった。
「この部屋ね」
「デカイ…」
地下室にはまるで体育館の入り口のような巨大な金属製の二枚両開き扉があった、先程からのこの施設の規模ではあり得ない規模だ、まるで上の建物がダミーと思うレベルである、地下の秘密軍事施設なのだろうか?
また、階段を降りた時点でユリアたんは手を離してしまったため、先程の興奮は収まっていた。残念で仕方ない。
「師匠!入りますね!」
重そうな扉が、ゆっくりと手も触れずに動き出した、ここにも魔法が使用されているらしい動きだ、人力よりも滑らかにまた、一定のスピードで開かれていく為だ。
「すまないな、少年、君にお願いしたい事があったんだ」
「いえ、どうやらほぼ無傷みたいですし、問題無いですよ」
ジークムントの背後に見た事の無いほどの巨大な機械ブロックが置かれていた、何かのエンジンらしい構造に見えた、複雑なパイプラインに頑丈そうなメイン構造は、ステンレスかアルミのような銀色に白がくすんだ金属色に黒い油がベットリと付いていた、まるで血液が付いてるようだった。
「見えるだろう、これが邪竜の心臓部だ、怖がらなくていい、大丈夫完全に止めは刺してある」
「この機械がですか…?」
一瞬何を言ってるのか理解出来なかった、が、少しずつ思考が追い付いてきた、邪竜とは機械製の兵器の総称なのではないか?というのが最初の仮説だった、ならばそれを知ったら軍事機密的に生かして返して貰えないのでは?という思考が襲いかなり怖くなってしまってきていた。
「これが我々の敵だ」
「敵…」
どうやら軍事機密口封じコースでは無さそうだ、しかし窓からの街並みとは技術レベルが違い過ぎる違和感は全く解消されていなかった。
「悠真君の髪の毛が中から見つかったの」
横からユリアたんが口を挟んだ、可愛い、いや、今超核心だったやんけ、しっかりするんだ!
「えっ…?俺のですか…?」
「恐らく間違いないだろう」
ジークムントが髪の毛を俺に手渡し続けた。
「先程少年には回復魔法の類いが効果無かった事を尋ねたが、この髪の毛にもあらゆる回復魔法が効果を発揮しなかったんだ、また、髪の長さや色、遺伝子からいっても少年のもので間違いない」
ジークムントはかなり長い黒髪で、ユリアたんは元の世界にはあり得ないほどの輝くような白髪だし肩口ぐらいまでの長さだ、確かに見た目は俺の髪の毛に似ている、そしていつの間にか遺伝子情報抜かれてるし間違いないだろう。
「しかし何も覚えてません」
「だろうな、しかしそこが聞きたいんじゃないんだ」
今度は折り目の入った手紙を渡される、なんの変哲も無い紙のようだ、手紙と分かったのは折り方が三つ折りな上で、封筒らしきものもジークムントが持っていたからだ。
「これが読めるか?恐らく何かメッセージだと思うが」
手紙を開く、日本語だった。
「はい、読めます」
二人がざわつく、ユリアたんがこちらをゴミをみるような視線でみてるのが分かる、ジークムントもかなり真剣な表情だ、答えを間違えると俺はやはり死ぬかもしれない。
《自分から自分へ》
しかし、その思考の余裕は一瞬で消え去ったのだ、タイムカプセル的過ぎるタイトルの筆跡は間違いなく自分だったのだから。