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サラセニア火山隊長はおまんじゅうが食べたい!  作者: かぐわしきかものはしのいるほどうにて
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ギンちゃんピンチ! シジミ三姉妹と雨水管っ。


 夕方。トースターズ・コーナーキックス市の、とある雨水管の内部にて。——


 こつ、こつ……と音を響かせながら歩を進めるのは、鋭い牙を持った(サメ)。海洋を泳ぐ海鷂魚(エイ)を好物とし、ズタズタに切り裂いて美味しくいただくという、海の捕食者(ハンター)……としてこの世に生を受けた、ハンマーヘッドシャークのギンちゃんなわけですが、平和な街のみなさんはいかがお過ごしでしょうか。

 さて、かわいそうなギンちゃんです。なにしろ、前回もうしましたように、シジミ三姉妹がかわいそうなギンちゃんを仕留めてやろうと狙っているってんですから。しかも、こんな狭い雨水管の中では逃げようったって逃げられるもんじゃございません。あっという間につかまって、ゲームオーバー。リセットしようったってそうはいかない。運の悪いことに、これはゲームじゃございませんから。


 そりゃそりゃそらそりゃ、来るわ来るわ。たぬき百匹、銭亀ぜにがめも裸足で逃げると噂のシジミ三姉妹が、ギンちゃんの肩甲骨の後ろ側に迫ってきたわ。こりゃもうだめだで。なにせ、かの茨木童子いばらきどうじの腕も敵わず、酒呑童子しゅてんどうじや浦島太郎でさえ姉妹の膝元にも及ばずで栗と一緒に味噌スープの具にされちまったってんだから、頼光らいこうのおっちゃんもおったまげだ。それはそれとして、今まさに餌食にされようとしているハンマーヘッドの目ん玉ふたつは、美なる敵がすぐ後ろに迫ってるってのにこれがなかなか気付きやしねえ。ちょっと先のお小仏こぼとけにご丁寧に胸鰭むなびれあわせてやがる。ああこりゃ感心だ、感心な鮫だよ、だがとっとと気付きやがれハンマーヘッドシャーク! くぁあぷぽぽくぁあぷぽぽ、ちりからちりから……ってなんの音だって、向こうのゴマガラが鳴ってる音だで気にするなハンマーヘッド。……あんまし言いすぎるとまるで悪口みたいだなハンマーヘッドって。和訳してツチアタマとでも呼んでやろうかこの撞木鮫(シュモクザメ)め、お目々を向けろよ後ろっ側、泥鰌(ドジョウ)に餌やってる暇はねえ!

 ああやっと気づいたときには時遅し。いやはじめからこの雨水管に入ったそのときからすでにゲームオーバーほぼ確定だってことは正真の胡椒の丸呑まるのみ、白河法皇もご存知ないとは仰せになるまいまいつぶり、ツノ出せと言われても撞木鮫にツノはねえってんで、「なんだこの野郎、鮫がシジミに逆らうか」って因縁つけて長女シズカが胸ぐらをつかむと、自慢の黒々とした頭でハンマーヘッドを突いてやったが、その黒き頭の硬きことシジミの殻のごとし。ちょっと舌舐めずりをする仕草しぐさは艶かしいことこのうえないが、どうやら聞いているとこの長女、私のように舌が回らぬと見える、やれやれせっかくの文句も舌っ足らずとくればその魅力ももはやあんまししたたらず。

 さて、あっけなく倒されてしまったあわれなハンマーヘッドシャークその名もギンちゃんともうす者、マウスもラットも助けてはくれずワルツを歌うよりほかになし。さてさて、この鮫に追い打ちをかけんと次女のジュリナの取りいだしたるは、猟犬の代わりに仕入れたという蜆蝶(シジミチョウ)ざっと五十円分なり。彼女がひとつ団扇を振ると、蜆蝶らは羽を動かし、バタフライエフェクトでもってあわれな鮫を責めたてる。蜆蝶らのお腹が鳴ると、「選手交代あんたの番だ」と一言、しかしこいつもあんまし滑舌がよろしくねえ。「おっと合点がてんだ心得た」と応えた三女のほうはアナウンサーにもなれそうな具合だが。

 三女のみーたんの派手派手しい羽織りの隙間より飛び出したるは、まさにその派手派手しいのと同じ色をした三色の蝶、その名もミイロタテハともうす蝶。この蝶は、南へ遊山ゆさんのおりにこっそり小袖へ入れて持ち帰ったところ思いのほか懐いたのでそのまま飼うことにしたっていう秘蔵のペットだそうな。それ以来、小田原だ鹿児島だ白砂青松の天橋立あまのはしだてだといろいろなところへ旅せども、この蝶を置いていくようなことはただの一度もなかったという。


 と、三女みーたんがお気に入りの蝶を出し、「覚悟はいいかハンマー!」とにたりにたり勝利確信の微笑みを浮かべておるところへ、「ふふふ、こいつ、レモングラスと合わせたらいけんじゃねーかしら」と長女と次女が口をそろえて言ってしまったが最後、この成功するはずだった狩は無残にも失敗へと舵を切ったのでありました。


「ニセモノニセモノニッセモノぅおおおおお!」


 どこからともなく現れた、自称レモンの妖精「しとろんろん」。そのあまりの轟音に雨水管は破裂してしまい、「おい、ずらかるぜ」「おっと合点だ」「覚えてなさい」の決めゼリフをまるでシジミが出水管から水を吐き出すかのように吐き捨てて、シジミ三姉妹はずらかっていきました。

 後に残されたハンマーヘッドシャークのギンちゃんは、先日ロートレックと友達になったというラッキーボーイの若い警官に雨水管を壊した犯人と疑われて署に連行されて海鷂魚(エイ)の丼をご馳走になってから、証拠不十分だから拘束不可能だってことで解放されたわけですが、そのとき、新たに彼自身の「世にも忌まわしい決めゼリフリスト」に追加されたばかりの「覚えてなさい」をまた聞くことになったのでした。

 でも、いつもお世話になっているお巡りさんから聞いたおかげで、「覚えてなさい」は早くも彼のリストから除外されることになって、一見一件落着ってところのようです。ということで、今日のお話もうまくまとまりましたところで、ういろうはいらっしゃりませぬか。

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