12
誠之助は初めの戦場で淡々と人を斬っていた。
誠之助の感情はいつも冷めていた。
藤次が暴れまわっているのを横目に、自分の役割をこなす。
だからと言って何も感じないわけではない。
母上が浦山を訪れるとき誠之助は嬉して仕方がなかったし、
藤次を連れてきて弟だと聞いた時も嬉しくて仕方がなかった。
たまに藤次がやってくる度に自分の中から湧き上がるものを抑えられずにいた。
浦山での暮らしはじじいと二人で、それはそれで悪いものではなかったけれど
やっぱり、家族といるのとは違った
浦山での誠之助の役割は薪を持ってくることである
毎日木を切る日々に不意に思ってしまった。『もっと早く切れないものか』
そして思い出す、じじいが試し切りだといって刀で木を伐り倒してしたことを。
思い出すとやってみたくなって、刀を持ち出して木を切って見る事にした。
確かこんな感じだったよなと、刀を振る姿はじじいと同じ。
初めてとは思えないその刀裁きで、見事に切ってしまった。
誠之助は簡単に切れるものだと思っていたが、そんな事はない。
母上が薪拾いに付いて来た時、刀を振るう姿をみせたら母上は喜んでくれた。
「誠之助、いつ覚えた? 」
「じじいが切ってるのを見た」
「見ただけで、教えて貰ったわけじゃないのね!」
「そうだよ。じじいみたいにやったら切れたから。そうだ母上、これも見てよ」
誠之助はまた刀を振るったが、今度は辺り一面の木が倒れていた。
それを見て母上は僕を抱き寄せて頭をくしゃくしゃにした
「誠之助、さすが私の子」
誠之助は母上が喜んでくれているということだけで嬉しかった。
木を切っただけでこんなにも喜んでくれる、そう思っていたが違った。
「誠之助、お前刀が使えるらしいな。じじいにもみせてくれんか」
そう言われて見せてやるとじじいはうなずくばかりでその日は終わったが
次の日からじじいが刀の使い方を教えてくれるようになった。
「なるほど凄まじいな、引き継がれていることは確定じゃな」
「どうしたじじい、もう終わりか」
「ああ、終わりじゃ。わしが教えることなどもうないわ。だからこれからは教えたものを研ぎすましていく作業じゃ
ここからは一人でやるんじゃ、わしは何も教えられないからな、ここから先は」
「うーん、分かった。」
といったもののどうすかなどなにも決めていなかったが、教えれたことを繰り返した。
ただ藤次が来た日は藤次に時間を使った。
誠之助にとっての刀はそこまで優先するものではなかった
ある日、浦山に十二人の剣士が集められていた。
その日は大会が行われた、優勝者には刀が贈られる。
もちろん真剣勝負、命のやり取りである。
誠之助にとっては初めて大人数の人間だった。
「誠之助ここでよく見ておけ」
そう言われてじじいの横で斬り合う人間を見ていた
人が息絶える姿を。
「お主が最後に残ったか、まぁ順当だな。では最後の相手はこいつじゃ」
そう言って放り出された誠之助、相手もどうしていいかわからないようだ。
「おい、本当に斬ってもいいのか」
「かまわんよ。斬れるものならな」
「すまんな餓鬼。恨むならあの人を恨みな」
そう言って斬りかかって来た相手を、誠之助は簡単に切り捨てる
これが誠之助が初めて人を斬った日であった。
次の日藤次がやってきた
「兄ちゃん、俺初めて仕事やってきたぜ。城をひとつ落としてきたんだ」
「すごいな藤次」
自分は一人しか斬ったことがないのに、藤次はその何倍も斬って来たのだ。
弟なのにただただすごいと思った。
そう藤次はすごいのだ、弟は何でもできてすごい奴なのにどうしてそこに倒れている
どうして藤次は動かない?
さっきまであんなに暴れまわっていたではないか!
「あ゛ぁぁぁぁ」
一瞬で誠之助の周りの人間は死んだ。
誠之助の刃が命を絶ったのだ。
「なんだお前は、お前も霧ノ宮か? 」
言葉を発した時には片腕が落ちていた。
駄目だ、駄目だ、駄目だ、こいつは駄目だ。
経験からくるものではない、本能がそういっている
確実に死がやって来る、その時喜三郎は生きることをあきらめた。
誠之助は内から何かが噴き出してくるようなそんな感覚の中で、敵の認識はしっかりと出来ていた。
ただ目の前がバチバチと火花が散り、頭の中で何かが切れた気がした。
「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」