第28話 マルフォンの罠
カレルとライラが帰還して3日後、マルフォンに呼び出された2人は、ヴェラの案内でダークエルフ領内の森に向かった。うっそうと茂った森の中に、ひっそりたたずむ小さな小屋。その中で、椅子に座ったマルフォンが3人を迎える。
「フォ、フォ、フォ。カレルよ、今回の仕事ご苦労であったの。ノルス王国陥落で、魔王様よりお褒めの言葉を賜ったぞ」
「ちっ、爺に名実共に功績を奪われた訳か。まあ、俺らは名前がバレるとまずいから構わないがな」
ノルス王国陥落の功績は、妖魔術師団が第1功とされた。ゴブリンやオーク、アンデッドの長らは不満げだったが、彼の部下による傀儡魔剣士の撃退が無ければ自分達が危うかったとは感じていた。なので渋々了承していたと、論功公賞の場にいたヴェラは話す。
「まあ、彼らにしたら手柄を横から奪われた形だ。怒るのもしょうがないけどね。ところで、マルフォン爺。どうして僕の狩猟小屋で密会するの? ライラまで呼んでさ」
ヴェネルセでは、人間の目があるから避けたのは分かる。だが、それなら領内の自分が住む屋敷でも良かったのではないか? そう訴えるヴェラに、マルフォンはさとすように語りだす。
「内密に話したい事があるのじゃ。余人には、聞かせられんのよ。カレルよ、教会は来月12聖騎士会議を開催するらしい。お主やセリスにレーナ、ファーブル王まで呼ぶつもりじゃ。先の敗戦、かなりの痛手だったらしいの。長らく放置していたお主らを呼び出す程に教会は慌てておるわ」
「‥‥今さら感が半端無いな。しかし、そう簡単に集まるか? 他の連中も大概で自己主張が強い。大戦終結後は、集まるのもまれだったぞ」
カレルとライラが戦場で会った2人以外の面子は、人間4人とドワーフ1人、獣人1人の6人。それぞれが実力者であり、一筋縄ではいかぬ者達だ。
まず、人間では大陸の西方を支配するバルナ帝国近衛騎士団団長バルボ。数多くの人間魔術士を輩出するバルティア魔術王国の女王マルマー。教会の剣と呼ばれる聖堂騎士団団長のルドリック。ロール王国の戦女神と称えられる女傑カトリーナ。
残りの2人が、大陸商人達の共同体マラン商業連合に雇われる狼人ナルフ。ドワーフ王国最高の鍛治師と謳われるドンガだ。この12人が聖騎士として、活躍したのが先の大戦である。しかし、仲違いや嫉妬等の感情で足の引っ張りあいも多く、その内情はとても世間一般に言えない位酷かった。
「マルマーのババアには活躍しすぎてにらまれたし、ルドリックは、相手が人間魔族問わず残虐に殺す。バルボとカトリーナは戦好きで、ナルフとドンガは自分を曲げない頑固者だからな。まあ、俺や師匠にレーナとファーブルも扱いにくかったとは思うがね」
カレルやセリスは命令違反が多かったし、レーナはサボリ癖があった。ファーブルに至っては、無類の戦闘狂だ。これに、野心家で陰謀家のフレーブと研究馬鹿エルフと呼ばれるミライナまでいるのだ。教会上層部の気苦労ははかり知れないだろう、
「‥‥よくそれで上手く回りましたね。普通なら空中分解しかねないと思うんですが」
ライラの疑問は、もっともである。普通であれば、絶対にまとまらない彼らをまとめていた理由。それをカレルが答える前に、ヴェラが答えた。
「僕達と言う敵がいたからさ。大戦の時は、人間側も必死だったからね。僕は全員と対峙したけど、1番怖かったのはセリスだったな。さすがは、人間の中で最強と言われるだけはあったよ。他の12聖騎士は、はっきり言って弱い。‥‥ただ、ミライナを除いてね」
「‥‥そうだよな、最初はヴェラには俺も手加減されてたもんな」
大戦後に、ヴェラからその事実を告げられたカレルは愕然としたものだ。何とか彼女に負けまいと、必死に修行とセリスの探索に費やした10年。その年月を経てもヴェラに勝てなかったが、セリスによる真祖のヴァンパイア変貌により、以前より少しは肉薄する事は出来ている。
