第6話 獣人王との会談
後半部分と後書きを少し改稿しました。
ビスティ王国王都ギャレスの中央にあるビルト城。大戦終結後、群雄割拠だった獣人達をまとめあげ、ビスティ王国を作ったファーブルの居城である。その謁見の間にて、ファーブルは対応に困る者達との会談を行っていた。
多くの文官や武官が固唾を飲んでいる中で、カレルは今までの経緯を語っている。彼の語る事実は、大戦を知る者にとっては信じ難いものだからだ。
「‥‥と言う訳で、俺達はライラ=ベルクスの従者になったんだ。ファーブル、ライラ達の亡命を受け入れてくれないか?」
「セリスがヴァンパイアとして生きている。それだけでも驚きなのだがな。お前とセリスが敗れ、主従契約を結んだと聞いても信じられんぞ」
玉座に座りながら、金色のたてがみを撫でつつ4人を見渡すファーブル。獅子人である彼は、持って生まれた才能だけで満足せず、セリスの下でカレルと共に修行していた期間があった。修行する中で人外の実力を示す2人に、何度もファーブルは負けた。そんな師弟を負かせる相手が、目の前にいるダークエルフだと言う。とても信じられるものではない。
「悔しいが事実だ。ライラはともかく、そっちのダークエルフは化物だぞ。私達が手も足も出なかったからな」
「そうか‥‥。ならば、俺が試してやろう。そこなダークエルフ、遠慮はいらん。掛かってこい!」
玉座から立ち上がるや、ファーブルは闘気を全面に出して構える。初手から本気を出す彼を見た獣人達は驚愕した。彼が本気で戦うのを久しぶりに見たからだ。指名されたメディアは薄く笑みを浮かべ、立ち上がる。
「構いませんよ。闘神と名高い獣人王と戦えるとは光栄です」
「その心意気や良し! さあ、行く‥‥ぬう!!」
いつの間にかファーブルの後ろを取り、短剣を首筋に当てるメディア。誰にも動きを感知させなかった彼女は、微笑みながらファーブルに迫る。
「ファーブル様。まだ戦いますか?」
「マジかよ。俺が何も出来ずに背後を取られるとはな。分かった、降参だ」
両手を上げて降参するファーブル。あっさり負けを認めた彼は玉座に座り直す。短剣を鞘に仕舞ったメディアもライラの隣に戻ってひざまずく。あまりの出来事に静寂に包まれる謁見の間。ここで沈黙を破ったのはライラだった。
「ご無礼をお許し下さい、ファーブル様。ですが、メディアの実力はご覧になった通りです」
「ふん、どうやら実力は本物のようだな。良かろう、ビスティ王国は、ライラ殿とメディア殿の亡命を受け入れる。ところで、メディア殿。君は何者だ? 7大魔将の中には名前が無かったが」
「分かりました、お答えしましょう。ファーブル様、私の正体は‥‥」
負けて少々不機嫌なファーブルに対し、メディアは自分の正体を明かそうとする。他の者達も気になっていたので、静かに聞き耳をたてていた。メディアの過去を知らないライラも気になるのか、彼女の返答を待つ。
「そこらにいる、ただのダークエルフですよ」
「「「「「お前(君)のようなダークエルフが、そこらにいてたまるかあああ!!」」」」」
ファーブルやカレルを筆頭とする心からの叫びが、謁見の間にこだまする。ライラは呆れているし、セリスも頭を抱えている。メディアは気にもせず、笑みを浮かべていた。
「あらあら、女の過去を詮索するのはいけませんわ。そんな事をしたら、モテませんよ? さて、カレル様。ファーブル様の許可も得ましたし、屋敷に参りましょう。確か、王都の武人街に立派な屋敷がありましたよね?」
「何で知っているんだよ! メディア、他に俺の何を知っている?」
何を調べたのか分からないだけに、とりあえず聞いてみたカレル。これは墓穴を掘る行為であり、彼の身に悲惨な結末を招く。
「そうですねえ、セリス様以外に抱いた女性がいる事でしょうか? 名前はレーナ=マウロン様。かなりの肉食女子で、カレル様を押し‥‥」
「ぎゃあああ! 止めろ、止めてくれ。それ以上言ったら殺すぞおお!!」
まさかの暴露に、カレルは絶叫する。レーナ=マウロンは12聖騎士の1人で、優秀なアサシンである。セリスの情報を集め、カレルに教えていたのは彼女であった。しかし、セリスの事しか見ていない彼に対し、いらだったレーナは思い切った事をする。
媚薬入りの酒をしこたま飲ませ、自分を抱かせたのだ。作戦は上手くいき、関係を持つ事に成功。以後、情報料と引き換えに関係を結ぶという事を繰り返している。と、メディアが説明した後で、セリスが立ち上がる。たちのぼる殺気に、近くにいた獣人達が脱兎の如く逃げ出してしまう。
「ほほう? 人が苦しんでいる時に女と遊んでいた訳だ。じっくり話し合おうか、カレル?」
「や、止めてくれ。師匠、待って下さい! これには深い訳が、ぐおっ!」
「言い訳は後で聞く。ファーブル、邪魔したな。また来るぞ」
思いきり剣の峰で叩き、気絶させた彼を引きずって、セリスは謁見の間を後にする。これから起きるであろう惨劇とそれに伴う後処理を考え、胃が痛くなるファーブル。
「‥‥おい、メディア殿。君のせいで、王都が破壊されそう何だがどうしてくれる? しかし、レーナがなあ。あいつはカレルを昔から好きだったから、仕方がない気もするが」
ファーブルとレーナは、聖騎士時代からの付き合いだ。その後も、ビスティ王国に足りない諜報の手助けをしてくれている。もっとも、仕事報告後にカレルの愚痴を垂れ流すのは困りものだが。
「私が止めますので、ご心配には及びません。ファーブル様、私達の力が必要な時はお呼び下さい。住まわせてもらっている分、働きますので」
「そうか。ならば、早速働いてもらおう。果樹園で胡椒や果物を大規模に盗む泥棒が出て困っている。誰も泥棒の姿を見ていないので、捕らえる事が出来ないのだ。カレルとセリスに、君達なら泥棒の正体を突き止め、捕らえる事が出来よう?」
「承知しました。カレル様とセリス様にもお伝えしましょう。それでは、失礼致します」
ライラとメディアは頭を下げ、セリスを止めるべく足早に去っていく。それを見届けたファーブルは、深々とため息をついた。
「要らぬ騒動が増えそうだな。まあ、あいつらの実力は本物だし、きっと泥棒を捕まえてくれよう。しかし、あのダークエルフ。本当に何者だ? 詳しく調べる必要がありそうだな」
次回、ビスティ王国にヴァンパイア来襲。