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波乱万丈の魔術師  作者: 流星明
第1章 世に再び現れる英雄
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第4話 普段はメイド、戦時はアサシン

「カレル、敵の位置は分かるか? 私でさえ、気配を掴めないとは。敵は相当な手練れだぞ」


姿は見えないが、焼け残った木々の中に潜んでいるのは間違いない。カレルと自分に己の居場所を掴ませない潜伏技術の高さに、セリスは感嘆の声をあげる。


「師匠、俺が奴を誘き出す。奴の弱点は、主人を見捨てられない所さ。だから‥‥、ウインドカッター!」


「おい、馬鹿弟子。止めろ!!」


複数の風刃がカレルの杖から、ライラに目掛けて放たれる。当たると思われた瞬間、彼女の前に短剣を持ちメイド服を着た女性が現れた。右手に持った短剣を振り、風刃を切り捨てる。そして、左手に持った短剣を素早くカレルに投げつけた。目に見えない程の早業で、避ける事も出来ない。短剣はカレルの左肩に突き刺さり、鋭い痛みをもたらす。


「ぐうっ、お前。短剣に毒を塗ってやがるな。手に痺れが出てきたぜ」


「動けない姫様を利用する外道がいた相手ですからね。ちなみに、それは麻痺毒です。しばらく動けませんよ? 殲滅の魔術師も存外弱いんですね」


「メディア、怖かったよう」


涙を流しながらも、安心したライラはメディアと呼ばれた女性に抱きついた。銀髪に尖った耳、褐色の肌の容姿を見て、セリスは驚く。


「ダークエルフか。本来エルフは同族と生活するが、異種族。しかも、ヴァンパイアと行動するとは珍しいな」


「姫様、大丈夫ですよ。私が守りますから。‥‥貴女には関係ない事です。私は姫様を守ると母君に誓いました。例え、12聖騎士相手でも私は引きません」


魔剣に力を込め、威嚇するメディア。その気迫は対峙している2人に負けず劣らない。自分と互角の実力を持つ存在に初めて会ったセリスは、内心喜んでいた。ヴァンパイア王と邪竜の力を持った自分に敵う相手がいた事に。


「私が相対したヴァンパイア王より、実力は数段上だな。面白い、受けて立つ。いけるか、カレル?」


「‥‥よし、何とか毒は治したぞ。大丈夫だ、師匠。さて、メディアだったか? 俺達と会った事を後悔させてやろう」


左肩に刺さった短剣を抜き、回復魔法をかけるカレル。実際は毒が完全に抜けず、肩の治りも悪い。口では強がっているが、虚勢に近かった。しかし、ここで退く訳にはいかない。愛する女を残して逃げるのは、2度と御免だ。


「ふふっ、お気付きになりませんか? 貴方達の実力では、私に勝てませんよ。だって、まだ本気を出していませんから」


メディアの体から強烈な殺気と闘気が放たれ、2人を襲う。この瞬間、カレルとセリスの手足が震え、恐怖で体が動かなくなった。圧倒的な実力差。それを体感した2人は、その場に何とか踏み留まる。最早、退路は無い。


「さあ、始めましょうか? 少しばかり強くなった人間に、身の程という物を教えて差し上げますわ」


「カレル、来るぞ! 魔法は使わず、回避に専念しろ!」


「分かってる! 畜生、こんな状況は久しぶりだぜ」


そう言った途端に、メディアの姿が消える。辺りを武器を構え、警戒する2人。彼らは必死にメディアの気配を探り、先手を取ろうとする。その行動をあざ笑うかのように、敵は動く。


音も無くカレルの前に姿を現したメディアによって、カレルは全身を切り刻まれた。2本の短剣による鮮やかな乱舞。体に10ヵ所近くの裂傷を受けたカレルは、魔法を使う事も出来ずに崩れ落ちる。


「ま、マジかよ。俺が何も出来ないなんて‥‥」


「カレルが瞬殺だと! ならば、私が!!」


セリスは、カレルに攻撃したメディアに間断無く魔剣を振るう。ところが、攻撃がまるで当たらない。剣筋を見切ったのか回避される上に、短剣で的確に反撃を受けていく。


気付けば、セリスの上半身は傷だらけで、おびただしい血が地面に滴り落ちていた。それでも、彼女は諦めない。魔剣を上段に構え、メディアに向かって降り下ろす。


「さすがは、12聖騎士最強の呼び声が高い方ですね。そこらの雑魚魔族等軽く殺せるでしょう。とはいえ、私には勝てませんよ」


セリスによる渾身の斬撃は、メディアの2本の短剣によって受け止められる。だが、これこそセリスが待ち望んだ状況だ。そのまま家の壁にメディアを押し付けると、魔剣に膨大な魔力を込める。


「かかったな、ダークエルフ。喰らえ、ゴッドブレイカー!」


魔剣に流れる魔力を解放し、メディアに向けて押し流す。短剣が粉々に砕け、次いでメディアの体も灰と化した。カレルの家も消し飛び、辺りには大量の土煙が舞い上がる。


ゴッドブレイカー、魔剣で触れた敵を粉砕するセリスの必殺剣。ヴァンパイア王を仕留めた威力は、魔王軍でも恐怖を覚えたものだ。


「さ、さすがに、ここまですれば死んだだろう。カレル、今‥‥ぐっ」


頭を強打され、気絶するセリス。地面に倒れ込む彼女を見て、メディアは喜びをあらわにする。何せ、ここ100年近く彼女の影分身を倒せる者が現れなかったからだ。


「私の影を倒せるとは驚いたわ。セリス=ヴァイツァー、姫様の臣下として相応しいようですね。こちらのカレル=バーネットも囲いましょう。彼は、姫様の見てはいけない姿を見てしまっていますし。しっかり、責任を取って貰わないと」


「メディア、終わったの? ごめんなさい、私のせいで‥‥」


ようやく落ち着いたライラが、恐る恐るメディアに近付く。叱られる事を覚悟しての事だ。そんな主君を見て、メディアは苦笑する。彼女が焦る理由も分かるだけに、あまり強く叱れないからだ。


「御無事でなによりでした。まずは、ここから離れましょう。お説教はそれからです。それと、あのような言動はお止め下さい。カミーラ様の馬鹿が移りますので」


「あの言動をした方が偉そうに見えると思ったの。分かりました、止めますね」


「では、すぐに転移致します。ビスティ王国の兵士も動き出したようですからね。テレポート!」


メディアは転移魔法を起動させ、ライラと倒れているセリス、カレルの3人と共に転移した。しばらくして、騒ぎを聞き付けたビスティ王国の兵士達が駆けつけるも、焼かれた森と何も無くなった地面を見て呆然とする事になる。





次回、カレルとセリスがライラに従わされます。メディアは、かなりの実力者で、あちこちの陣営から勧誘される程です。

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