悪役令嬢なんて乙女ゲームにはいませんっ!
私は今、芝生に寝転んでいたところを召使のおばあさんにめちゃくちゃ叱られていた。
いや、貴女を私は知らないしここはどこ?
辺りを見渡してみても、さっきの場所とは大違いだ。
ビル1つすらないまっさらでどこまでも続く青空で風はとても心地よい。
どうしてこうなった?
私の名前は田中真海。クラスでは目立たない普通の女の子であった。
乙女ゲームが大好きでその日も徹夜で攻略していた。今どきの乙女ゲームにはない設定と世界観が魅力に感じプレイをしてみた。だが、このゲームのシナリオがめちゃくちゃでしかもなかなか隠しキャラのルートが開かないという設定で朝からイライラしていて徹夜で頭がぼっとしていた。
だから道を渡ろうとしたときに赤信号だなんて気づかなかったのだ。ドンッと強い衝撃を受けたと同時に目の前にトラックが迫ってきていた。私は目を閉じその場から動けず迫りくる死を受け入れようとした。
次に目を開けると暗闇でスポットライトがマイクを持ったフードの男を照らしていた。顔は覆い隠していて見えない。
「あーあ、テステス」
ずっと男はブツブツマイクを持ちながら何かを唱えていた。私はとても怖くなって
「すみませんー!」
そう呼びかけてしまった。男は急に振り返り
「やあやあ!ようこそ!ところで君は転生には興味ある?」
「何かの勧誘ですか?」
「乙女ゲームにもあるだろう、悪役令嬢ってやつ。あれになってみないか」
「乙女ゲームに悪役令嬢はいません。というか今の乙女ゲームに主人公以外の女の子が出てくるのも当たり前な時代ですよ?」
急に変なことを言ったかと思ったら、とんでもないことを言った。私は彼に乙女ゲームに悪役令嬢は存在しない、一次創作で流行っただけで実際の乙女ゲームにはいないということ。主人公以外の女の子がいたとしてもよき友人という立場だということを教えた。
彼は考えるかのようなポーズを取ったあとに謝った。
「そうか、それはすまんかった。ただ令嬢としてでいいから乙女ゲームに似た世界に転生してヒロインが好きな男と結びつけてくれ」
「はぁ、それ私が断わったらどうなるんです?」
「救世主である彼女が死に、世界が滅びる」
ゲームでいうバッドエンドだとするならそれは一大事だ。私はひとつ聞いた。
「その彼女って可愛い?」
(乙女ゲームの)ヒロインはかわいいのが鉄則だ。同じ女の子として憧れる存在でもある。
「めちゃくちゃ可愛い」
「その話、受けます」
私はすぐ頷いてしまった。可愛いは正義仕方ない...。どっちみち頷かないと死ぬのだ。一遍違う人生を異世界で満喫するのもありかもしれない。
「具体的には何をすればいいの?」
「簡単さ、学園に通って彼女と親しくなればいい。何か困ることがあれば周りを頼りなさい。そうすれば世界は変わる。運命も変わる」
「それだけ?本当に?」
「もちろんだとも。さあ、時間がないよ」
「へ?ひゃあああああ!?」
足元がバカっと開いて私は奈落の底に落とされた。いつか会う時がきたらタダじゃおかないと思いながら。
かくして私は転生することになった。ただの令嬢として、可愛い彼女を応援しながら世界も救うために。
で、起きたら庭の芝生だったのだ。召使のおばあさんに貴女は誰?と聞いたら
「ば、ばあやをお忘れになられたのですか?!いくら学園に行くのがお嫌だからといえど酷すぎでは?!」
と叫ばれ医者を呼ぼうとする彼女を必死に止めた。
ベッドに寝かされ落ち着いたので、豪華な部屋の中でぐるぐるしながら今の自分のことをゆっくりと考えてみた。
クローゼットには一体何着あるのかというぐらいの服と宝石などの装飾品が入っていた。
「ひゃあ!」
横に置いてある鏡を見て変な声を出してしまった。私は黒髪のぼさぼさの女の子ではなく、茶髪のローズクォーツの瞳の似合う美人になっていた。
しかもナイスバディである...前世の自分が羨ましがっていたもの全て手に入っていてびっくりした。
そして、机の引き出しの中に1冊のノートがあった。何故か最初のページにしか書かれておらず次のページには何も書いていなかった。最初のページにばあや、自分の名前が書かれていた。
あの召使のおばあさん...ばあやは、幼い時から私の世話をしてくれた人物だと書かれている。今思うと申し訳ないことをしてしまった。
私の名前はアリソン・ロバーツという。ロバーツ伯爵の娘であるらしい。16歳。もうすぐ紳士淑女が通う学園に入学することが決まっている。
「旦那様がお呼びです」
ばあやが夕食を呼びに来た。お父さんってどんな人だろう。お母さんもいるのかな。ノートには書かれていなかった。
真海の頃は父と母には恵まれなかった。母は父に暴力を振るわれていたし、両親とも真海にも強く当たることがあった。
うーん、嫌なこと思い出しちゃったな。私は期待と不安を胸に扉を開けた。
「アリー大丈夫なの?」
「まさか僕達のことも忘れたのかい??」
扉をあけると美男美女が飛び出し私を抱きしめた。
あぁ、誰かに抱きしめてもらうなんて何年ぶりだろうか。私は涙が零れた。
2人はそんな私をみて不安そうにしていたので
「私は大丈夫です。ご心配をお掛けして申し訳ございません」
と言い、頭を下げた。令嬢の挨拶は乙女ゲームや小説などでなんとかできるだろう。
私の仕草を見て2人は安心した様子で席に着いた。よかった。あってたみたいだ。久しぶりの家族団欒の時を過ごした。
そして父が言った。
「でもアリーからあんな丁寧な言葉、仕草がでるなんて、甘やかして育ててしまったところもあるから心配だったんだ。これならトワン家の息子さんとも仲良くなれそうだね」
「そうね、2人ともよく喧嘩をしていたから...」
甘やかしてしまった??父様、母様...もしかして私はそうとうわがままな振る舞いをしていたのですか??
どうりで召使いがばあや以外にいないのですか?
これは悪役令嬢フラグ??でも乙女ゲームに悪役令嬢はいないはず。乙女ゲームに似た世界だもの。
でも、私はこんなファンタジーな乙女ゲーム持っていなかったような??あれ、最後にやったのはどんな乙女ゲームだった?
何かそれよりも大事な事柄がすっぽり抜けてしまっているような気がするのは何故だろう。
私は何故事故直前の記憶しかないのだろうか?
神様、ただの令嬢として暮らせばよいのではなかったのではないのですか??
というか、トワン家の息子って誰よ!!
神様、私の転生後は苦労ばかりかもしれません。
ここまで読んで下さりありがとうございました!