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カラフル・ドロップス

作者: 福 青藍

初めてかく短編です。未熟なところもありますが、読んでいただけたら幸いです。

心が温まる小説にしたつもりです。お願いします。

あるところに、あるゴミ置場がありました。

近くに住む、みんなは、そこにゴミを投げ捨てていました。

そのゴミ置場は、とっても臭くてとっても汚いので、みんな大嫌いでした。

それでも、ゴミ置場がないとみんな困ってしまうので、誰も

「無くしちゃおうよ。」

とか、

「潰しちゃおうよ。」

なんて言う人はいませんでした。

ある日、街のみんながいつものようにゴミを投げ捨てにきたときのことです。

ゴミの山が、ごそごそと動いて薄汚れたピンク色の毛玉が現れたのです。

あまりにも汚らしいので、みんなまじまじとみることはなく、

「あら、汚い。」

とか、

「うっへー。だからここは嫌なんだ。」

なんて顔を歪ませていいました。

そんな街の人の言葉は何も聞こえないと言うように、ピンクの毛玉はブルブルと震えて、真っ黒なビーズのような目をパチパチとさせました。



1週間ほどしてピンクの毛玉が、街のみんなから『毛玉』と呼ばれるようになったときのことです

学校帰りの男の子たちが、『毛玉』に手を差し伸べました。

すると、『毛玉』はびっくりしたように丸いお目目をパチクリさせて、幼い少年の指を、ガブリとかみました。

男の子たちは、

「ぎゃぁぁぁ!」

と泣き叫んで、近所の大人たちに、

「こいつは怪物だ!僕の指を噛んだんだ!」

と少し赤くなった人差し指を見せて回りました。

『毛玉』が指を噛んだ、と言う噂はあっという間に広がってみんなゴミ置場に近寄らなくなりました。



それから2日ほどがたったときのことでしょうか。

街のはずれに住む、頰のこけた青年が大きなゴミ袋を持ってゴミ置場へとやってきました。

他の街の人とは違って、青年は優しくゴミ袋を置きました。

日向ぼっこをしていたさらに汚くなった『毛玉』は、青年の姿に気づくと、ゴミ袋の陰にコソコソと隠れました。

青年は、『毛玉』の姿に気づくと、ポケットをごそごそとあさり、ニッコリと笑いました。

その笑い方は、まるで太陽が雲から顔を覗かしたときの温かな笑顔でした。

青年はポケットから手を出すと、『毛玉』の方に差し出しました。

その手には『毛玉』の毛色よりももっと濃く、上品な色のドロップがのっていました。

甘い、イチゴ味のドロップです。

『毛玉』は、おずおずとゴミの陰から手を伸ばし、ドロップを受け取りました。

『毛玉』は、手には毛がなくて、赤ちゃんのようなもみじ型の真っ赤な色をしていました。

『毛玉』は、小さな口から覗く真っ白で小さく、でも鋭い歯でドロップを砕いてペロペロと舐めました。

舐める舌は小さな炎のようでした。

青年は『毛玉』に話しかけました。

「うち、来るかい?」

それはそれは優しい声でした。

『毛玉』は、ツヤツヤとしたビーズのような目をパチクリとさせ、青年を足から頭までしげしげと眺めました。

そして、短い足をパタパタと鳴らしながら青年の手の元までやってきて、毛に埋れた鼻のようなものをひくひくとさせ、爪の匂いを嗅ぎ、人差し指を優しく、優しく甘噛みしました。

