16
「私も歳ね」
花蓮は月を見上げながらつぶやく。
昔の事を思い出すなんて、こんな場所で。
ここは戦場の最前線である。
花蓮は誠之助と別れてからずっとここで戦っていた。
とはいえまだ小競り合い程度ある。
ただ、それももうすぐ終わるだろうと花蓮は考えていた。
あの大きな土壁ももうなく、明らかに向こうに人が増えてきている。
そろそろ一斉攻撃が始まるだろう。
その時こちらが耐えられるかは怪しい所だ。
とはいえもう覚悟は出来ている。
後はどこまで持ちこたえられるかだ。
次の日の朝、花蓮はドラの音に起こされた
ついに始まったのだ
「どお? 」
「うむ。あれは本隊じゃな。ここからは本気じゃ」
「そうか、では私たちも出るぞ」
そして花蓮は駆けていく、戦場を。
斬って、斬って、斬りまくる。
「危ない!」
突然降って来た剣士の一撃を宮が受け止める。
「おっとすまないね。加減が出来るほど器用じゃないんだ」
「すまぬ宮」
「なーに、構わぬよ。その為に来たんじゃ」
「あの小僧はいないようだな、まぁいい。鮮血姫の首をとればサジュタレヌ様もお喜びになるだろう」
「その呼び名を知っているってことはあんた古いのね」
「うっ、なんだお前に言われたくはない。私の方がまだ若いぞ」
ヴィアラオが斬りかかって来る
花蓮はそれを受け流し、そこに宮の刀が入ってくる
ヴィアラオは気合でそれを弾くと、そのまま剣を叩き込む
宮はそれを受けるが、膝が曲がる。
「これだから力技は嫌いなんじゃ」
宮が受けている間に花蓮が斬りこむ。
ヴィアラオはそれを紙一重でよけていく
「あら、器用じゃない」
「いやいや、この程度は」
その瞬間死角から宮の刀が伸びる。
ヴィアラオは躊躇なく左手を差し出す。
その差し出された手を花蓮の刀が斬り落とした。
しかしヴィアラオはその代わりに宮の体を二つにする。
宮は笑いながら倒れた。
「ヴィアラオ!」
怒号が上がったかと思えば、そこにはサジュタレヌがもう駆けつけていた。
「サジュタレヌ様。お恥ずかしい姿をお見せしてすみません」
「よい。もう下がっておれ。お前は私が斬る」
サジュタレヌにそう言われた時、花蓮は自分が斬られる情景が脳裏に浮かぶ。
ここまでか、そう感じた花蓮は最後に誠之助に会いたくなった。
浦山の匂いがふっと漂う
花蓮は夢でも見ているかのようだった。
会いたいと願った誠之助の姿がそこにはあった。
「ん、なんだ貴様は」
「サジュタレヌ様。そいつです。そいつが私の壁を三枚斬った奴です」
「ほう、そうか。では死ね」
サジュタレヌの剣を受け止めた誠之助は
そのまま刀を滑らせ、回転しながら斬りかかる。
自分の腹を痛めて生んだ我が子がすぐそこで戦っていた
正直もう会う事などないと思っていた。
【強くなったな、誠之助】
誠之助の怪しく光る刀がサジュタレヌの首元へ当てられた
その瞬間爆音が響き渡る
一つ、二つ、三つ。
停戦である
今、この時をもって停戦である。
誠之助は刀を鞘に納め、母上の元へ
命拾いをしたサジュタレヌは、斬られていたであろう首にそっと手を当てた。
「糞、糞糞糞。お前、覚えておれよ。次は確実に殺す!絶対に殺す!」
憤怒を抑えることなく、まき散らしながら去っていく。
「すみません、母上。遅れてしまって」
「良いよ誠之助」
そうして花蓮は誠之助の頭を撫でた
「まぁ、終わる時はこんなものだわな。今回の収穫は六絶苦が回収できたことぐらいか」
「あの方達もそれで満足したからここまでなんだろうよ」
「いやはや、醜いねこの世界は」