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波乱万丈の魔術師  作者: 流星明
第1章 世に再び現れる英雄
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第1話 かつての英雄

「マスター。エールをもう1杯頼む。しかし、かつての凶狼が酒場の主とはな。すっかり板についたじゃないか、バルザよ」


「ふん、そっちこそ。かの殲滅の魔術師が、獣人の国で隠者暮らしと言うのも信じられないぜ。そうだろう? カレル=バーネット」


「まあな。あれから10年か。年月が過ぎるのは早いものだ」


獣人達の国であるビスティ王国。その王都ギャレスの大通りにある酒場で2人の男が会話していた。バルザと呼ばれた黒狼人は、樽に備え付けられた蛇口をひねって、エールを木のコップに注ぐ。


凶狼と呼ばれた理由は、たった1人で敵100名の部隊を殲滅したからだ。だが、今の姿は少し強面な酒場の主に過ぎない。


「おらよ、エールお待ち。しかし、カレルよ。お前は裏で色々と活躍してるらしいじゃないか。ファーブル様の依頼を受けて、東の山に住むドラゴンを討伐。更には、不満を持つ過激派を軽く粛清したと聞いたが?」


「昔に比べれば、まるで大した事は無いさ。それに、敵が弱すぎて歯応えが無さすぎる。魔王軍の連中の方が数倍怖いぜ」


「まあ、確かにな。だが、ファーブル様も喜んでいらっしゃった。それでいいじゃねえか、仲が良くて何よりだよ。ところで、獣人王様とは何時からの付き合いなんだ?」


エールを渡し、別の客の注文をさばきながら、バルザはカレルに問い質す。その男、カレル=バーネットは10年前に終結した人魔大戦の英雄である。そして、教会が認めた12聖騎士の1人でもあるのだ。


更に言えば、人間の魔術師の中では五指に入る実力を持っており、3万の軍勢を攻撃魔法で殲滅した事がある。その凄まじい威力に、カレルは魔族達から『殲滅の魔術師』の異名で呼ばれ、恐れられた。


しかし、ある時期を境に彼は戦場を後にする。そして、ビスティ王国に亡命すると、森の中で隠者生活をし始めた。もっとも、それは人間側に対する擬態である。裏では、ある島の領主として精力的に活動していた。


領主としての仕事をしつつ、カレルは自分と仲間を受け入れてくれたファーブルの依頼を受けている。それが、ビスティ王国に対する彼なりのお礼であった。


「かれこれ12年の付き合いで、聖十字軍の陣内で知り合ったよ。最初は喧嘩しまくったが、最後の方は一緒に酒を飲む位に仲良くなった。それ以来、ファーブルとは持ちつ持たれつの関係さ」


木のコップに入ったエールを飲み干し、椅子から立ち上がるカレル。腰のベルトに引っ掛けた袋から銅貨を取り出す。


「彼は俺を保護して、俺は彼に力を貸す。バルザが料理やエールを提供し、俺が金を支払う関係と同じさ。親友であり、雇い主でもある。全く妙な関係だよ、あいつは人間嫌いなのにな。最も俺も人間が嫌いだから、似た者同士ではある。バルザ、ごちそうさん。また来るぜ」


「おう、毎度あり。明日は、お前の好物である牛肉を焼いてやる。この国じゃあ、なかなか手に入らないんだ。必ず来いよ」


「そりゃあ、楽しみだ。じゃあな」


カウンターに銅貨を10枚置いて、カレルは酒場を後にする。酒場には獣人達が大勢いたが、誰1人カレルに話かけようとはしない。皆、彼の実力を恐れていたからだ。


「おい、バルザ。よく話が出来るよな。黒熊人の狂戦士ナン達を焼いたの奴だろう? 戦って、わずか1秒で消し炭になったらしいじゃねえか」


「俺も聞いたぜ。東の山のドラゴンを氷漬けにした後、粉々に砕いたらしい。見てた連中、あまりの強さに漏らしたって話だ」


「すげえよな。人間にしとくにゃ、本当に惜しいぜ。獣人王であるファーブル様が認めるだけはあるな」


獣人社会は強者こそが正義であり、弱者は顧みられない。そして、異なる種族を嫌う閉鎖的な所がある。だが、そんな中で人間のカレルが認められ、畏怖されている存在なのは珍しい。いかに12聖騎士といえど、その強さを認める獣人は少ないからだ。


「お前ら、頼むからここで喧嘩を吹っ掛けるなよ。あいつの魔法は、ファーブル様でさえ恐れる強さだからな。酒場が破壊されたら、煽った馬鹿に全額弁償させるからな。‥‥マジで」


「わ、分かってるよ。建物を軽く吹き飛ばす奴だ、絶対に喧嘩しねえ!」


「んだ、んだ。あいつと戦ったら、命がいくつあっても足りねえだ」


凄みを効かせたバルザの警告に、獣人達は、慌てて首を縦に動かす。それを見た彼はカウンターの銅貨を取り、コップと皿を片付ける。獣人達が知らないであろう、カレルの虚無を考えながら。


(あいつの心には、穴が空いている。未だに彼女の事が忘れられないみてえだな。12聖騎士の1人、セリス=ヴァイツァー。人形魔剣士となった女の事をな。その鬱屈した思いを晴らすべく、強者との戦いを望む。全く、不器用過ぎなんだよ。早く彼女を救い出せ。さもないと死んじまうぞ、カレル)






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