第24話 ボーアの逆襲、失敗!
翌日の朝、カレルとヴェラはボーアとの会談を行った。彼の顔色も昨日と比べれば、だいぶ回復したように見える。そして、彼は昨日の醜態を忘れたかのように、カレルと話始めた。
「久しぶりだな、カレル。なかなかの活躍だそうじゃないか? ビスティ王国の利権だけじゃ飽きたらず、ダークエルフ領まで手中に収めようとはな」
この場にいるのは、ソファーに座るボーアと後ろで立っている彼の部下4名。ヴェネルセ側は、カレルとライラがソファーに座り、フィンとイローナが後ろに控えている構図だ。ヴェラとメディアは、別室にて控えてもらっている。
「あのな、ボーア。ダークエルフ領は俺の領地ではない。港町と鉱山に向かう道を商会で借りているだけさ。それで? 人間側で1番の大商人たる貴方が、何の用件でヴェネルセまで来たんだ?」
カレルはこう言うが、昨夜フィンやイローナとの話し合いで予想はついている。案の定、ボーアはそれを切り出した。
「決まっている。ミスリル鉱山の利権が欲しいのさ。知っての通り、人間側のミスリル鉱山は枯渇しつつある。今回の鉱山発見には、各国の王を始め教皇も関心を持っているんだ。そこで、カレル。鉱山の鉱石分配率はどうなっている? まだ残っているなら、残りを全て譲ってもらいたい」
「ボーア、買い取る訳でも無く譲れと? また随分と上から目線の交渉だな、おい」
「残念だがカレルよ、断れる物では無いぞ。これは、教皇直々の勅令状だ。『聖騎士カレル並びに聖騎士セリスよ。打倒魔王軍の為にミスリルを供出せよ。魔族を滅ぼす聖剣を作る栄誉を得るのだ、無償にて譲渡すべし』との事だ。断れば、破門だそうだが、返答は?」
人を馬鹿にしたような命令に、フィンやイローナがいきり立つのが雰囲気で察せられた。カレルは軽く右手を上げ、彼らの感情暴発を止める。そして、ボーアに鋭い視線と同時に殺気を放つ。
「ほう。教皇貎下は、鉱山の仕事を何もご存じないらしい。ただ、鉱石を堀り出せば良いと考えていないかな? 鉱石を無償で出せとは、随分となめた事を言われるものだ」
その殺気に、さしものボーアも震え上がった。部下達に至っては、足が震える者や座り込む者までいる始末。慌ててボーアが言葉を重ねる。
「お、落ち着け! だから、俺が中に入っているんだ。枢機卿連中もまだ死にたくは無いらしいからな。俺がミスリル鉱石を買い取り、それを献上する手筈だ。聖騎士の1人であるガルディ枢機卿の策でもある!」
ガルディ枢機卿の名を聞いて、カレルは嫌な顔をする。フレーブ=ガルディ枢機卿は、聖騎士であると同時に聖職者としても有名な男だ。次期教皇と噂される人物でもある。しかし、表では聖人然としているが、裏の顔は謀略や暗殺を駆使する陰謀家だ。公私共に付き合いたい人間ではない。
「だが、それでは奴に何の利益もない‥‥。なるほど、ガルディ卿に賄賂を出せと言う事か。ボーア、悪いがミスリル鉱石は諦めろ。ビスティ王国ファーブル王と魔王の息子バラン殿下の許可が無ければ、ミスリル鉱石を売る事も敵わんのだからな。と言う訳だ、ボーア帰ってくれ」
カレルの拒絶にボーアは愕然とした。確かに、フレーブからは多額の献金をカレルに出すようにとの指示を受けている。カレルもセリスの1件等から、教会に不信感を持っているだろう。だが、まさか本当に断るとは思わなかった。ボーアは、焦りと恫喝を込めた言葉でカレルを説得しようと試みる。
「カレル、本当に良いのか!? 破門されたら人間としての権利を失う。聖騎士の地位も剥奪されるんだぞ? 聖十字軍の侵攻対象にもなり得る。ビスティ王国にも迷惑がかかりかねんのだ、考え直せ!!」
