第29話 イローナとレーナへの報告
夕方、ライラとヴェラと共にヴェネルセへと帰還したカレル。体の疲労をおして領主館にて執務を行っていると、イローナが部屋に飛び込んで来た。狐の耳と尻尾が大きく膨らんでおり、怒っているのが分かる。その後ろにはレーナもおり、何とも言えない顔だ。
「カレル、ヴェラ様とライラ様が吐きました。お2人を抱いたそうですね?」
どうやら、2人とも喋ってしまったようだ。おそらく、イローナの尋問で吐かされたに違いない。怒った時の彼女は、それはそれは怖すぎるからだ。
「イローナ、落ち着きなよ。聞けば、妖魔術師団長マルフォンに仕組まれたらしいじゃないか。遂に、あの2人とも関係を結んだんだ。私もうかうかしてられないな」
「うぅ、折角婚約者になったけど皆に先を越されてます。カレル、今夜部屋に行っても良いですか?」
上目遣いで見るイローナに、カレルは何も言わずに両手でバツ印を作る。それを見たイローナとレーナも、彼の尋常じゃない疲れに気付く。
「か、勘弁してくれ。ヴェラとライラに血から何から搾り取られたんだよ。しばらくは無理そうだ」
「むう、残念です。体力回復したら、1番に相手をお願いしますね。それで、マルフォン様とはどんな話をしたのですか?」
「そうだな、レーナとイローナにも話をしておかないとな。来月、教会の奴らが聖騎士会議を行うらしい。レーナは俺と師匠、ファーブル王と共に一緒に来てもらう。イローナは、ヴェネルセをライラやメディアと守って欲しい」
聖騎士会議と聞いて、2人はそれぞれの反応を見せる。イローナは嫌悪感を露にし、レーナは呆れた表情を隠し切れていない。聖十字軍の勅令が出て半年、参加したのはノルス王国と隣国ムノワール王国の2国のみ。しかも、ノルス王国は魔王軍により陥落してしまった。教会の焦りと苛立ちが透けて見える。
「今さら聖騎士会議とは、笑えるだろう? 考えられるとすれば、聖十字軍への強制参加とミスリル鉱山に関しての取り決めだろうよ。俺は、教皇の意思を介したフレーブの要請を拒んだ。下手をすれば、聖十字軍の目標がここになりかねん」
「はあ、魔王軍じゃなくて私達を攻めると? それでは、聖十字軍の意義から考えて本末転倒ではありませんか」
「教会が主導する聖騎士会議なんて、大戦以来じゃないかい? フレーブとルドリックが定期的に開催していたのは、私が参加したけどね。他の連中も自分の事しか考えていない状況に、私も呆れたもんさ」
聖騎士会議が始まった当初は、ある程度の方針をすぐに決められた。魔王軍の侵攻に対すべく、一丸となって戦っていたからだ。しかし、ある程度戦局が落ち着いてくると利害の対立が見られるようになる。それぞれが国を代表する立場の者達だ。当然、後ろにある国の意向を主張をし出す。
結果、聖騎士会議は機能不全に陥り、大戦後の会議は教会に各国の要望を伝えるだけの場に成り下がっている。レーナは、ファーブルの代わりにビスティ王国の要望を教会に伝えていた。と言っても、ビスティ王国の要望が受け入れられる事は少ない。聖職者の中には、獣人達を差別する者が相当多いからだ。
「でも、カレル。セリスお嬢様はどうする? あれから何日か経つけど、部屋から全く出て来ないんだよ。食事は、しっかり食べてはいるんだけど、連れていくなら部屋から出さないとね」
「‥‥師匠、部屋からまだ出てきてないんだな。レーナ、何か策はあるか?」
「うーーん、いっそヴェラとライラをカレルが関係持ったって伝えるか? そしたら、部屋から飛び出してくると思うけれど」
確かにそれならば、セリスは出て来るだろう。問題はカレルが殺されかねないと言う事だ。少し考えて、カレルは決断を下す。その顔には、悲壮な覚悟を宿している。
「うん、確実に俺は殺されそうだ。まあ、背に腹は代えられないか。それでいくしかないよな」
「お待ち下さい、カレル様」
執務室の扉を開けて入ってきたメディアが、カレルを止める。彼女の右手には書類が握られており、ライラからの決済願いだった。それを領主たるカレルの机に置くと、彼に頭を下げる。
「この度は姫様とヴェラに情けを与えて下さり、ありがとうございます。なので、セリス様を部屋から出す役目は私にお任せを。必ずや、彼女を外に出してご覧にいれましょう」
メディアの申し出はありがたいが、カレル達は一抹の不安を覚えたのも事実だ。何故なら、彼女の行動は過激になりやすい。下手をすると、領主館が壊れかれない事を仕出かす可能性がある。
「メディア。本当に大丈夫なんだろうな。領主館が全壊とかしないで欲しいんだが?」
「ご心配は無用です。被害は最小限にして、セリス様を部屋から出してご覧にいれましょう。それでは、私は準備を致しますので失礼致します」
「あ、おい。ちょっと待って‥‥」
そう言って、メディアは頭を下げると部屋を後にする。残された3人は、彼女の意見について話し合いを始めた。
「メディアなら、セリスお嬢様を抑えられるから適任と言えば、適任かな。後は、どの程度まで周囲の被害を減らせるかだね」
「はあ、あの女の為にそこまでする必要ありますか? 私は商会に戻ります。出て来ようが来まいが、私には関係ありませんもの。カレル、約束は守って下さいね。それじゃ、失礼するわ」
セリスには全く興味が無い様子で、イローナは部屋を後にした。そんな彼女を見て、頭を抱えるカレル。
「相変わらずきついな、イローナ。だが、師匠がいるのといないのとでは違う。聖騎士としては、極めて優秀な人だからさ」
「まあ、今はしょうがない。イローナの恨みが薄れるまで待たないと。後は、セリスお嬢様が謝るなり、歩み寄ってくれるとありがたいけどね」
「かなり難しいのは、よく分かってるけどな。とりあえず、メディアがどうやって師匠を部屋から出すか教えてもらおう。彼女任せにしておくと怖いからな」
こうして、引きこもりのセリスを部屋から出す計画が始まった。メディアにより考え出された、この計画。周囲の不安は的中し、更なる修羅場を呼ぶ事になる。
次回、セリス復活。メディアが活躍を見せます。




