15
その日も月が綺麗な夜だった。
「ねぇ、私と一緒に遊ばない? 」
声をかけてきた女は襦袢姿で、月明かりの中でそれは怪しいながらも妖艶であった。
それ故、男たちは下卑た笑みを浮かべながら彼女に群がる
しかしながら男たちはあっと言う間に逝かされてしまうのだ、あの世に。
女の着物いつの間にか色を変え、真紅に染まっていた。
「姫様、勝手に出歩かれては困ります」
男は連れの者たちに指示を出しながら言う
「ああ、ごめんね。つい抑えられなくて」
女もまたちょっとしたいたずらでもしたかのように、悪びれる様子もない。
その女、霧ノ宮家十五代頭首 霧ノ宮花蓮
歴代の霧ノ宮の中でも最高傑作と言われる随一の使い手なのだが
衝動が抑えられず、今日もまた斬ってしまったのだ
「姫様、いくら何でも遊びが過ぎます。こう何度もですと私どももさすがに」
「分かったわ。今度から気を付けることにします」
「何度その言葉を聞いたことか。で、その今度はいつやって来るのですか? 」
「さて、いつかな? 」
彼女は人を認識するのが苦手だ
苦手と言うより出来ないのだほとんど。
大半の人間の顔は靄がかかったようになって区別がつかない
だから彼女は首を切る、不必要なものなのだから斬ってしまうのだ。
香芝に来てから花蓮はうんざりしていた。
そこら中に人、人、人、人だらけ。
うじゃうじゃと気味が悪い。
花蓮は早く戦場へ行きたかった。
こんな所ではまともではいられない。
でもいつまでたっても出陣の知らせは届かなかった。
だから今宵も街に繰り出す、自分を保つ為に。
とはいえ最近はあまり人を見かけなくなった。
どうも噂が流れているようで、出歩く者は阿呆ばかり。
それはそれで都合がよいと花蓮は思っていた。
「おい、そこの娘。こんな時間に何をしておる、危ないぞ。そうでなくとも最近は物騒なのに」
振り返ればそこに一人の男が立っていた。
花蓮はすぐに相手が誰だか分かる、荷路夫本陣紀平。
彼の顔を見て花蓮は今日は止めて置くことにした。
「そうですか、では帰ります」
「ちょっと待て、送って行こう」
「それは……ありがとうございます」
花蓮は断ろうとして止めた。
試したくなったのだ、紀平を。
次のこの国を背負って行くであろう人物を。
無言で歩く二人。
花蓮の後をだらしなく付いてくる紀平。
ちょうど角を曲がった所で斬りつけるが、簡単に交わされる。
「あら、手が滑ってしまいました」
「それはそれは、気を付けないといけないよ」
紀平は何もなかったかのようにまた歩き出す。
そんな紀平を見て花蓮は確信する。
【私はこの人が好き】
宿に付けば丸が出てくる
「姫様、またですか」
「いいえ、今夜は月が綺麗だったわ」
「ではな、霧ノ宮花蓮」
帰って行く紀平を見もせずに宿に入る花蓮。
丸はそんな二人におろおろとするばかりであった。