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波乱万丈の魔術師  作者: 流星明
第2章 商会とヴェネルセの改革、大戦への介入
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第19話 運命の会議

イローナがファーブル達に会ってから、3日後の午後。セリスは商館の会議室に皆を呼び出し、今後についての方針を話し合った。活発な議論が行われ、商会の運営に手応えを感じ始めたセリス。彼女は最後に、1ヶ月間頑張った皆をねぎらう。


「‥‥と言う訳で、ヴァイツァー商会が目指すのは大陸屈指の商会だ。個々人の奮闘を期待する。しかし、皆良くやってくれた」


ここ1ヶ月、ヴァイツァー商会に属する者達はそれぞれの仕事を行っていた。カレルは商会や領主館のある地区から見て、西にある学校の土台作りと建築を手掛けた。


レーナは、メディアとの共同作業終了後に警備隊の新兵を鍛えあげ、ヴェネルセに配属。そして、ダークエルフ領内にベテラン警備隊員を派遣している。結果、双方の地域の治安に大きく貢献した。


「カレルとレーナはヴェネルセの景観と治安を良くしてくれたし、ライラは領主代行として内政や交渉を頑張ったな。メディア、少しやり過ぎじゃないか? ダークエルフ領内の村の新領主が慌てて、ヴェラに税金を払ったと聞くが」


「セリス様、害をなす者は速やかに排除せねばなりません。傷の浅い内にです。さもないと傷が広がり、下手をすれば死ぬと言う事にもなりかねませんから」


「そ、そうか」


メディアの鋭く強い言葉に、セリスは珍しくたじろぐ。ライラはヴェラに資金を貸し付けた後は、ヴェネルセの有力者達と会合を開催。その意見や苦情を聞き取り、施政に活かしているので民の人気も高い。今では、カレルと同じ位の人気を誇っている。


メディアは、ダークエルフ領に残って後片付けを行っていた。新しい村長の選出やヴェラが借りてきた金貨の分配を執り行っている。半ば恐怖政治に近いが、前任者が仕出かした事を鑑みるとやむを得ない所だった。


「ところで、フィン。ファーブルの所にイローナを向かわせたと聞くが、何か理由があるのか?」


セリスの疑問に、会議室の面々の間に緊張が走る。いよいよ、セリスに対して、会頭更迭の事を告げないといけないからだ。フィンに注目が集まるなか、真っ先に動いたのはイローナであった。


その表情はかなり険しい。よく見れば、彼女の狐の耳や尻尾は最大まで膨れ上がっていた。怒りの強さが半端ではない。


「これより緊急動議を行います。議題はセリス=ヴァイツァーの会頭職、更迭についてです。私、イローナ=フェレール改め、イローナ=ビスティが議長を務めますわ」


会議室に、驚きの声が広がるのが分かった。驚きの理由は2つ。1つ目は、今回の更迭劇の口火をフィンが切り出すと思ったからだ。


2つ目は、イローナの名前。ビスティの姓を名乗れるのは、ファーブルを筆頭とするビスティ王族の面々のみである。つまり、彼女は王族となってヴァイツァー商会に戻ってきた訳だ。それが意味する事は、つまり‥‥。


「イローナ、どういう事だ! 私が会頭に就任して、まだ就任して1ヶ月しか経っていない。それなのに、ファーブルを始めとする獣人達は私を見限ろうと言うのか!?」


「セリス様。そもそもヴァイツァー商会をここまで大きくしたのは、カレルと私ですよ。その後、フィン様とレーナが手伝ってくれました。貴女様は、商会に対して何をしました? バラン様の御用商人になった事と鉱山の魔物を退治した位ですよね?」


セリスに向かって、ここまで直言できるのが世界に何人いるのか。カレルとライラ、リーナはハラハラしながら対決を見ているしかない。フィンとメディアは、物怖じしないイローナを感心した様子で眺めていた。


「功績が足らないのは認める。だか、それだけでは更迭の理由にはなるまい。私の何が不満だ!?」


「セリス様。貴女は人間の商会員をひいきし過ぎです。功績を伴った者なら、私達獣人も文句は言いません。ですが、かつてのヴァイツァー商会にいたと言うだけで、幹部に据えるのはいかがなものでしょうか? しかも、5人もです。この人事の論理的な根拠をお伺いしたい」


イローナの厳しい指摘に、セリスはたじろぐ。セリスが年齢や人生経験では上のはずなのに、イローナの方が強く感じる。それが、その場にいた面々の印象だ。最もカレルは、彼女の強さを知っていたので、こうなる事は予測出来たが。


