第26話 謎の仮面と傀儡魔剣士
カレル「なあ、ライラ。この仮面着けたら声と口調が変わるんだが、何でだろうな?」
ライラ「メディア曰く『キャラになりきってこその変装です』だと言ってましたね。まあ、ばれないなら良いと思いますけど」
カレル「‥‥何かの呪いなのか? あいつ、本当に何でもありだな。誰か、メディアの正体を知ってる奴がいないか調べないと」
「おい、爺。ここって、人間と魔族の最前線じゃないか。俺達に何をさせる気だ?」
カレル達が転移したのは、ノルス王国の中央にある平野だった。辺り一面に広がる麦畑の麦は倒され、血や死体、糞尿等が撒き散らされている惨状だ。とても、収穫出来る状態ではない。
平野の東側からはゴブリンやオーク、アンデッド等の連合軍が攻め込んでいる。以外と連携が取れており、人間達を追い込みつつある。西側には、それを防ぐ人間達の陣地がある。だが、不思議と士気は高い。その理由をマルフォンが説明する。
「シンパより報告があっての。お主との交渉に失敗したフレーブ=ガルディ枢機卿が、功を焦って傀儡魔剣士100名近く投入したらしい。お陰で戦線は膠着。更に援軍が来れば、魔王軍の危機じゃな。あーーあ、誰のせいかのう。ここで奴等を倒せば、魔王軍内での誰かさんの評価がうなぎ登りなんじゃがなあ」
大戦への参戦を露骨に求めたマルフォンに、カレルは呆れて物が言えなくなる。何故なら、彼の立場上参戦は厳しいからだ。
「あのなあ。俺はヴェネルセの領主だ。ビスティ王国のファーブル王の臣下だぞ。国の方針が中立なのに、魔王軍に荷担したらまずいだろ!?」
「心配するでない。メディア曰く『カレル様達は、義侠の心を持った義勇兵なのです。傀儡魔剣士による非道なる行いに対し、涙を飲んで魔王軍に味方をしました』と、ばれたら言うつもりらしいぞ? 奴等の非道ぶりは、人間ですら眉をひそめると聞く。立派な大義名分になるではないか」
マルフォンの説明に、カレルは以前メディアが言っていた言葉を思い出す。あれは、ライラとヴェラの授業の時の話だった。
『隣国が強大な敵性国家に攻め込まれたり、隣国の領土内に同じ民族がいて、助けを求めてきた場合の対応です。まず、隣国の兵装を準備。それらを精鋭の将兵に装備させ、侵攻させます。後は、大義名分を満天下に高々と掲げるだけです』
『メディア、それってやばいんじゃ‥‥』
『ヴェラ、大丈夫ですよ。〇鮮〇島も〇リ〇ア半〇もそれで上手くいきましたから。やっぱり強大な力と金がある国が、自分の主張を貫けるんです。2人とも、世界は私達が回すんだ位の気持ちをお持ち下さい。目指せ、最強の独裁者!』
『『聞こえが悪すぎるし、怖い! 聞いたこと無い地名を言うけど、メディアって一体何者なの!?』』
その後、メディアは自分の事を一切話さず授業を進めていた。2人もかなり気にしているが、敢えて踏み込まない。下手につついたら、死にそうな目にあうと学習しているからだ。そんな事を思い出したカレルは、当然メディアの対応が予測出来てしまう。
「‥‥あいつ、本気で強弁しそう。しかし、ライラはともかく俺の顔は知られている。出ていったら、ばれるの確定だろう!?」
「うむ、そう言うと思って仮面を用意したと聞く。確か、これじゃな? 何でも、父親の敵を討たんとする復讐者の仮面だそうじゃ」
マルフォンが魔法の袋から出した仮面は、ズイブンと変わったデザインだった。頭に白い兜。目の部分は隠れているが顔下半分はまる見えである。見れば目の部分は白い兜に一体化しているようで、外れそうにない。
「‥‥爺、仮面って顔全体を隠すんじゃないのか? これじゃ、脱げそうで怖いんだが」
「頭へ完璧にはまるらしいから、脱げんらしいぞ? まあ、一時的なものじゃから文句を言わず付けておけ。ライラ嬢ちゃんは、これじゃな」
マルフォンが次に取りだしたのは、目だけを覆うタイプの仮面だった。仮面舞踏会で使われる物に似ている。早速着けてみるライラを見て、カレルは自分も仮面を着けた。見事な程に、彼の頭にしっかりはまる。
「ライラ、君の仮面の方が良いな。これは脱げそうにないが、なかなかに暑苦しい」
「えっと、マルフォン様。これだと私、目だけしか隠れて無いんですが?」
