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波乱万丈の魔術師  作者: 流星明
第1章 世に再び現れる英雄
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第9話 セリスとバランの補償交渉

「「「「セリス=ヴァイツァーだとおおお!! こ、殺される。逃げろおお!!」」」」


目の前にいたのが、ヴァンパイア王を殺した化物だった。それを知ったモートン配下たるヴァンパイア達は、一目散に逃げ出そうとする。だが、地面より突如現れた植物の蔦によって、足や腕を絡め取られて捕まっていく。


「往生際が悪すぎますね。ちなみに、こちらの男性はカレル=バーネット様です。殲滅の魔術師と言えば分かりますね?」


最早、色々な事が起きすぎて思考停止に陥るヴァンパイア達。リーダーたるモートンは、恐怖に震えながらもカレルに疑問をぶつける。


「な、何で、ヴァンパイアの宿敵がビスティ王国にいるのだ。そこまでして、我々を滅ばしたいのか!」


「‥‥いや、仕事だ。泥棒する馬鹿を捕まえる、それだけさ。折角、俺とファーブルが基幹産業に育てた果樹園。荒らしたからには、相応の報いを受けてもらおう。モートンとカミーラは捕らえ、後の者は公開処刑だ。広場に黒い布で覆った牢を作るから、中に入ってもらう。後は分かるだろう?」


自分達の運命を悟ったヴァンパイア達の反応は様々だった。泣き叫ぶ者、命乞いをする者、カミーラ達を批難する者等だ。彼らを見て、ライラは助命を願うべきか考え、メディアを見る。彼女は首を横に降る。


「姫様。彼らを許せば、ヴァンパイアの権威は回復不能なまでに失われます。戦争状態であり、敵国で行うなら略奪は戦術として認められましょう。しかし、今は停戦状態で中立国での略奪です。ビスティ王国が敵対するような事になれば、人間達に利を与えてしまう。ここは、カレル様の仰せの通りに」


「分かりました。カレル様、このような不心得者を出してしまい、王族として申し訳ありません。ファーブル様にも恥ずかしくて顔を見せられませんが、謝罪と補償を致しますわ」


ライラの謝罪に、カレルは困った表情を浮かべる。彼女は制止すべく行動し、しかも幽閉までされている。むしろ、被害者と言っていいからだ。


「肩書というのは面倒な物でな。ヴァンパイアの王族たるライラには、同族の不始末を片付ける義務がある。あんな馬鹿でもな。カレル。お前はモートンを連れていけ。私はカミーラを運ぶ」


セリスは、カレルを諭すとカミーラを運ぶべく彼女に近づく。次の瞬間、カミーラの体が消えた。見れば、ヴァンパイア達の姿も無い。残っているのはモートンだけだ。怯える彼の側に、1人の魔族が空から降りて来る。短く刈り揃えられた黒い髪と金色の瞳を持つ少年は、その場にいた人物達がよく知る人物であった。バラン=ローディオ。魔族側からは魔王の後継者候補として、人間側からは気まぐれな破壊者として知られている。


子供がいるからと教会を壊さず放置しつつ、他の建物は全て焼き払った。邪魔だからと遺跡を粉々に砕いた。気に入らないと言って、恭順してきた人間達を皆殺しにした事もある。気まぐれな性格を持つバランは、人間側からすれば対策に困る厄介な魔族だ。当然、カレルとセリスも警戒を強める。だが、彼のとった行動は、思いがけないものだった。


「今回の件はすまないね。彼らは、我々で処分させてもらうよ。魔族の恥をこれ以上野放しには出来ないから」


魔王の息子が頭を下げる事態に、その場にいた全員が動揺する。部下の不始末とはいえ、王族が出てきたのだ。あり得ない状況に戸惑うカレル達だが、1人だけ平常運転の人物がいた。


「あら、バラン様じゃありませんか。 しっかりとご飯を食べていらっしゃいますか? 好き嫌いをして、料理人を困らせてはいけませんよ」


「変わらないな、メディアは。君が絡んでいると聞いたので、父上が心配してな。だから、近衛騎士の1人である俺がやって来たんだ。さて、カレル=バーネット、セリス=ヴァイツァー。父上からの伝言だ。『此度は、とんだ不心得者を出した。ついては、言い値で補償を行わせてもらう。そね代わり、今回の件を無かった事にしたい』と言われたけど、不満はあるか?」


「‥‥なあ、師匠。これって交渉じゃなくて、命令なんじゃないか?」


「カレル。はっきり言うが、従うしか無さそうだ。いくらファーブルと言えど、魔王とやり合いたくはあるまい。分かりました、バロン様。その命令、しかと承りましょう。補償に関しては、迷惑料込みで物資の返還に加え、金貨1万枚でいかがでしょう?」