「構わん。俺はヴァンパイアの真祖になっているから、人間では無くなっている。聖騎士の地位も、もはや必要無いな。俺はヴェネルセの領主であり、ヴェネルセ商会の後ろ楯でもある。教会の奴隷たる聖騎士なぞ、こちらから返上してくれるわ!」
啖呵を切ったカレルに、フィンとイローナは良く言ったと満足げな笑みを浮かべる。ライラも尊敬の眼差しで彼を見つめていた。一方、ボーアの顔色が悪い。ヴェネルセとの戦争となれば、貿易が止まってしまう。つまりは、ビスティ王国の香辛料や果物。ダークエルフ領のワインや金細工等が、人間側に一切入ってこない事になる。
それらの愛好者が王族や貴族には多い。彼らの取引でボーアの商会は成り立っているだけに、彼らの機嫌を損ねたくはない。さらに、この事が明るみに出れば、教会に対する風当たりは強くなり、各国の聖十字軍に対する参加は益々望めなくなるだろう。
切りたくなかった手札を、断腸の思いでボーアは切る。ヴェネルセを滅ぼすのと同じ意味の言葉をカレルにぶつけた。
「‥‥ガルディ枢機卿は、やむを得ない場合は聖堂騎士団の出撃も認めている。いかに、聖騎士が2人いようとも傀儡魔剣士を擁する連中と戦って勝てる訳が‥‥」
「カレル~~、僕の出番まだ? 退屈過ぎて出てきたよ」
ボーアの脅迫を遮り、ヴェラが部屋へと入ってくる。そして、カレルが座るソファーに腰かけた。突然のヴェラ登場に、ボーアは呆気にとられていたが、部下の1人が声を荒げる。
「貴様! 子供が勝手に入ってくるな。今‥‥ぎゃあああ!!」
部下の体は瞬く間に炎に包まれ、床を転がり回る。男の叫び声はしばらく続き、遂には炎と共に彼は消失してしまった。凄惨な死に様にボーア以下4名は、総身汗だくである。
「あははっ。ごめんね、カレル。つい、本気で焼いちゃったよ。この僕、7大魔将ヴェラを子供扱いする馬鹿を久しぶりに見たからね。ねえ、ボーアとか言ったっけ? 君の犬でしょ、彼。だったら、飼い主も責任をとらなきゃね」
「「「「ひ、ひいいい!!!」」」」
そう言って、ヴェラは右手に巨大な火球を作り出す。顔に無邪気な笑顔を浮かべながら。とうとう、恐怖が限界に達したらしい。ボーア以下4名は無様に失禁してしまう。床に流れ出す液体と匂いをかいだカレルは、やりすぎだと頭を抱える。
「おい、ヴェラ。後で最高級ワインを2本開けるから、勘弁してやってくれ。これ以上すると、後ろからも何か出かねん!」
「はぁい、しょうがないな。じゃあ、そこの4人は帰ってくれる? 聖堂騎士団か何か知らないけど、ヴェネルセ潰すなら僕が相手をするからね。‥‥全滅する覚悟があるなら挑んで来るがいい」
ヴェラの本気の凄みに、慌ててボーア達は退散する。彼らと入れ替わる形で現れたメディアは、ソファーとカーペットの惨状を見てため息をついた。
「当代一の商人と聞きましたが、胆が小さいようですね。たかが、ヴェラの威圧で漏らすとは。魔王様の威圧を食らったら、あっさり死ぬかもしれませんね。それはともかく、洗浄!」
メディアは洗浄魔法を使い、たちまちソファーとカーペットを綺麗にする。ふと、カレルがある事に気づく。男が転げ回ったのに、カーペットに焼け焦げがまるで無い。不思議に思っているとヴェラが笑いながら答える。
「僕の炎は、対象だけ焼けるようにしてあるからね。ダークエルフだけど、過度の環境破壊はしたくないんだ。‥‥エルフって自然を大事にする種族だからさ」
ヴェラの視線の先にはメディアがいる。復讐の為に大量の火薬を使用してまで、前族長一派を葬り去ろうとした彼女。暗に批判したヴェラに対し、メディアは恭しく頭を下げる。
「はい。だからこそ、川の流れを阻害する中洲を邪魔者もろとも吹き飛ばしました。ヴェラ様、お誉めに預かり恐悦至極に存じます」
「「「「メディア! 誉めてない、自重しろって事だ!!」」」」
次回、とある魔族の大物来訪。ミスリルが中心の話です。




