第12話 ヴァイツァー商会の仲間達
バランとの会談の後で、ファーブル王の下へと戻ったカレル達は非公式会談を持つ。呪いの為に状況説明出来ないカレル達に代わり、メディアが詳細な話を行った。ファーブルは、カレル達をねぎらった上で、例の件について話を始める。
「魔王の要請は、正直渡りに船だった。あまりやりたくはないが、時期が時期だけに早期決着を望む。宮廷内の派閥抗争もうるさいからな。手段は問わないから手早く頼むぞ」
「分かった。ただし、セリスの商会に利益を得させる。それは認めて欲しい」
「利益を求めるのが商人であろう? 構わんが、俺にも1枚かませろよ。狙いが分かるだけにな」
両国の王の許可を得たカレル達は、ビスティ王国領海内にある島であるヴェネルセ。その中央に位置するサルマーク広場へと転移した。ヴェネルセ島は中央へ行けば行く程、標高が高い。サルマーク広場から見える人間、魔族、獣人の領地に囲まれたアデリム海。そこに浮かぶこの島は、カレルがセリスの為に造り上げた水上都市となっていた。
島の中央を貫く運河と島の沿岸部にある港は船が絶えず行き交い、船着き場近くでは商人と客で賑わう市場が広がっている。様々な職人が働く工房街や娼婦が働く娼館を内包する色街。図書館に市庁舎といった公的機関の建物等も揃っており、街としての機能は完璧に整えられていた。
「おい、カレル。とんでもない都市を造ったな。商会の本拠地としては最高の場所だ。食料自給率が低いのが問題だが」
「師匠、そこは対策してある。隣に城壁で囲まれた大きな島があるだろう? リブ島というんだが、農業専門の島だ。全部は無理だが、都市の消費量の半分程度は賄える。後は、ビスティ王国領内からの輸送に頼らざるを得ないけどな。ヴァイツァー商会の建物はすぐそこだ。歩きながら話そう」
リブ島では、真水が豊富に湧き出ており、カレルが東方の島国から持ってきた稲を中心に栽培している。農業の内訳は水田4割、酪農3割、畑3割といった所だ。米と牛乳に野菜。牛、豚、鳥の肉類が主な生産物である。
「それにしても堅固な城壁ですね。街は石垣を築いて高台に作ってありますし、扉や水門はミスリル製。農地の中には、海より低い位置にある土地もありますし。カレル様、どれだけお金をかけたんです?」
「ざっと、金貨50万枚程使ったかな。香辛料に果物、砂糖で大儲けした金をつぎ込んだ。理由は、敵に対する防備と高潮対策だ。海水に浸かると、農作物も工業製品もすぐに駄目になるからな」
ライラの問いかけに答えたカレルが、ヴェネルセに都市を作った理由は3つある。1つ目は、外敵からの侵入を防ぐ事だ。周辺を海で囲まれたこの地は、高位の魔族やドラゴンはともかく、人間や獣人達だとなかなか攻め難い地形である。
しかも、城造りが得意なドワーフをわざわざ招聘し、難攻不落の街造りに成功。各勢力が迂闊に攻められないと恐れる都市となっている。
「しかし、良い場所に作りましたね。この辺りは、どの勢力の船も必ず航行する中継点に位置しています。いくら勢力図が様変わりしても、この島の重要性は変わらない。カレル様、さすがです!」
目を輝かせ、カレルを賞賛するライラ。口を尖らせて、その様子を見るセリスは不機嫌そうだ。だが、肝心のカレルが困った表情をしている。それに気付いたメディアが、彼に尋ねた。
「カレル様、どうなさいましたか?」
「いや、この都市の設計は俺の手柄じゃない。道路や運河、港の整備は自分の仕事だと認められるがな。俺の功績は2割程度さ。ヴァイツァー商会の副会頭達が2割、そして後の6割はプロフェル=エクゼスという謎の建築家の功績だ。結局、何者か分からずじまいだったからな‥‥。おっと、ここだ。イローナ、いるか!?」
サルマーク広場に面するヴァイツァー商会の商館は、大理石をふんだんに使った立派な造りだ。中も金や銀製の装飾品、大きな絵画や彫刻等が整然と設置されている。
カレルの声が聞こえたのか、檜で作ったドアが開かれ、弧人族の女性が出てきた。黄色の髪と尻尾、明るい青の瞳が印象的な彼女は、カレルを見ると体ごと飛び込んでくる。
「カレル、帰ってきたんだ! 商会の経営には特に問題無しだよ。でも、道路や港湾整備の依頼が結構来ていて困っていたの。依頼料もかなり良いし、早速仕事をしてくれる?」
「おい、いきなり使い倒そうとするな。笑顔で、きつい仕事を振りやがって。あの爺に似なくて良い所が似てるぜ。それより、大口の仕事が入った。フィンもいるか?」
「いますよ、カレル様。イローナと打ち合わせをしていましたから。お嬢様、お久し振りです」
イローナが出てきた部屋から、執事服を着た40手前の男が現れる。彼を見てセリスは二重に驚く。何故なら、自分の両親を追い出した計画を建てた人物の1人だったからだ。造反者達と新しい商会を立ち上げ活躍していた男が、ヴァイツァー商会の副会頭として入っている。セリスは思わず問いかけた。
「フィン=ヤンセン。貴方はヴァイツァー商会を見限り、商会を立ち上げたはず。それなのに‥‥」
「理由は簡単ですな。彼らより、カレル様の夢に興味を持った。それだけです。島1つを水上都市に変え、しかも獣人や魔族との通商も考える。本国の石頭どもには、この凄まじさを分からないでしょうな。構想はエクゼス殿任せとはいえ、見事に実現させたのですから」
普段人を褒めないフィンからも褒められ、そういった事に慣れていないカレルは恥ずかしさを隠すべく、頭をかきむしる。
「ああ、もう! 今は俺の事はどうでも良い。それより、大口の仕事が入った。フィン、レーナも呼んでくれ。護衛の件で話がある。イローナ、離れろ。ライラとセリスが、にらんでいるから。お前達、これから忙しくなるぞ」
次回、それぞれの陣営に物資を売り込みに行きます。