セリスの提案に、バロンは少し考える。今回、ヴァンパイアが奪った物資の時価総額は金貨5000枚程と聞いている。その倍を請求してきたのだ。なかなか強気の交渉術に、バランは面白いと感じた。なにせ、普段は自分の意見が通るのは当たり前で、交渉や異論等聞いた事が無い。故に、彼はセリスとの交渉に応じてみた。


「これは、これは。確か、物資の時価は金貨5000枚と聞いている。迷惑料が5000枚とは、セリス殿はふっかけ過ぎだと考えるが?」


「いいえ、バラン様。貴方は物資だけを見て、その他を見ていません。それらの物資は商品として扱われ、既に売り主が決まっております。物資を取り戻してから、各地に輸送する為の船や馬車の代金。期日に遅れた事に対する違約金、それと果樹園の修繕と整備費用を含めますと妥当かと」


セリスの説明にバロンは納得する。確かに、物資以外の状況を失念していた。違約金やその他の代金も鑑みれば、ある程度の金銭を支払うのはやむを得ないだろう。しかし、金額が桁違いだ。バランが魔王に払えると言われた金額は、金貨7000枚。何とか、そこまで抑えたい。


「とはいえ、この案をもって帰ると父上に殺されかねん。とりあえず、5500枚でどうか?」


「話になりません。ですが、バラン様の立場も考えて私達も勉強しましょう。7500枚でどうでしょうか?」


あっさりと2500枚も減額してきたセリス。正直、バランはホッとしていた。それには理由がある。


(父上は、絶対に戦いは厳禁と言われたからな。更に、メディアがいる。彼女は魔族監視官の職務に未だに就いている。当然、父上に報告がいくだろう。この交渉の詳細も報告するだろうから、下手な事は出来ん)


気を引き締めて、バランは改めて交渉を続ける。


「ちっ、まだ高すぎるな。6000枚ではどうだ? 我々としても、あまり大金は出せん。そちらの教皇が、聖十字軍を召集したのでな。意味は分かろう?」


戦争になるかも知れないから、大金は出せない。そうバランは言っている。だが、それはセリスも折り込み済だった。


「細かく刻みますね。安心して下さい。あの馬鹿の求心力は、諸々の事情で軒並み低下中ですから。しばらくは、軍の編成もままなりません。では、涙を飲んで7000枚でどうでしょう?」


「少しも泣いておらんだろうがああ!! 間を取って6500枚だ! それ以上は出さん。ここにいる奴と一緒に、俺まで仲良く処刑されてしまうからな」


7000枚までは出せるが、少しは減額したい。そこでバランは、地面に転がっているモートンを利用する。もし、バランが処刑されれば理由を問われるだろう。当然、ヴァンパイアの行った行状が明らかになり、ヴァンパイアの権威は地に堕ちる。それを避けたいなら、この金額で納得しろと言う訳だ。バランの考えが読めたセリスは、交渉を終わらせる。


「分かりました、バラン様。この金額で結構です。私もライラを傷つけるの避けたいので。それでは、こちらにサインをして下さい。契約書で御座います」


差し出された契約書には、先程話されていた内容が書いてあり、既にカレル、セリス、ライラのサインはしてあった。バランは再度内容を確認した後にサインをする。だが、契約書自体に不審を感じ、セリスに質問する。


「ちょっと待て。なあ、セリスよ。この契約書、誰が準備した?」


「バラン様、私のですよ。しっかり、約束を守って下さいね。でないと‥‥」


嫌な予感が的中し、バランは頭を抱えた。力こそ正義あるいは約束破り上等な魔族ですら、絶対に守る契約書として知られているメディアの契約書。その呪いは、人生すらも狂わせる。


「おい、あの凄惨な状態に陥る呪いの契約書か。契約を破った叔父上が『お漏らし魔族』だの『脱糞魔王』だのと笑われ、山奥に引きこもったという恐怖の代物。野心の塊だった叔父上を隠者に変えた位だ。絶対に約束は違えん。しかし、君らも今回の件を口外はしないでくれよ。口外したら、名前を書いた全員にも呪いが来るからな」


バランの忠告に、名前を書いたカレルとセリス、ライラは顔を引きつる。そんな彼らに止めを刺したのはメディアだった。


「皆さん、気を付けて下さいね? あと、追加情報です。排泄が近くなると音楽と歌が流れますから。ちなみに限界に達するとドラゴンの咆哮ばりの音量が響きますから、近所迷惑になりますし」


「「「どうして、そんな危険な物を作ったあああ!!!」」」





次回は、補償金の使い道ついてとバランによるカレル達への依頼の話です。

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