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二人は外に出れることがうれしくて、須衣の山を駆け降りる。
「兄ちゃん、香芝ってどっちだ? 」
「あっちの方に歩いて行けば着くって母上が、そうだ。急ぐなって言っていたな」
「確かに言っていた」
「じゃあ、急がず行こう」
「わかった」
それは初めての二人旅。弟は幾度か山を下りたことがあったが、兄は初めてだった。
兄は兄として、弟は弟しての行動をとろうとお互い勝手に決めていたので、全ての行動は兄に決定権があった。
なので二人の行動は母親たちの思っていた通りには進まなかった。
弟は突っ走る性格だから母は急ぐなとちょっとした注意のつもりで言ったのだが、
兄は母親の言う事に過剰に反応する性格なので必要以上にゆっくり進むことになってしまった。
二人の足なら四、五日で着く予定の所をゆっくり進む。
なので、二人は初めは高かったテンションもだんだん沈んでいった。
飽きてきたのである。
「なぁ兄ちゃん、つまらんのだが」
弟にそんなことを言われてしまっては誠之助も申し訳なくなってしまう
どうにか兄として弟を楽しませてやらんといけない。
何かないかと考えた時、じじいが言っていたことを思い出す。
「山賊なんかも出るようじゃが、かかわらんようにな」
誠之助の頭の中には山賊という言葉だけが繰り返えされる
「藤次。どうやらこの辺には山賊が出るらしいぞ」
「そうなのか兄ちゃん。じゃあ山賊でも刈っていくか」
「そうだな。そうしよう」
そうして霧ノ宮兄弟の山賊狩りが始まった。
【子供二人に山賊どもが壊滅させらた】
そんな噂が徐々に広まり始め、
【その二人は霧ノ宮兄弟というらしい】
ということまで広まっていた。
道中二人は【霧ノ宮兄弟】という名が広まっていることを知り、
そこで二人が思ったことは『まずい、母上に叱られる』である。
そこで二人はどうすればこの状況を変えられるか考えてみた。
そして導き出した答えは、時間が経てばみんな忘れるだろうということ。
散々山賊を壊滅させたので懐には余裕があった。
だから二人の旅はいっそうのらりくらりとなったのである。
「なるほどの、そち達が遅れてきた事情はよう分かった。でもそれ我になにも関係なくない?
山賊とか我どうでもいいんだけど」
「どうでもよくないぞ。山賊狩りは楽しいぞ」
「我は楽しくない」
「母上はゆっくりでいいって」
「うむ」
「そうだぞ、母上が言ったんだから間違いない」
「そうじゃの、鮮血姫が言うのじゃから間違いない」」
「おほん。姫様」
「はっ、いかんいかん。我としたことが緩んでしまった」
「せんけつひめ? 」
「なんじゃ、お主ら鮮血姫を知らんのか? あの美して強い、この世の女性の最高峰と呼ばれる鮮血姫を」
鼻息荒くそんなことを言ってくるが二人そんな事知りはしない。
あの山でそんなことを口にすればどうなるか、里の者は知っていたからだ。
「誰だよそれ」
「主らの母上の事じゃよ。そんなことも知らなんで今までよう生きてきたのう。考えられん」
「姫様。そろそろ本題を」
「おお、そうじゃった。もう遅れて来たことはよい。
むしろこれだけ遅れて来たのじゃ、逆に清々しいくらいじゃ。
それでのう、この後お前らには荷路夫本陣紀平様の所にご挨拶に行くぞ。
お忙しい中わざわざ会ってくださるそうじゃ。
こんなことはそうそうないでのう」
そう言うと二人は静かにうなずいた。
荷路夫本陣紀平。この国の頭首にして最強、世界でも五本の指に入る。
太陽の目を持ち、扉を開けし者。
そして誠之助の父親である。