閑話3 フィンの日常 前編
フィンとヴァイツァー商会の人々や関係者との話です。
「このままだと獣人やヴァンパイア等に、栄光あるヴァイツァー商会は乗っ取られてしまう。由々しき事態だ」
「うむ、我等人間の力を見せつける時だな。フィン様、何か策は御座いませんかな?」
「フィン様は、ヴァイツァー商会の屋台骨です。我々は最後まで付いていきますよ」
とある午後の昼下がり。私、フィン=ヤンセンは人間の商会員の会議に参加しています。うん、出なければ良かったですね。口を開けば、愚痴と過去の栄光の話ばかり。建設的な話が一切出てこないのは、きついものがあります。しかも方策は私任せときました。はあ、皆さん使えませんね。
「皆様の意見は分かりました。しかし、商会の主要販路を誰が握り、誰がヴェネルセの土台を作り、誰がこの街の安全を守っているのか、分かって言ってますかな? まずは、功績を挙げてから仰って下さい。何もせず、批判するなら子供でも出来ますぞ」
先程と打って変わって、静かになりましたね。とりあえず、お暇しましょう。私は結構忙しいんです。商人適性とランクがCの面子と何時までも話す時間は惜しいですから。
それにしても、お嬢様もお嬢様です。かつてのヴァイツァー商会にいたと言うだけで、彼らを幹部に引き上げたのですから。獣人達から不満の声が上がっているのですが、取り合ってくれないので困りますね。
さて、次に向かうのは会頭の部屋です。長らく不在だったセリスお嬢様の帰還。私としては複雑な心境ですね。何せ、お嬢様の両親を追い落とした張本人ですから。
「来たか、フィン。ダークエルフ領への借金の利率だが、低くないか? ライラが、ヴェラから金貨1000枚の借金を申請されたらしい。年利は2%だが、もう少し上げても良いと思うんだが」
「いえ、ライラ様の年利の扱いは間違っておりません。ダークエルフの領地は、養蚕業や金細工職人等の産業が盛んでした。おそらく、ヴェラ様は産業の復興と育成を始めたいのでしょう。それも早期にです。為政者として、その判断は間違っておりません。ヴェラ様の人柄と返済能力を見込んで、ライラ様は貸し付けたのでしょう」
「ヴェラが本当に返済出来るのか? 昔から暴れ回ってた記憶しかないがな。まあ、ライラのお手並み拝見だ。ありがとう、用件はそれだけだ。下がっていいぞ」
セリスお嬢様はそう言いますが、私は確認すべき点があるので尋ねます。この答えによっては、今後の方針が定まりますからね。
「セリスお嬢様、新しく幹部に上げた人間は使い物になりません。しばらくしてから、更迭すべきと考えますが?」
「駄目だ、フィン。彼らはヴァイツァー商会に永年仕えてくれた人達だ。また、私を可愛がってくれた者達でもある。無下には出来ない。それに、彼らは誰かのように裏切りをしないからな」
私の事を許してませんね。ですが、彼らの方が罪深いと分からない時点でセリスお嬢様は話になりません。彼らは、旦那様と奥様の暴虐を止めず、むしろ迎合していました。そんな彼らを重用するなど‥‥。どうやら、イローナに加担して正解だったようです。
「‥‥分かりました。それでは失礼致します」
セリスお嬢様の部屋を出た私は、深いため息をつきました。 商人適性Dに人物鑑定D何ですから。聖騎士Sと剣術Sはさすがですが。つまり、セリスお嬢様は商人不適格です。剣を振っていた方が良いでしょう。
もちろん、努力すれば分かりませんが難しいと思います。ヴェラ様に嫉妬し、あまつさえ実力をなめているのですから。人を見抜けなければ、商人として大成出来ません。商会の幹部連中もそうですが、特に敵を見誤るのは最もしてはいけない事です。
次は、そのヴェラ様との会談です。部屋に行くと既に到着されていました。椅子に座って、しばらく待たれていたようですね。慌てて立ち上がり、挨拶をされました。