青年は、びっくりしたような表情をして、すぐに笑顔に戻り、『毛玉』を掬い上げました。

そして、愛おしそうに『毛玉』の頭を撫でて、何もいわずに家へと戻って行きました。



家に戻ると青年は『毛玉』を背の低いテーブルの上に乗せ、優しい声で言いました。

「君の名前を考えなければ。」

青年は、『毛玉』をしげしげと眺めて、満足そうに微笑みました。

「君の毛は、桃の花のようだからモモだねぇ。」

モモという名前がついた『毛玉』が、女の子か男の子か、誰も知りません。

でも、『毛玉』は、モモという名前が気に入ったようで嬉しそうに唸りました。

これからは『毛玉』ではなく、モモと呼ぶようにしましょう。


モモがゴミ置場からいなくなったことで、街の人は大層喜びました。

「ゴミと一緒に、持っていかれたんだよ。」

とか、

「もうここに飽きて、出て行っちゃったんだよ。」

とか、街の人は口々にそう言いました。

モモがゴミ置場からいなくなった、という噂はあっという間に広がって、みんなまた、ゴミを投げ捨てにくるようになりました。


青年の名は、ユキと言いました。

少なくとも、モモにはそう聞こえました。

青年は、病気がちそうな透き通りそうな肌に、どこか儚く消えてしまいそうな感じがしました。

でも、優しい笑い方はポカポカの、太陽のようでした。

青年は、街のはずれの小さな、古風な家に1人で住んでいました。

誰もその家にやってくることはなく、いつも1人でのんびりしておりました。

モモがやってきてからは、いつも微笑みを絶やさず、いつもよりもっと儚い感じがしました。

でもたまに、窓の外の木漏れ日を見ながら、とても辛そうな顔をしていました。

青年がどんなことを考えているのかは、モモには全くわかりませんでした。

この青年のことを、ここからはユキと呼ぶようにしましょう。


ユキは、いつもモモにいろんな味のドロップをあげました。

檸檬そのままをもぎったような、檸檬味。

夏の夜空のような、葡萄味。

夕日が沈むときのような、オレンジ味。

冬の晴れた空のような、ソーダ味。

晩夏の入道雲のような、ハッカ味。

いろんな味のドロップの中で、モモはなによりもイチゴ味が好きでした。

甘い甘い、初恋の色だね、とユキは言っていました。

モモには『ハツコイ』がなんなのか知りませんでした。

ユキは

「初めて人を大事にしたいな、って思えることだよ。」

と言いました。

モモは『ハツコイ』を知りました。

『ハツコイ』はイチゴ味で、人を大事にしたいと思えることです。


ある日モモは、背の低いテーブルの脚を噛んでいました。

ユキは優しくモモを引き離して、たしなめました。

「これはね、やっちゃったら、僕困っちゃうんだ。」

モモはよくわからないと言ったように唸りました。

ユキは笑って、檸檬味のドロップを出してきました。

「黄色は、忠告の色。忠告は、やっちゃダメだよ、って言ってもらうこと。」

そして、もっと笑って言いました。

「やっちゃいけない、の檸檬味。」

モモは、『チュウコク』を知りました。

困らせちゃ、ダメ、なのです。


ある日ユキは、モモに自分のアルバムを見せました。

その日は、ジメジメする雨が降っていました。

幼いユキの写真をみても、モモには誰だかわかりませんでした。

桃の困ったような目を見て、ユキは微笑みました。

「これね、全部僕の写真なんだ。」

ちょうどそのとき、お昼3時を示すからくり時計がなり、モモのお腹もちょうど、ぐぅ、となりました。

ユキはまた微笑んで、ポケットからドロップを取り出しました。

葡萄味です。

ユキはモモに言いました。

「葡萄味はね、僕が失恋した時に、いつも食べていたんだよ。」

モモには、『シツレン』がなんなのか、知りませんでした。

モモは分からなくて、グルルル、と唸りました。

ユキはいつものように教えてくれました。

「失恋はね、好きな人が自分を思ってくれないって、わかった時。」

ちょっと寂しそうな目は、窓の外の雨を見つめていました。

寂しそうだけど、愛おしそうな目でした。

モモは『シツレン』を知りました。

振り向いてくれない、葡萄味。


ある日ユキは、珍しく外に行きました。

まん丸の、モモを連れて。

ちなみにですが、昨晩モモはユキに毛を切ってもらいました。

ユキが

「モモ、毛伸びたね。切ろう。」

と言って、ハサミに怯えるモモを捕まえ切ったのです。

ユキはモモにちょっと噛まれて、痛そうに笑いました。

綺麗に散髪したモモは、ユキの手の中にうずくまっていました。

ユキは、家の裏の山に行きました。

草木の香りに包まれて、ユキは嬉しそうな顔をしました。

ユキはせっせとモモを抱いて山道を登って行きました。

なだらかな坂道を登って数分が経った頃、急にひらけた場所に出ました。

頂上です。

ユキは、満足そうに深呼吸しました。

モモも、真似て大きく息を吸い込みました。

ユキは、小さな模型のような街に、

「ヤッホー」

と叫びました。

モモも真似て、

「ガルルルルル」

と唸りました。

そんなモモの様子を見て、ユキは微笑みました。

ユキは、ポケットからオレンジ味のドロップを2つ取り出しました。

1つをモモに渡して、もう1つは自分の口に入れました。

「楽しいねぇ。」

ユキはしみじみと言いました。

モモは、『タノシイ』がなんなのか、なんとなく知っていました。

でも、『タノシイ』をしたことがありませんでした。

モモは、これが『タノシイ』なんだな、と思いました。

初めての『タノシイ』はオレンジ味。


ユキはいつも家にいます。

何をしているのかと言いますと、モモと遊んだり、ゆっくり外を見たりとか。

たまに、ユキはドロップを缶から全部出して、丁寧に薬包紙に包むことがあります。

端っこをキュッと結び、なんの味か、分からないようにするのです。

