第16話 ヴェラの受難
爆心地は凄惨な光景となっていた。燃え盛る物資や死体の臭いが辺りに充満し、未だ火勢は衰えていない。カレル達が犠牲者に祈りを捧げていると、近くの地面が爆発する。
皆が戦闘体勢を整えるなか、現れたのはダークエルフの小柄な女性だった。怒りのまなざしをメディアに向けると、そのまま彼女に突撃。胸ぐらをつかむや、大声で非難し始めた。
「メディアあああ! あの大爆発は何なんだよ? 君、僕まで殺す気だったろ!」
「不要な輩を倒すべく、火薬を木箱で20個位用意しましたからね。まあ、ヴェラなら死なないと信じてましたよ。貴女でも防ぐので精一杯なら、族長達は死んだわね。我、復讐を完了せり」
黒い笑みを浮かべながら語るメディアの体を思いきり、揺さぶるヴェラ。あっさり本音を出した彼女に、益々怒りを覚える。
「殺気どころか言葉も駄々漏れじゃないか! あの老害叔母には僕も迷惑させられてんだ。巻き添えで死ぬのはごめん被りたいね!」
ヴェラも負けじと本音を出す展開に、バランも頭をかかえる。キャットファイトの様相を呈してきた2人を見かねたカレルが仲裁に入る。
「久しぶりだな、ヴェラ。7大魔将が、極悪な同族のせいで苦労しているとは思ってなかったぜ。酒を飲みながら、愚痴の1つでも聞いてやるぞ?」
ヴェラとカレルは大戦の折、勝ったり負けたりを繰り返しながらも何度も戦っていた。互いに強敵と認める存在だったが、いつの頃からか魔力と技を競い合う好敵手のような関係に変わっている。どうも、相性は悪くなかったらしい。
大戦終結後、ヴェネルセやビスティ王国に出入りし、カレルと酒を飲みながら互いの愚痴を語りあう仲にまで発展している。
「うぅ、カレル。お願いだから、この暴走エルフを止めて。放って置くと何をするか分からなんだ。昔から、僕がメディアの後始末をするんだよ? どんだけ、頭を下げた事か」
メディアが暴れて、ヴェラが謝る構図が一瞬で目に浮かび、その場にいた全員が彼女に同情の視線を送る。それに気付いたメディアは不貞腐れ、カレルを見るととんでもない事を語り出す。
「ヴェラったら、そんな事言うんだ。なら、私も言いましょう。カレル様。ヴェラですが、こう見えて割と女の子なんですよ? 普段は、酒が大好きな男っぽい性格を演じてますがね。ぬいぐるみ集めて名前をつけてますし、可愛い小物が大好きなんです」
突然のメディアによる暴露に、ヴェラは顔を真っ赤にして固まる。他の者達も意外そうな目で彼女を見た。なにせ、戦大好きバーサーカーエルフ、ドワーフ並の酒豪エルフ等の異名を持つヴェラだ。とても、女の子らしい趣味の持ち主とは考えられなかった。
「意外な趣味だな、男っぽい性格なのに。というか、メディア。どうして、ヴェラの趣味まで知っている?」
「こう見えて、アサシンなんですよ? 私に不可能と言う文字はありません。ちなみに、ヴェラの今日の下着は‥‥」
「人の秘密を勝手に暴露するなああ!! それ以上、言ったら殺す」
とうとう、メディアの首を目一杯締め上げだしたヴェラ。さすがにこのままだとメディアが死んでしまう。慌てて、カレルとバランがヴェラを引き剥がす。バランがいる事に気付いた彼女は、慌てて直立不動の姿勢に直り、彼に向けて敬礼する。
「仲が良いのか、悪いのか分からんな。ヴェラよ、無事で何よりだ。生き残ったのは君だけか?」
「し、失礼しました、バラン様。すみません、僕も地面から脱出するので精一杯だったので。どこかの非常識エルフが、考え無しに爆破したせいで被害が分からないんです。生き埋めになってる者もいるかと」
爆発が起きた時、陣地周辺にはダークエルフと牛人の軍勢が入り乱れて戦っていた。被害が彼らに集中しているのは、間違いない。虎人や猿人の援軍は、陣地を側面から攻撃しようと動く前だった為、比較的無事だった。
「とりあえず、全員死亡で構わないと思いますよ。牛人族族長もダークエルフ族族長もあの世に旅立ちました。これで、一件落着ですね」
メディアが強引に話を終わらせようとしたその時、メディアの足下の地面が盛り上がった。土煙が舞い、出てきたそれはメディアに思いきりつかみかかる。土まみれになっていたが、姿形は間違いなくダークエルフ族長セナであった。
「メディアああ。貴様、謀りおったな! 予言通り、災いを呼ぶ子であったか。やはり、えっ?」
肩を叩いた者がいたのでセナが振り向くと、無表情のバランがにらみつけていた。冷や汗で総身が汗まみれになった彼女はしどろもどろになりながらも、弁解を始める。
「ば、バラン様。これはメディアの仕業です。わ、我々は牛人に遅れをとらず、そのう、か、勝っていました。ゆ、故に‥‥」
「弁解はいらん。メディアがと言うが、策を見抜けん時点で話にならないだろう。陣地の作成も人任せで確認もせず、そのまま戦ったと聞いた。しかも、造反を招いたのは貴様らが原因ではないのか? さて、族長たる仕事をしてもらおうか。父上が手ぐすね引いて、魔王城でお待ちだ。厳しい沙汰が出ると心得よ!」
「お待ち下さい。まだ、負けてはおりません。ヴェラと精鋭のダークエルフの部隊が‥‥あっ」
バランに引きずられながらセナは弁解を続けるも、転移魔法で魔王城に連れていかれる。それを見届けたメディアは、笑顔でヴェラに近づくと左肩に手を置く。
「おめでとう、ヴェラ。これでセナは族長から降ろされる。貴女の時代になるわ。色々と頑張ってね」
このままだと族長になってしまう。それに気付いたヴェラの顔色はみるみる悪化。様々な感情が入り乱れた結果、遂には絶叫してしまう。
「い、嫌だああ! こんな歩く危険エルフの後始末をまたしないといけないの? ダークエルフって、問題山積みだし、保守的な連中は多いしで領地経営も大変何だよ。割に合わなすぎる!」
「‥‥はあ、こりゃあ荒れそうだ。ワインとエールの良いやつ飲ませないとな。師匠。ヴェラはこれから重要な取引相手になるから、仲良くしてくれ」
カレルの頼みに、しばらく考えた後でうなずくセリス。彼女は、とうにヴェラのカレルに対する好意に気づいている。そして、カレルも彼女を悪く思っていない事にも。新たに現れた恋敵も強敵過ぎて頭が痛いが、ダークエルフ族長になるヴェラを無下には出来ない。
「7大魔将もこれでは形無しだな。分かった、仲良くしよう。ただし、私生活に関してはまだ認めんからな。それよりもまずは、今回の戦争の後始末をしないと」
とりあえず戦闘自体は終わったが、やらなければならない事は幾らでもある。勝者たるヴァイツァー商会は、牛人とダークエルフに使者を送る。戦後交渉の始まりであった。
次回、三者による交渉開始。爆発の一件は、ヴェラとカレルの話し合いにより、不慮の事故として処理されます。




