第5話「私は密かにではないが、計画する。」
羽鳥幟は編入生である。
和佐美中等教育学校は名前の示す通り、中学からのエスカレーター式で中学受験をパスした者達は高校受験をしなくて済む。
羽鳥幟は元々別の中学にいた。そして高校受験を期に和佐美中等教育学校に入学したのだ。
何故、態々そうしたかと言うと幟は中学三年時にストーカー被害にあっていた。相手は必要に絡んでくる事を除けば特別何かする訳でもなかったので大事にはならなかったが、その人物と万が一でも一緒の高校に入学したくなかった為に中等教育学校に高校から入学という手段を用いたのである。
よって入学時、幟は若干浮いていた。それもそうだ皆が足踏み揃えて『新入生』という札が貼られているのとは違い、既にコミュニティーが出来てしまっているのだ。
それでも幟は持ち前の周りに溶け込む能力で何とか必要最低限の友人関係は築けたが、勿論あくまで必要『最低限』であり────
「おい、あいつ誰だよ?」
「守さんとどうゆう関係だよ!」
「きゃー!守ちゃん大胆!!」
「はぁ?俺の巣籠と…あいつ何様?」
「羽鳥くん、や~る~。」
こういう事になる。
(ていうか二番目の奴、話聞いてなかったのかよ!?ろくに会話すらした事ないって言ってやったろうが!)
そして、今この状況は延ばせば延ばす程面倒になっていき。
「ダメ、かな…?」
(コイツ…後で絶対泣かす!)
「悪いけど巣籠さん、俺達ろくに会話もした事ないし…お互いの事もよく知らない訳だし早計じゃないかな?」
(よし。今この場での模範回答だ!)
「そうだよね…いきなりこんな事言われても迷惑だよね…。」
(オイコラ、何湿っぽい演技してやがる。)
段々、増していく男子達からの敵意や女子達の好奇の視線にどう対処するか必死に考えているとタイムリミットが来てしまう。
「まあまあそう急く必要もあるまい。ゆっくり考えられよ、ステータスプレートは返すから戻ると良い。」
そう言って金属板を返す国王に言われるまま生徒達の元へ戻る。
そしてそのままステータス確認の作業は続けられた。
勿論幟は隅の方で時間が流れるのをひたすら待ち、誰からも話し掛けられない様に徹底したし、守は女子からの冷やかしにあっていた。
♂♀
「それで、どうして、こ、う、な、る!!」
「まぁまぁ、落ち着きなって。膝枕でもしてあげようか?」
そう言う隣に立っている人物、巣籠守を一睨みするが揚々とした態度を崩さないので溜め息をしつつベッドに飛び込む様に身を預ける。
時間は三時間程前に遡る───
あの後、幟が後ろの方に並んでいるのもありステータス確認は直ぐに終わった。
そして今日は色々あって疲れただろうという国王達からの計らいで食事と睡眠をとる様に言われ、豪勢な夕食を済ませいざ寝ようという時部屋割りを言われた。流石に100人を超える生徒全員を個室にする事は出来ず、二人で一部屋になったのだが幟と守は同じ部屋にされた。
勿論、幟は反対した。付き合ってすらない男女が同じ部屋で寝泊まりするのは間違っていると。
しかし国王側にも考えがあり、さっき説明した通り『魂の絆結』はお互いが近くにいればお互いの能力を向上させる効果があるとされているので、なるべく二人を一緒にしておきたいとの事らしい。
流石に一緒の部屋になると聞けばさっきは黙っていた男子や一部女子も反論したが、此処で最悪の一手を打つ者いた。
勿論、巣籠守だ。
「私、別に構いませんけど?むしろ能力が上がるなら魔王とか言うの早く倒せて良い事ばかりじゃない?」
と、男女相部屋となる女子本人の意見が上がった為決定となってしまった。
なお、それでも馬場や御上など食い下がる者もいたが守が押しきった。
「お前、どうすんだよこの状況。」
ベッドでうつ伏せになりながら呻く様に呟く幟。
「別にどうもしないよ。このままいけば公的に幟と付き合えるし。」
うつ伏せになっている幟の近くに座り、幟を仰向けにして自分の膝に頭をもってくる守。
「公的にって…俺ら別に付き合ってないんだが?ていうか態々スカートずらすな。」
「だから言ったじゃん付き合ってみない?って…そういえばまだ一度も告白した事なかったねどっちも。布よりも現役JKの太ももの感触の方が良いでしょ?」
「どうでも良いよ付き合うとか。風呂入ってくる。」
そう言いながら起き上がりドアの方に向かう。食事の時に大浴場があるから好きに使えと言っていたのだ。
「えー。私の太ももの感想は?」
「もうちょっと肉があった方が俺好みだった。」
「私、肉付きにくい体質なんだよねー。」
「だろうな。」
ある一部を見ながら幟は出ていった。
「酷ーい。いってらっしゃい。」
幸いこの状況で呑気に風呂に来る人も少なく、絡まれる事はなかった。
部屋に戻ると守は居なくなっていた。
(風呂に行ったんだろう。)
待っていても仕方ないので幟は先に寝る事にした。