サラセニア火山隊長がはじめてアサリのお味噌汁をすすった日のこと。
さて、本日の町の天気は晴れでございます。晴れと言いましても、この町の晴れは、そんじょそこらの晴れとは一味違いましてね、タンクトップのイチジクどもが、牛車を引いて海の底から現れるんでございますよ。なので、海上がびしゃびしゃになる代わりに、陸地のほうが晴れるってわけです。
ただ、五丁目のカイワレタクアン通りの一角のみはちょうど海上に位置しているために、たまたまくじ引きでそこへ住居を投げ込まれてしまったハンマーヘッドシャークのギンちゃんは、町が晴れると海水のアメアラレで、塩辛くって気の毒なのです。
ハンマーヘッドシャークが不運のくじを引き当てたおり、われらが町のサラセニア火山隊長はたいそう慈悲深くあらせられたので、「かわいそうなギンちゃん、見てらんないわ」と言って、いっそのこと海底火山をひとつ横領してハンマーヘッドシャークにプレゼントしてやろうかともお考えになったのですが、これをタピオカ友だちの隣町のジャネットに相談したところ、あっさりと、「やめたがいいよ」と白目をむかれてしまったので、思いとどまったのでした。
そうそう、その夜でしたよ。気のいいジャネットに誘われて、サラセニア火山隊長は生まれてはじめてトラキアへ行って、アサリのお味噌汁をすすったのです。
「シジミやミイロタテハもいいけれど、アサリってとても素敵なのね」
うっとりとした声を出すサラセニア火山隊長に、ジャネットは心の底から嬉しそうな声を絞り出して、
「でしょでしょーっ」
と応じて去っていったのでした。
とまあ言った次第に、私が淡々と語っていくうちに、サラセニア火山隊長とその友人のひととなりと厚い友情と楽しい温泉旅行のようすとが、みなさんにも粗方おわかりになったことと思いますんで、私は今日はオイトマして、教科書の付録三十八ページ、オノマトペと睡眠導入剤の項を読んで寝るとしますか。
では、みなさん……ぐうぐう。