第10話 賄賂も交渉手段の1つ
「私の趣味です。流れる音楽は歌曲と呼ばれるジャンルで、名音楽家が作曲しています。魔王から子供を連れて逃げる父子の話なんですよ。まあ、最後は魔王に子供が連れ去られるんですけど」
「「最後が悲惨すぎるわ!!」」
呪いの非道と歌詞の悲惨さに、思わず突っ込みを入れるカレルとセリス。実際に聞いた事があるバランは、深くため息をついた。排泄の度に歌と音楽が流れるのだ。最初は笑うのを我慢していた者達も、最後は笑う始末。叔父であるヤンクは泣きながら城を後にし、世界で1番高いヨナリース山に隠棲している。
ちなみに契約内容は、兄である魔王に忠誠を誓う事であった。それを破ったので、ただ1人呪いを解けるメディアはヤンクの呪いを解除していない。そして、これからも解除する気はないようだ。
「本当に約束を守ってくれよ。 ところで、セリス。お前の取り分は幾らだ? 全額を補償に使う訳ではあるまい?」
「ええ、もちろんです。金貨3000枚程、手数料として頂きます」
セリスの発言に、その場にいた全員が静まり返る。カレルは呆れ返り、ライラは困惑気味。モートンは驚き、メディアは次に何を言うのか興味津々の様子だ。怒りを覚えるバランは、ドスの効いた低い声でセリスの真意を問い質す。
「‥‥おい、半分近く貰うつもりか? 輸送料を考えるとビスティ王国が損するぞ?」
「ご安心を。私達には、カレルとライラ、メディアという魔術師がいます。彼らの転移魔法を使って運ばせれば、輸送料の分は省けます。違約金と物資が傷んでいた場合の交換費用を3000枚程と見積もれば、後は3500枚が自由に使える。500枚をビスティ王国に差し出し、3000枚を我々が頂く。悪くない話ではありませんか?」
「ちっ、俺はお前を儲けさせる為の道具か? 聖騎士は、ただの戦好きかと思っていたがな。してやられたよ」
「そんなバラン様に朗報です。金貨3000枚のうち、1500枚を手数料としてお渡しします。私はいずれ、実家を再興しようと思ってましてね。バラン様には是非とも顧客になってもらいたいのです」
セリスの言葉に首を傾げるバラン。どうやら、ライラも分からない様子だ。それを見かねてカレルが説明を始める。
「師匠、やっぱり諦めて無かったか。まあ、助けた時にそう言うと思って、ファーブルと胡椒や果物栽培に力を入れたんだがな。師匠は商家の出身でな。あこぎな商売をして、大儲けしたは良いが部下達の造反で全てを失ってしまった。両親は亡くなっているが、また商売をしたいと言っていたんだ」
「両親の仇をとる事は考えてはいない。正直、娘の私から見ても酷い人間だったからな。部下は道具扱い、自分達だけ贅沢三昧の日々を送っていたんだ。造反されても文句は言えん。さて、バラン様。金貨1500枚をお渡しするので、魔族側の取引窓口となって頂きたい。いかがでしょう?」
取引してくれるなら金貨を渡す。あからさますぎる賄賂の申し出に、こういった経験の少ないバランは困惑する。すると見かねたメディアが助け船を出した。
「あらあら、セリス様ったら。魔族の王子相手にして、賄賂とはやりますね。バラン様、どうなさいますか? 懐に納める、色街で散財、高級品を買う。色々と楽しめますね、魔王様に疑念を抱かれますけど。それよりは、欲しい物を買える環境を作った方が良いと思いますよ」
「いやいや、賄賂を貰ったのがばれたら父上に殺される。セリス、俺の取り分として提示された1500枚分は父上に報告し、支払いから除外する。代わりに俺の御用商人として、君を取り立てよう。それで、手を打って欲しい」
「メディア、交渉の邪魔をするな。もう少しで、魔王の息子に金の味を覚えさせられる所だったのに。賄賂を重ねれば、操り易かったんだがな。次期魔王を操り、楽々金儲け作戦は失敗か」
残念そうに語るセリスを見て、戦慄を覚えるライラ。性格を知るカレルは動揺せず、メディアは面白そうに彼女を眺める。後少しで傀儡の道に踏み出す所だったバランは、ホッと胸を撫で下ろした。
「その考えが怖すぎるわ!! メディア、ありがとう。危うく悪魔に魂を売る所だった。1週間以内に、補償金と物資は送ると約束しよう。財源は、モートン達の財物から出すがな。とりあえず、この泥棒のサインも契約書に書かせる」
そう言って、バランはモートンに羽ペンを渡してサインを迫る。だが、モートンはサインを書く事を渋る。財産が差し押さえられ、無一文になってしまうからだ。
「い、嫌だ! 豊かな生活が失われ、ヴァンパイア達の忠誠と士気が下がってしまう。バラン様、お慈悲を!」
「たわけ!! 貴様らの愚行が招いた結末だ。さっさとサインしろ。早くしないと足の1、2本へし折るぞ!」
「ううっ、分かりました。サインしますぅ」
激怒したバランの気迫に負け、泣きながらモートンはサインをする。ライラは、その様子を見て悲しげに見つめる。かつて付き合いがあった者達が、ドン底に堕ちていくのを見るのが辛かったからだ。
「世話をかけさせおって。モートン、貴様は先に魔王城へ転移魔法で送る。カミーラと共に処罰を待っていろ。これで1つの案件が片付いたが、本題はここからだ」
モートンを送り出したバランは、真剣な表情でカレル達に語りだす。その内容は、かなり衝撃的な事案であった。
「近々、ビスティ王国を魔族が攻める。その際、双方の調停ないし殲滅を依頼したい。受けてくれるか?」
次回、依頼を受けてのカレル達の話し合いです。




