最悪な事態
「お久しぶりです、アモン殿」
「久しいな、ナヴァル」
ー状況がまったくよめないぞ!
にこやかに挨拶を交わすアモンとくそ王族にそっくり男にリゼは放心状態になっていた。
「そちらのお嬢さんは?」
「ワシの孫みたいな子じゃ」
「へぇ、ずいぶんとかわいらしい」
いきなり話を振ってきた男はジロジロと
リゼを見てきた。寒気がしたのは気のせいではない。
不躾な視線に嫌気がさして思わず睨みながら口を開いた。
「何か?」
「先程はどうもありがとう」
「なんじゃ?知り合いか?」
アモンは不思議そうにリゼとナヴァルを
交互に見た。
「ちが・・・」
「そうなんです」
「だったら年寄りは退散しようかの」
ー待ってくれ!違うんだー!
否定しようとしたリゼを遮りナヴァルは頷く。リゼが否定する暇もなくあれほど年寄り扱いするなと言っていたアモンはそそくさ居なくなった。辺りが静まり返るとナヴァルはリゼに近寄っていく。
「リゼであってる?」
「なんだよ」
「そっちが素なのか?」
訳の分からないことを聞いてくるナヴァルにリゼは乱暴に言葉を吐き捨てた。だが、そんなリゼを気にすることなく話しかけてくる。
「君はなんか不思議だな」
「なにがだよ」
「紫の双眸を初めて見たからな」
「は・・・?」
確かにリゼは聖女だから紫の双眸だが、今は光魔法で青に変えているはずだった。
バレるなんてあり得ないことだ。
だが、ナヴァルは嘘をついていない。魔法で調べたから本気のようだ。
「まるで聖女のようだ」
「何言ってるんだ、あり得な」
「嘘をつくのは感心しないな、リゼ」
「なにが言いたい」
なんもかも知っているという顔で話す男に心底腹が立った。
我慢の限界だ。
くそ王族に似てるだけでも嫌なのに
秘密まで暴こうとするなど許せない。
迷わず片足を上げた。
「どうしッ!」
不思議そうに見てくる男に回し蹴りをお見舞いする。容赦なく蹴ったせいで男は呻いて踞った。
「同じ目に合いたくなかったら、二度と関わるな」
「待ってくれッ」
ー待たないわクソヤロウ。
ふんっと鼻を鳴らして男を見下し、這いつくばる男の手を踏んでおく。
「大事な場所蹴らないだけありがたいと思えよ」
男は顔を赤くして息を吐いていた。怒こりだしたらめんどくさいから逃げるようにリゼは走りだす。
二度と会わないと心に誓ってまっすぐ家までの道をリゼは疾走していった。