「ほ、本日は時間を作って頂き、ありがとうございます。ダークエルフ領の産業について、お、お願いがあって来ました」
「いえいえ、こちらこそお待たせして申し訳ありません。産業と言うと養蚕業や金細工の件ですかな?」
「はい。ヴァイツァー商会やヴァンパイアの皆さんの協力で資金に目処がつきました。来年辺りに絹や金細工を納入出来ると思いますが、かつての値段で買って頂けませんか?」
ヴェラ様が言う値段は、絹1反が金貨100枚、金細工1つが50枚と言ったところです。ふむ、早く借金を返済をしたいのは分かりますが甘すぎます。
「これは、おかしな事を仰いますな。最近は品質も悪く、納期もかなり遅れ気味でした。お客様も離れてしまい、以前の値段で買う者はおりますまい。絹1反が金貨50枚、金細工は30枚からですね」
「は、半分なの? それじゃあ、借金が1年で返せない。フィン殿、絹を60枚、金細工を40枚でどうでしょう? そ、それとつまらない物ですが」
そう言って、ヴェラ様が箱を渡して来ました。開けて見ると綺麗なオレジュの実が、箱一杯に詰まってました。何か嫌な予感がした私は箱を振ってみます。意外に重い、そして音がしますね。あっ、ヴェラ様がばつの悪い顔をしています。
「ヴェラ様、これはお返ししましょう。残念ですが、値段に関しては譲れません。商人は信用を売り買いしているのです。賄賂で何とかしよう等と考えてはなりません。まあ、時と場合、相手によって有効な手段であるとは認めますが」
「はあ、駄目だったか。分かりました、フィン殿の言われる値段で構いません。後、オレジュの実は箱ごと差し上げます。フィン殿の使いたいように使って下さい。それでは失礼します」
こうして、ヴェラ様は帰っていきました。箱の中には銀貨が100枚程入っています。こんな手の込んだ策を考えるのは、彼女しかいませんね。それにしても、ヴェラ様は素晴らしい。領主、魔法剣士共に適性がSなんですから。
将来が‥‥おや? 私でも見えない適性がありますね。これまで1回しか無かった事ですので、益々興味が沸きますよ。ヴェラ様って、本当に面白い方なんです。
次に会うのはメディア様です。彼女との対面は、緊張しますよ。何せ、私の方が見透かされるような感覚に陥りますからね。
「フィン様、こんにちは。あら、オレジュの実をもらったんですか? 貴方も黄金の菓子が好きなんですね」
どうやら、私の予想は当たったようです。とりあえず注意をしておきましょう。ヴェラ様やライラ様の今後の為に。
「‥‥はあ、やはり貴女でしたか。ヴェラ様に妙な事を吹き込むのは、お止めなさい。ところで、ダークエルフ領は酷かったようですな。金貨3000枚の不正蓄財とは、恐れ入ります」
「上が腐敗すると下も習うものですよ。我々も気を付けないといけません。さて、フィン様。その箱、どうするおつもりで?」
なかなか喰えない女性です。不正は駄目だと言って、賄賂の金をどう使うか聞くんですから。私が使うと厄介な事になりますから、あの方に差し上げましょう。
「私は使いませんよ。さる方に渡そうと考えておりますので。時に、メディア様。貴女は何者ですか? これまで生きて来た中で、私の鑑定魔法で調べられない人物は、貴女とヴェラ様だけでした」
「うふふっ。さあ、私は何者でしょうか? 答えは自分で考えて下さい。それはさておき、1つだけ教えておくわね。‥‥ヴェラは敵に回さない方が良いわよ。普段はああですが、セリス様を軽く凌駕する力を持ってますから。それでは、これにて失礼致す。ドロン!」
白い煙が辺りを包み込み、私は激しく咳き込みました。気づけば、廊下には私1人だけです。どうやら、メディア様は逃げたようですね。
「しかし、ヴェラ様がセリスお嬢様を凌駕している? にわかには信じられませんが、心に止めて置きましょう。さて、この箱をカレル様に引き取ってもらわねば」
終わらなかったので、次回後編を書きます。