ある日、ユキは薬包紙を取り出して、引き出しからドロップの缶を取り出しました。

モモはそんなユキを見ながら、秋の風に吹かれようと、窓の脇で丸くなっていました。

ユキは、慣れた手つきでドロップを包んでいました。

すると、ジリリン、ジリリンと電話が鳴りました。

あまりにも突然だったので、モモは驚いて窓の脇から落ちてしまいました。

ユキも驚いたように受話器を取りました。

「大丈夫だから。ね?言ってるでしょ?」

ユキの話し声だけが聞こえます。

「もう疲れたんだよ。俺の人生なんだから、いいだろ?」

いつもは聞かないような、少し荒い口調でした。

しばらくして、怒ったように受話器を置くと、モモを抱きしめました。

「寂しいねぇ。」

さっきとは全く違う、いつものユキに戻っていました。

そして、包みたてのドロップを少し選んで、モモに渡しました。

「ソーダ味。寂しい味。」

そして、モモの心を読み取ったように言いました。

「『寂しい』はね、泣きそうなこと。」

そう言って笑いました。

「わかった?」

ユキは今まで見せたことのないような、寂しい笑い方をしました。

モモはなにもしないで、ユキを見つめていました。

モモは、『ナキソウ』が分からなかったのです。

『ナキソウデサミシイ』、ソーダ味。



窓の外に、雪がチラチラと降り始めた、寒い日のことでした。

ユキは朝になっても寝台から出てきませんでした。

モモがもぞもぞとユキの顔の方まで行って、耳をガブリと甘噛みしました。

ユキは閉じている目を開くことはなく、穏やかな口元も固く結ばれているような気がしました。

モモは、ユキの頰に一粒の水が流れているのに気がつきました。

その水をモモがぺろりと舐めると、少ししょっぱくて甘いような気もしました。

舐めた頰は恐ろしいほどに冷たく、硬く、真っ白な色をしていました。

お昼頃になっても、ユキは起きませんでした。

モモは何人かの人がぞろぞろとやってき、寝室へと上がっていくのを見ました。

見たことのない人たちでした。

女の人たちは、ポロポロと目から水を流し、口々に言いました。

「優しい子だったのにねぇ。」

「延命治療をしたほうがよかったのに。1人で暮らしたいなんて言い出して。」

「若いのに、白血病だって。」

「この顔を見ても、パァと起きてきそうじゃぁないかしら?」

モモの知らないようなことばかりでした。

「あんなに優しい雪歩くんが、死んでしまうなんて。」

どうやらユキのことを話しているようです。

モモはなんとなく怖くなって、隅っこへと逃げてしまいました。

あっという間にたくさんの人がやってきて、ユキの寝室へと入っていっては出てきてを繰り返しました。

しばらくすると、人々は急に帰っていきました。

1人の女の人だけが静かに目からポロポロと水を流していました。

ユキにそっくりの深い黒色の目をしていて、ユキにそっくりの深い黒色の髪の毛を肩あたりまで伸ばしていました。

モモはよくわからないまま、影から女の人を見つめていました。

気がつくと、女の人は帰って行きました。

モモは、コソコソとユキの寝室へと入り、寝台を覗き込みました。

モモは驚きました。

ユキはそこにはいませんでした。


ユキがいなくなって、モモは1人で寂しく丸まっているだけの毎日を送りました。

いつか、ユキが帰ってくると信じて。

モモはユキとの生活を、思い出していました。

いちごのドロップ、『ハツコイ』の味。

モモは、ユキを大事にしたい、と思っていました。

モモの『ハツコイ』。

檸檬のドロップ、『チュウコク』の味。

モモは、ユキの嫌なことはしません。

モモは、困らせない。

葡萄味のドロップ、『シツレン』の味。

ユキは、もうモモのことを思ってはくれないの?

モモの『シツレン』。

オレンジ味のドロップ、『タノシイ』の味。

モモは、ユキと過ごす毎日を、楽しいと思っていました。

モモの『タノシイ』。

ソーダ味のドロップ、『サミシイ』の味。

モモは、ユキがいなくて、『サミシイ』のかな?

モモの『サミシイ』。

モモは、思い出して、ビーズのような真っ黒のツヤツヤした目から、大粒の水を流しました。

みんなが流していた、あの水が。

懐かしくなって、ユキが昔ドロップをしまっていた引き出しを、開けてみました。

まず、ソーダ味が出てきました。

(『サミシイ』のソーダ味。他に、えぇと、他には……)

『ナキソウデサミシイ』

目から出た水が、流れて口に入ってきました。

スンと澄んだような、しょっぱい味がしました。

モモには、覚えのある味でした。

(ハッカ味だ!!)

モモは思いました。

モモはなんとなく気がつきました。

『ナク』とは、この水を流すことだ、と。

みんな『サミシクテナイテ』いたんだ、と。

モモは覚えました。

ハッカ味のドロップ、『ナミダ』の味。

ねぇ、ユキ?気がついたよ。ハッカは、ナミダ味。

ねぇ、ユキ?気がついたよ。だから早く、帰ってきて?


モモはずっと待っていました。

ずっとずっと、待っていました。

ウグイスが鳴いて、とても暑くなって、もみじが色づいて、雪が降って。

そしたらまた、ウグイスが鳴きます。

それでもユキは、帰ってきませんでした。


それからずっと後の話。

モモは静かに息を引き取りました。

モモは、ふわふわとした空気の上で、ユキにそっと抱かれていました。

まるで、ユキがモモを拾ってくれた、あの時のように。

モモには、それが昨日のことのように思えてなりませんでした。

モモはずっと覚えています。

『ハツコイ』味のイチゴ味。

『チュウコク』味の檸檬味。

『シツレン』味の葡萄味。

『カナシイ』味のソーダ味。

『ナミダ』味のハッカ味。




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