家の訪問者
家に着いたリゼはすぐさま寝室に逃げ込み布団を被るとそのまま寝てしまった。
リゼが次に目を覚ましたのは翌日だ。誰かに髪を軽く引っ張られて目が覚めた。
「遊んでー」
「朝だよー」
「お菓子ちょうだいー」
リゼを囲むように可愛らしい小さな妖精がひらひらと飛んでいる。この世界には妖精が存在していて、聖女のリゼは彼らの加護を受けていた。
妖精が言うには リゼの魔力がおいしいらしい。
「朝ごはん!」
「わかったから髪ひっぱんな、禿げる」
「リゼは剥げてるの?」
「引っ張ったら禿げるんだよ」
「そうなの!?」
知らなかったと呟く妖精を横目にリゼは起き上がった。
いつもよりも妖精がたくさん家の中を飛び回っている気がする。
そんな中でも、玄関口に妖精たちがむらがっているのに気がついた。
「どうしたー?」
「お客様だよー」
「朝っぱらから?今6時だぞ」
玄関までリゼは歩いていくとドアを開けて外を覗こうした瞬間、硬直した。
「おはよう、リゼ」
バタンッ。
なんかおかしい。
まだ夢を見ているのか、あの男がいた気がした。もう一度ドアを開いて確かめる。
「おはよう、リゼ」
「なんで家しってんの!?」
ドアの外にいるのは間違いなくあの男だ。
朝日で金の髪が輝き、深い青の双眸がこちらを見つめていた。あまりの事にリゼはすぐさま頭を抱えてしゃがみこんだ。
「どうした?具合悪いのか?」
「えっなに、仕返しに来たの!?」
「仕返し?」
意味が分からないというように男、ナヴァルは首を傾げた。
あんな事されたら普通、怒るものではないのか。
リゼは疑いの目を向けながら恐る恐る口を開く。
「脅しにきたんでしょ、あんた」
「違うぞ?」
「じゃあなんでここにいるのよ」
「それは惚れたからだな」
「はい・・・?」
ー待ってくれ。なにいってんだ、こいつ。
キラキラした顔で笑いかけてくる男にリゼは固まった。どこに惚れる要素があったのかさっぱり分からない。
「惚れた?ちょっと待って意味分からないけど!」
「ああ、君に惚れた」
「何言って・・・」
「君の蹴りに」
一瞬あたりが静まり返り、リゼの脳内は完全にショートを起こした。
「いやぁ、私はこの国の第三王子でな。誰も私に手を出さないし、叱られたこともあまりないんだが」
「・・・」
「私は上級鑑定のスキルをもっているから君の魔法で変えた目を見破ることは簡単だった。紫の目は聖女しかいない」
「・・・」
「はったりだったんだがな。だか、それよりも君の蹴りに魅入られた。」
恍惚として語りだす男にリゼは内心、焦っていた。
嫌いだから蹴ったのにどうして嬉しそうにしているのか理解できない。
しかも、第三王子と言えば王国騎士団の最高指揮官で麗しい容姿で貴族の令嬢からかなりもてている。
ちなみに前世の婚約者の息子に当たるので気まずい。
「まずは恋人から始めてみないか?」
「いやだ」
「痛たたたたっ。蹴られた所があおたんに」
「なっ!」
「父上に相談を・・・」
「恋人から始めましょう私達!」
父上とはたぶん国王だ。私が聖女だと言われたら平凡スローライフができなくなる。悔しいがやっちゃったことはしょうがない。
バラす気はないらしいから、しょうがなくだ。
「良かった。よろしくな、リゼ」
「アハハハ・・・、そうですね」
「俺はナヴァル・フィルナードだ、これでも騎士団をまとめているがリゼの回し蹴りはすばらしい」
「はあ・・・・」
「俺がよけれないなんてリゼは武術をしているのか?」
「してないけど」
「そうか」
嬉しそうなナヴァルを余所にリゼの心はブリザードが吹き荒れていた。
ー神様お願いします、一度貴方を殴らせてください!