スーツケース・アタック!
平和な街のみなさん、ごきげんよう。わが町、トースターズ・コーナーキックス市では、フォンテーヌブローよりお越しの有名棋士さんが、ちょうどタップダンスを披露し終えて、物見櫓型ケーキを鑑賞しているところでございます。
ところで、聡明な読者のみなさんがたのうちには、「わが町」というのに「トースターズ・コーナーキックス市」という名前はどうなんだとお思いのご仁も、もしかしたらひとりくらいはいらっしゃるかもしれません。しかしまあ、この謎についてはですね、町いちばんの売上高を誇るデパートメントストアに文書での回答を依頼しましたところ、「しっ、知るかっ。きゃっ。」という文字の刻まれた紙粘土が返ってきたのみですので、堪忍したってください。
さて、サラセニア火山隊長ですが、彼女は駅にいます。なぜかというと、今日は隣町のジャネットがスーツケース・アタックの試合に出るっていうんで、応援に行くのです。
アナウンスが入って、キューカンバーのおしるこでデコレーションされた木製のトレインがやってきました。
「のりまーす」
サラセニア火山隊長は元気よく叫んで、バク転をくりかえしながらトレインに乗り込みます。そうしますと、里芋を象った有名な眼鏡をかけた運転手の肩甲骨がぴくりと動いて、トレインが発車するのです。
さて、夜になりました。スーツケース・アタックもいよいよ決勝戦。勝ち残ったジャネットは、決勝で青髭のボルボックスの従姉と対戦するようです。
観客席のサラセニア火山隊長の両隣には、予選落ちのお抹茶の化身と、はるか四百年前のジャパンから電車賃はたいてはるばる来たというのにルールがわからず一回戦で敗退してしまって暇になって売店内をうろついていたらたまたま話しかけてきたサラセニア火山隊長と意気投合してタピオカドリンクを奢ってもらって飲むのに夢中で試合なんかもはや見てもいないという有り様の明智日向守が座っています。サラセニア火山隊長は、お抹茶の化身の吐き出す八つ当たりの炎を挑発的な団扇で防ぎつつ、優雅に脚を組んで決勝戦を待っているのです。
軽自動車を担いだバニーガールがやってきて、試合前の儀式をおこないます。それが済むと、スーツケースと選手が入ってきて、罵り合いと会食が始まります。そして、それが終わるとようやく試合が始まるのです。
「おおっと、青コーナー、ボルボックスのぼるこ選手が夜空へぶっとばされたーっ! さあ、ゴングの用意だっ、スリーカウント以内に落ちてこなければ、ジャネット・ボワイエの勝利だっ!」
実況者が叫ぶと、太鼓を担いだキュクロープスがやってきて、カウントします。
「三だぜ! 二だぜ! ワーンっ!」
ごんごんごん。ゴングの鈍い金属音が鳴り響き、遅れて青髭のボルボックスの従姉、ぼるこ選手が落っこちてきて、空になった明智日向守のタピオカドリンクの容器の上へ着地しました。そこへ、お抹茶の化身の炎が直撃したもんだから、さあたいへん。
まあ、そんなトラブルもありつつ、サラセニア火山隊長は満足してるんるん気分で帰りましたとさ。