「あっ。ミライナ様でしたら、今回の戦場に出てきてましたよ。ですが、すぐに帰ってしまいましたが」
「エルフの中じゃ、かなり変わっている女性さ。僕達ダークエルフと違い、基本エルフは世界樹の森から出て来ないからね。旅をするエルフは結構見るけど、ミライナみたいに街で暮らすのは珍しいよ」
ダークエルフと違い、エルフは排他性が強い。その生涯を他種族と交わらず、森で過ごす事が多い種族だ。そんなエルフの中でも、ミライナは変わり種と言っても良かった。
「シンパからの情報では、そのミライナとルドリック、カトリーナにフレーブの4人が来るそうじゃ。後は不参加を決め込む情勢らしい。マルマーは、ぎっくり腰。バルボとナルフは、国の内部が揉めておる。ドンガは『仕事が忙しい』と断ったようじゃ」
「見事に足並みが揃ってないな。だったら、こっちも無視を決め込めば良いんじゃないか? 4人しか来ないとなれば、教会の面目は丸潰れだ」
「いや、是非とも君達には言って欲しい。魔王様の話では、聖都にて災いが起こるようじゃ。下手をすれば、こちらにも害をなしかねんらしいのでな。お主ら4人が行ってくれれば、ヴェラをどさくさに紛れて侵入させる事が出来る」
マルフォンの言葉に、指名されたヴェラは嫌な顔をする。聖都は、魔王軍の者達にとって完全なる敵地だ。正直な所行きたいとは思わない。
「マルフォン爺。僕とカレル、セリスも聖都には入れないんじゃない。確か、魔族を防ぐ結界があるんじゃなかった?」
聖都は、モラノフ大聖堂を中心に広がる宗教都市だ。そして、3重の城壁と結界によって守られる難攻不落の城塞都市でもある。だが、マルフォンはそれを一笑に付す。
「結界か? あれなら聖職者の信仰心が失われ、とっくの昔に効力が薄れとるわい。シンパの話では、ゴブリンやオーク位にしか通用しないらしいぞ?」
「「「そこまで知ってるシンパって、何者ですかああ?」」」
3人の問いに答えず、マルフォンは椅子から立ち上がる。おもむろに懐から袋を取り出し、3人めがけて中身を振りまく。それは甘い香りのする赤色の粉だった。
「さて、では失礼するとしよう。それとカレルよ。この度の褒美じゃ、受け取るがよい。ここに呼んだのは、その為じゃからな」
人の悪い笑みを浮かべ、転移魔法でマルフォンは小屋を後にする。何が起こるか分からぬまま、カレルがヴェラ達を見ると様子がおかしい。息が乱れてる上に、顔も真っ赤になっていた。
「うぅ、カレル。何か変だよ、体が熱くなってきてる」
「カレル様、私もです。吸血衝動が押さえきれません。このままだと‥‥」
カレルは全てを悟った。マルフォンの企みを知ったが、何とか止めようと努力する。自分の欲望の高ぶりも自覚しているが、手を出せば後で揉めるのは必死だ。
「と、とりあえず解毒魔法を使おう。ヴェラ、ライラ‥‥うわぁ!」
魔法を使おうとしたカレルを押し倒し、唇を強引に奪うヴェラ。ライラも彼女の隣に座り、獲物を狙う目で彼を見つめている。
「ねえ、ライラ。マルフォン爺がもたらした好機、無駄には出来ないよね?」
「そうですね。カレル様、諦めて私達を受け入れて下さいな」
そう言って、2人は服を脱ぎ始める。彼女達の瑞々しい裸身を見た時、この流れは止められないとカレルも理解した。自分の理性も限界に近い。
「もう、止まりそうに無いな。あの爺、後で覚えていろよ!」
こうして、ヴェラとライラはカレルと結ばれる。2人の激しい求めにカレルは疲れ果て、翌日の昼まで眠ってしまう程だった。この事を知ったメディアは、マルフォンをこう評したと言う。
「さすがは、マルフォン様。〇明〇罠ならぬマルフォンの罠ですね。姫様とヴェラの為にありがとうございます」
次回、ヴェラ、ライラと関係を持った事がイローナ達にばれます。




