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さっそく兄弟は良晏寺に向け歩き出すが、香芝を出た所で足が止まる
「お前ら、何勝手に出ていこうとしている」
「なんだ、お前らか。生きていたのか」
「ちっ。先日のお礼はたっぷりさせてもらうぜ。この霧ノ宮兄弟がな」
「兄ちゃん、すまないが少し時間をくれ」
「いいよ。大してかからんだろう」
「あん、舐めているのか! 」
そう、チンピラが言った後、首がずれ落ちていた。そこからはほんの一瞬で終わる
「勝手に霧ノ宮を名乗ってんじゃねぇ。お前ら程度が口にしていい名じゃねぇんだよ」
藤次は自分が当主らしい仕事ができたと安堵した
自分たちが蒔いた種ではあるのだが、そこは置いておこう。
「じゃあ行くか。岬さん後始末よろしく」
「見送りご苦労さん」
そう言って走り去ってしまう兄弟を呆然と見ていた岬はすぐ行動に移す。
斬られたチンピラどもの後片付けはしたものにまかせ、兄弟を追う。
姫様から「気になるならついていってもかまわんぞ」と言われたからだ。
正直、気づかれているとは思っていなかった。
一応隠密でもある自分が気づかれるなどあってはならないことだ。
多少油断はしていたとしても、結構自尊心が傷つく。
それにしてすごい刀裁きだったなと思う
これについてはただただ褒めるしかない。
さすが霧ノ宮、そういえばあいつ当主を名乗っていたな。
霧ノ宮の当主を名乗るということはすべての事柄について自身が責任を負うということ
あいつまだ姫様よりも年下だろうに。
そんなことを考えつつ兄弟を追っているのだが、いつまでたっても見当たらない。
二人が通った跡はあるのだが、追いつけない。
どんな速度で走ているんだあの二人は。こんな速度持つはずがない
そう思いながら、あの二人ならとも考えてしまう
そんな事を考えて仕方がないので岬は後を追う事に専念した。
そのころ二人は岬とは大体二山ほど離れた位置にいた
「兄ちゃん、ちょっと速すぎないか? 」
「そうか、そんなつもりもないんだが。まぁそうだな。あんまり早く行っても岬さんがついてこれないからな
ちょっと落とすか」
そうして二人は速度を落とす
「それにしてもここいらは、変な山が多いな」
「そうだな、静かすぎる。こんな事は初めてだ」
「そうだよな、何かあるのかな」
二人は辺りを見渡す
何の気配も感じない、山が死んでしまったようだ。
「兄ちゃんやっぱり気味悪いから、早く行こう」
「うーん、まぁ確かに長く居たい場所ではないな。飛ばすぞ」
そうと決まれば二人はあっという間に次の山へと移動してしまう
そうして二人は1日で愛純峠までたどり着いてしまう。
「今日はここいらで休もう。さすがに疲れた」
「そうだな、なにかあっちゃあいけねえからな。俺も疲れた」
二人は火を囲んで野宿の準備だ
「藤次。刀みせてみろ」
「ああ、大丈夫だとは思うけどな」
そう言って兄に刀を渡す。
兄は刀をじっくりと見る。
「大丈夫そうだな。じじいが作っただけはあるな」
「だろうな、むしろ切れすぎてちょっと焦ったよ。爺さんが俺の刀を寿命だって言った意味がよくわかる。
これと比べたら、あれは切れない刀だよ」
それから二人はあれやこれやと話し出す。
そうしているうちに夜が明けてしまった。
「ふぁー。さすがに眠いなぁ。少し寝てからでいいか」
「そうしよう。そうしよう」
二人は昼頃まで眠った
二人がこうも余裕をみせていたのはすでに良晏寺が見えていたからというのと
岬が追い付いてこれるようにである。
そうして寺までの長い階段を上り始めた。
「では、参りますか。良晏寺へ」
「これは一体何段あるんだ? 」
そんなことをいいつつも上り続ける二人とは逆に階段を下りて来る者がいた
どうやら坊主のようだが、良晏寺の者だろうか。
「なんだお前ら、そんな顔してもこの水あめはやらんぞ」
そういう坊主はみなりがあまりいいとはいえない奴で、何より酒臭い。
さすがの兄弟も関わらない方がよさそうという判断をする
そのまま無視をして階段を上る
そうしてようやく寺についた時にはもう遅かった。
寺には生きている人間が一人もいなかったのである
「あいつだな」
「あいつだ」
二人は入れ違いになった坊主のことを思い出す。
完全に油断していた。明らかに怪しかったのだ。
ただ、こんなことになっているという予想がたたなかった。
若い二人には仕方がないというしかない
明らかに経験が違いすぎるのだ
「あいつ今度会ったら確実に殺す」
「そうだ巻物はどこだ、あいつが持っていったのか? 」
「とりあえず探すか」
そう言って探し始める二人は探し出したが、少々雑であった。
扉という扉をどんどん開けていく、まるで物取りでも入ったかのような惨状の中
そこへ岬がやってくる。
「ちょっと貴方達、いったい何をしたんですか!こうれは一体どういうこと!
もう貴方達は目を離したらこんなことに、ああもう! 」
「なんだお前、着いてそうそう五月蠅いな。騒いでないでお前も探すの手伝えよ。」
「探す? 巻物をですか? どうして後のことを考えなかったですか」
「俺達がやったんじゃねえよ。着いたら全員死んでいたんだ。
大体どうして俺たちが坊主どもを殺さないといけないんだ」
「貴方達は霧ノ宮でしょ」
「あん、お前」
「やめとけ藤次。これだけ探してもないならもうないだろう。早く帰って報告だ」
「わかったよ、兄ちゃん」
「じゃあな岬さん。俺たちは先に戻るから後始末よろしく」
そういうと二人はあっという間にいなくなった
「もう、なんなのよ!」
岬の言葉は二人には届いていなかった
「世界ってもんはどうしようもなく臆病だな。だからみんな悪だくみをする。
まぁ仕方ないよな、これだけここに集中しちゃあ
みんな怖くなってしまうってもんよ。無自覚でいけない、強者ってやつは。」