寒さに負けず、ハムストリングスは歌うのですっ!
さてみなさん、この町にも雪の降る季節がやってまいりました。雪といっても、この町の雪ってのはちょっと特殊な雪なんですよ。
冬になると、決まって道端のハムストリングスが大合唱を始めます。カッチーニのアヴェマリアを大声で熱唱するんですね。そもそもこの町のハムストリングスって、このために植えられていると考えても差し支えないものなんです。もともと、町長さんに命じられたお役人たちが、我らがサラセニア火山隊長の親友であるジャネットの住んでいる隣町にどっしりと居を構えるヒメアシナガムシトリスミレのお姫さんが営むコーヒーショップで売っている苗木を仕入れてきて道端に植えたものなんですが、その熱唱ぶりがあまりにも美々しいもので、これを目当てに町にきてくれる観光客もいるといいのになと、町長さんが大いなる夢、グレート・イリュージョンをお抱きあそばされて、子分のお役人たちと一緒に毎年毎年新たな苗木を仕入れてきて道端という道端に植えて増やしていくようになったのです。今年植えられたもののうちいくつかは、ヒメアシナガムシトリスミレのお姫さんがいうには相当うまいバリトンのハムストリングスになるだろう貴重な苗木だっていうんで、町長さんはじめわが町の人々はみんな、この苗木の生長を楽しみにしているのです。
で、なんの話でした? そうそう、雪でしたね。このハムストリングスの大合唱が始まるころになると、伊勢海老の大群が海から出てきて、冬眠をするために一斉に空へと昇っていくのですが、このとき一緒に舞い上がった海水が、冷えて雪になって町中に降り注ぐのです。これがこの町の雪なのです。
さて、こんな季節になってしまったので、今日はサラセニア火山隊長はお気に入りのポメラニアンに身を包んで、首から足にまでかかる長いマフラーを巻いて、水仙の咲き誇る公園のベンチで熱々のコーヒーをすすりながら、コーヒーゼリーのショップで買ったトプカプ宮殿とムール貝の写真集を見ているのです。
「ああ、今年もついに、この季節なのね……」
そこへやってきたのは、彼女のライバルともいうべき存在……次期火山隊長の座を虎視淡々と狙う、お抹茶の化身です。
「そこをどきなっ、あたしゃお抹茶の化身だよっ!」
乱暴に言うお抹茶の化身に対して、サラセニア火山隊長は気怠げに返します。
「あらあら、お抹茶の化身ですかあ」
すると化身は、
「きいっ。なにさその態度はっ。きいっ」
そう言って去っていきました。
ところが、彼女は腹いせにトマトジュースで固めた木製の爆弾を買って戻ってきて、
「点火だよっ」
と言って点火してサラセニア火山隊長の座るベンチに向かって投げつけてきましたので、サラセニア火山隊長は慌てて交番に駆け込んで、
「ちょっと借りるわよ」
と言って、お巡りさんから上質なお抹茶のタネを借りてきて、お抹茶の化身に見せつけて追い払ったのでした。
「きいっ、お抹茶の化身のあたしに対して、なんてことをするんだいっ」
覚えてやがれと言わんばかりにアヴェマリアを熱唱して去っていった化身に対して、サラセニア火山隊長は、
「カモノハシではありません!」
とかっこよくセクシーに叫んでから、道端のハムストリングスを指揮してカッチーニのアヴェマリアを奏でたのでした。
こんなことがあった夜、一息ついて食べるアサリのお味噌汁は、さぞおいしいだろうなと思いますね。




