11
母上が戦場に入ってから一気に戦況は変わった。
日に日に増えていく死人の数。
慣れてはいるものの、味方だったものが死んでいくのまだ慣れ無い。
相手も母上が来たとたんに攻めてきだしたところをみると
明らかに母上を狙っているのだろう
そんな中でいよいよ最前線へと出る日が来た
これがいうなれば初めての戦場である。
緊張はしていたが、笑みが止められなかった。
いざ隊を引き連れ最前線へ
周りは血肉の匂い、と死の匂いがしていた。
それにあてられたのか、藤次は暴れまわっていた。
当然ながら、一対多が当り前の世界で生きてきた藤次にしてみれば、何も怖くはなかった。
いつものように切り刻む、斬って斬って斬りまくる。
それこそが斬りの宮である
隊長の活躍に当然隊の士気もあがる
やばいぞうちの隊長。あんなにつよいのか。あれが霧ノ宮か
そんな声を背に藤次は辺り構わず斬っていく、それが彼の生きる意味なのだ
「ほう、あれは霧ノ宮だな。まったく私はついているな。こうも簡単にお目当てに出会えるとは。
はははは。なんとこの世は素晴らしい」
その男は駆けだした、藤次へ一直線に味方すらも斬り倒して。
そしてついに藤次と打ち合う
「なんだ、お前。気持ち悪い奴だな」
「はははは。そうかい。まぁ生まれつきでね、私は気に入っているのだよ」
そいつの腕は常人よりも長かった、故に間合いが取りづらい。
藤次は一息置く。少しばかり面倒臭い相手のようである。
ただ、負ける気はまったくしていなかった。
今なら何でも出来る、そんな感じすらする程に藤次は自分の中から溢れ出てくるものを感じていた。
「ああそうかい。まぁさくっと死んでくれ」
そう言って間合いを詰める藤次。
内に入ってしまえばこちらのものである。
その瞬間、目の前がぶれた。身体が自動的に回避運動を始める
藤次は距離を置いた
なんだ? と考えすぐに膝が入ったのだと気づく。
当然相手も準備はしているものだ、今までが簡単だった為についつい忘れてしまうが、ここは戦場だ。
気を抜けば殺される。
藤次は両手に刀を持った。
それが、本当の霧ノ宮の形である。
その両手を圧倒的な速度で振るう
これで決めると思っていた藤次だが、その刃はすべて弾き返された。
これには藤次も驚かされた。
なんだこのじじい、俺の刀の速度に付いて来れるのか。
「いやぁ、実に早い。私のような年寄りにはなかなかに厳しい攻撃ですね。
でも足りない。その程度では私は倒せませんよ」
こんな所では止まれない、まして母上が来ているのだ。
無様な姿など見せるわけにはいかない。
藤次は駆けだす
「また同じことの繰り返しですか? 芸がありませんね」
そんな相手の言葉など気にも留めず藤次は刀を振るう
何百と振るうその一瞬、刀を外へとはじき内へと入る。
当然のように膝が上がってくるが、一度体験したことは忘れない、藤次の両手にはもう刀は握られていなかった
膝を手で押しのけてさらに接近、懐から小刀を抜き取るとそのまま心臓に一直線に突き立てる
決まった、藤次はそう思った。
幾度も鍛錬を続けてきたものが実を結ぶ。
そんな瞬間だった
そうなるはずだった
「知っているぞ、私は!お前たちの戦い方を、殺し方を霧ノ宮」
確かに心臓を突き刺したはずの相手が動いていた。
そして相手の刃が藤次の胸を貫いた。
「嘘だろ」
藤次は崩れ落ちた。