ライラは、不安げにマルフォンに尋ねるが彼は気にも止めない。何故なら、仕上げが残っているからだ。
「心配するでない。わしの妖術にて姿をも変えるからの。ちなみにライラの仮面は、父親を助ける為に時を越えた王女が着けていた物らしい。さて、お主ら時間が無いのでな。すぐに妖術をかけるぞ? 彼の者らを仮初めの姿に変えよ、フォーゼ!」
マルフォンの妖術によって、たちまち2人の姿が変わる。それを見届けた彼は、そのまま転移魔法で彼らを戦場へと送り出した。
「さあ、派手に暴れて来るのじゃ。これで、ガルディ枢機卿を潰せそうじゃな。フォッ、フォッ。わしの手柄が第1功かのう?」
その頃、戦場では戦局が大きく動いていた。フレーブ=ガルディ枢機卿率いる傀儡魔剣士達が動き出したからだ。ただ、主たる者の為に戦い抜く集団。味方が倒れようが、己の体が傷つこうが死ぬまで戦い続ける彼らを魔王軍も恐れていた。現にゴブリンやオーク等が次々と倒され、陣形が崩壊。隣で戦っていたアンデッド達も浮き足だっている。
「二、逃ゲロ! オ、俺達ジャ勝テナイ」
「ブヒッ。俺ノ槍デ仕止メ‥‥グハッ!?」
「撤退! 撤退ノ鐘ヲ鳴ラセ!」
「くっくっく、圧倒的じゃないか。これなら、後は掃討戦に移れる。教皇め、ヴェネルセに対する交渉が失敗に終わったからって最前線送りにしおって! このフレーブ、転んでもただでは起きんぞ」
フレーブは、弱冠38歳で枢機卿になった切れ者である。青を基調とし、金の刺繍をふんだんに使用したローブとマントを着こなす男。日頃の食生活で太りぎみの図体は、戦場においてもかなり目立った。その顔は、底知れぬ野望と虚栄心に満ち溢れている。
「さあ、傀儡魔剣士ども。魔王軍の奴等を血祭りにあげよ! 神の御名の下、不浄の輩に永遠の死を与えるのだ!」
フレーブが、進撃の命令を出そうとしたその時、人間側の前線で巨大な炎が巻き起こった。それらは、ノルス王国の将兵や傀儡魔剣士らもろとも焼き尽くしていく。突然の攻撃に、フレーブは動揺してしまう。
「な、何だ。何が起きている? 誰だ! 私の邪魔したのは!?」
「ふっ、君達の目の前に邪魔者はいる。私は‥‥、そう少佐と呼んでもらおうか。こちらの女性は、姫とでも呼んでくれ」
そう言って、フレーブの前に現れたのはカレルとライラだった。マルフォンの妖術のせいで、姿も声も変わっている。カレルは赤と黒を基調とした軍服姿。ライラは青を基調とした服に加え、マントを羽織っている。カレルを知ってるはずのフレーブですら、全く分からない完璧な出来映えだった。
「訳の分からぬ姿に加え、我々の邪魔をするか。人間と見えるが、私の名を知らぬようだ。私はフレーブ=ガルディ枢機卿である! 貴様らが行っているのは、魔族に対する協力と教会に対する反逆だ。我が僕たる傀儡魔剣士により、成敗してくれるわ!」
傀儡魔剣士達はカレル達の周りを取り囲むや、一斉に魔剣を抜剣する。魔剣から放たれる禍々しいオーラが、辺りを包み込む様にノルス王国の将兵は怯えた。しかし、向けられている当人達は何の恐怖も感じてはいないようだ。
「少佐殿。優れた魔剣とはいえ、技量の伴わない者が持っていないのなら恐れるに足りない。この聖剣で、ことごとく倒してご覧にいれよう」
そう言って、ライラは腰に差していた剣を抜く。メディアがライラ用に、ヴェネルセのドワーフに発注していた剣。メディアの趣味と実益を兼ねたこの剣は、彼女の協力によりドラゴンの鱗すら斬れる代物になってしまった。ドワーフも『そこらの魔剣なら、軽く斬れる』と豪語した出来映えらしい。あまりの見事さに、人間側からどよめきが起きた。
「聖剣だと! ふん、神より賜りし剣は教会が全て管理している。あの女の言ってる事は、はったりに過ぎんわ!」
「はったりかどうかは、これから証明してやろう」
カレルは魔力を解放し、炎を両手にまとわせる。あまりの熱量に、恐怖を忘れたはずの傀儡魔剣士達ですら、下がってしまった。カレルにとっては因縁の相手だ。がぜん、両の手に力はこもる。
「‥‥さて、それでは見せてもらおうか? 傀儡魔剣士の実力とやらをな!」
次回、カレルとライラによる無双。フレーブは涙目に。