(イローナは、普段は優しいが商売が絡むと鬼になる。そして、フェレール商会を失った経験から、人間を見る目が養われた。師匠が引き上げた連中、いずれ害になると分かったんだろうな)


セリスを会頭にした事を後悔するカレル。以前より、フィンから忠告されていたのを聞き流していた。セリスの手にヴァイツァー商会を取り戻し、昔のように皆で仲良く暮らそう。その考えが甘すぎた事に、カレルは唇を噛み締める。


「そ、それはだな。彼らが、私の父の代より仕えた者達だからだ。確かに商会の規模が大きくなったのは獣人達の功績だ。しかし、彼らのような古参の者も大事にせねばならないだろう?」


「セリス様。貴女はとてもお優しい方ですね。ただ、古参と言うだけで無能にして害をなす者を飼うのですから。ですが、それでは人は付いていきません。獣人達は、ヴェネルセからの退去とヴァイツァー商会からの離脱を考えております。会頭として、いかに対応なさるおつもりですか?」


「ちょっと、待て! そこまでやるか? 何故、そこまで人間を毛嫌いする。大戦では、共に戦った仲間ではないか?」


セリスの言葉に、底冷えのする視線を向けたイローナ。彼女は知っている、獣人に対してセリスの両親が行った所業を。カレルは慌ててセリスに事実を告げる。


「師匠、忘れてないか? 獣人達がいわれのない差別を人間からされていた事を。かつて、イローナの両親は商売で訪れた街で亡くなった。獣人達がまだ外にいるのに、その街の住民達は彼らを見捨てて門を閉じたんだ。結果、獣人達は魔物に食い殺されている。つまり、イローナには大多数の人間が仲間という意識が少ないんだ」


カレルの説明に、セリスは何も言えなくなる。だが、すぐに反論を始める。獣人に対しての差別はしていないからだ。


「‥‥イローナの両親は哀れだし、獣人差別の起こした悲劇だろう。だが、私は獣人を差別していない。私は彼らのこれからの生活を保障するし、権利を侵害する気も無いぞ!」


「それは使える獣人は、と言う認識でよろしいですか? セリス様、貴女は実力至上主義者ですよね? 弟子や部隊の部下でも訓練に付いて来られない者は、簡単に切り捨てたと聞いています。これは、ある意味仕方がありません。実力が高い者を選別し、育てる。そうしなければ戦争に勝てませんもの。ですが‥‥」


イローナは鞄の中から書類を出すや、机の上に叩きつける。それは、人間のヴァイツァー商会幹部達が書いた計画書だった。これによれば、獣人達を辞めさせ、代わりに人間の商会員を雇い入れる事や、イローナが持つビスティ王国内の販路を奪う事が考えられている。


しかも、末尾にはセリスのサインまでしてあった。セリス以外の面々が呆気に取られる中で、イローナの怒りが爆発する。


「これには到底納得出来ません! カレル様は、フェレール商会の持っていた販路を私が管理する事を認めて下さいました。また、商会に務めていた獣人をヴァイツァー商会で雇ってくれる事も。それなのに、貴女は!」


「待て、待ってくれ! 彼らの説明では獣人達の仕事を保障すると言っていた。人間の高い技術者を雇い入れ、その下で働かせると。販路に関しては、相応な値でイローナから買うと説明した。だから、私はサインしたんだぞ!」


互いの言葉が噛み合わないのを不審に思ったメディアとライラは、問題の書類を調べ始める。しばらくして、ライラがため息をついてセリスを見た。その表情を見れば、呆れた様子を隠しきれていない。


「‥‥セリス様。しっかり、書類を読んでからサインしましたか? これを見るに、イローナ様の言っている事が正しいようですよ」


「ライラ様。おそらく言われた事を鵜呑みにして、セリス様はサインしたのでしょう。『これは儲かりますから、投資しませんか?』とか『この布団、結構高いんですが勉強して、この値段で買えます。安いですよ(品質に問題あり)』とか言う詐欺師のような輩が、世にはごまんといますからね。実際は儲かるどころか、借金を背負ったり、実際の値より高く売り付けられたりするんです」


つまり、セリスはまんまとだまされた訳だ。あろうことか、商会の、しかも会頭がである。白けた空気が会議室に漂い、さしものセリスも総身汗まみれになっていた。そして、この事がセリスの運命を決定づける。会頭更迭へと。









次回、セリスが更迭されます。イローナとセリスの因縁が明らかになります。前回の予告は2章の流れでした。まずは商会の改革からスタートします。

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