第11話「この日、俺の人生は方向を違える。」
止まってしまってすみません。
グルセーヌ迷宮1階層。
入り口は洞窟の様になっており中は土で覆われているにも関わらず、息苦しくない。所々にヒカリゴケと呼ばれる苔が繁殖しており外程ではないが明るい。
「Tyu!」
グルセーヌ迷宮に入ってしばらく歩くと鼠型の魔物が3匹現れた。鼠型と言ってもその大きさは人間の赤ちゃん程もある。
名前 :なし
レベル:6
種族 :スレットマウス
HP :1290
MP :14
攻撃力:84
防御力:61
体力 :90
筋力 :44
敏捷力:82
精密力:13
精神力:4
知力 :5
【スキル】
威嚇Lv1
牙鋭Lv2
「スレットマウスだ!ここらじゃ弱い魔物だがいつでも転移石を使える様にしとけ!」
ジェノスの言う通り、皆一様に腰ポケットに入った水色の石を確認する。
転移石とは魔物から捕れる魔石という物に『空間魔法』という超高位魔法を付与した魔具で、迷宮の中から入り口までテレポートの様に一瞬で移動できる。『空間魔法』の使い手というのが国に保護される程貴重である為、高価なアイテムになってしまうが今回の為に大量に用意された。
「はぁ!!」
まずジェノスがスレットマウスに軽く攻撃し、注意を引き付ける。この後生徒達が魔物を倒し経験値を得るというが今までのパターンである。
「一閃の月!!」
その言葉と供に圧縮された光の斬撃が暗い迷宮に眩しいくらいの光量をもたらす。
その斬撃は3匹のスレットマウスを悲鳴すら与えず上下真っ二つにした。
「おいおい晴輝ぃ!1匹ぐらい残しとけよ!!」
織田が6つになったスレットマウスを見ながら御上に絡む。
「ごめん昌道。初めての迷宮で強さも分からないから直ぐやった方が良いと思ってな。」
「相変わらず凄いね~御上くんの『天上天下』。」
「今んとこ一撃で倒せなかった魔物がいないしな。」
隣に居た颯助が前の方で行われた戦闘に感嘆の声を出す。
スキル『天上天下』。勇者である御上に与えられたエクストラスキルである。その能力は圧倒的攻撃力で敵を屠るというとんでもない物である。
「それより今の魔物のレベル6だったぞ。」
「だね、今まで最高で5だったのを考えるとやっぱり迷宮は気が抜けないね。」
御上がジェノスに軽く注意され、その後もレベル5~9の魔物を倒していった。幟達も遠距離でありながら少しずつ攻撃を加え、経験値を得ていった。
しばらく進み現在は6階層。聖騎士達が道を覚えているとはいえ初めての迷宮探索で短時間でここまでくれれば上等だろう。下の階層に降りる階段が見え、一時休憩となった。
「羽鳥くん、また魔法覚えてたね。一体どうやってるの?」
壁に背を預けて休憩している幟にパーティーメンバーである綾が後輩である雪音を連れて話しかけてきた。正直面倒だなと思いながらも無視するのもアレなので返事を返す。
「いや、何となく魔法を出す時の手順を注視して動きをトレースしたら出来たり、出来なかったり。何十回やってやっと成功する程度だけど。」
「それでできる何て羽鳥先輩は凄いです…。」
「逆にそれしかできないけどね。」
目をキラキラ、髪をピョコピョコしながら雪音は尊敬の眼差しを幟に向ける。
「それで、羽鳥くんはアヤヤと雪ちゃんどっちの動きを注視してたの?」
雪音の後ろから抱き付く様に守が現れ、注視の所を態とらしく言いながら聞いてきた。いきなり抱き付かれて雪音は「はぅ!」と意味をなさない声を出している。
今回幟が修得したのは『風魔法』。迷宮参加組には綾と雪音の二人しか使い手がいない。
「…二人供参考にさせてもらったよ。ありがとう。」
意地の悪い顔をする守を今すぐどつきたい衝動に駆られるが、グッと堪えて無難な答えを出す。
「おっ、お役に立てて光栄です!」
「羽鳥くんの力になれるなら私も凄く…嬉しいし、これからも言ってね?」
雪音と綾は少し顔を赤くさせ、嬉しそうにそう返した。
「…それじゃあ俺は高梨に用事があるから。」
人気の女子トップ3を独占という状況に長居しても良い事は米粒程もないのでさっさと退散する幟。
男子、特に馬場や御上などからの視線が煩わしい事この上ない。
それから着々と進み現在9階層。
「何だか簡単に進むね。これなら来てない人も何人かは来れるんじゃないかな?」
「だな、集団で来てもこっちは45人にパーティー一組につき一人聖騎士がいる。このくらいの階層じゃ被害何て早々でないだろ。」
などと話していると11匹の集団が現れた。11匹と言っても多すぎるという訳ではなく、むしろこれくらいいなければ全員に手が回らず調度良いくらいだ。
「助けてくれー!!」
全員がいざ敵を相手にしようとした時、声が響いた。
その声と供に地響きがし、段々と大きくなっていった。
「っ!全員転移石を使え!!」
前にいるジェノスが大きく声を上げ、指示を出す。
幟達からは隠れて見えないが何かが起こったのは確かだろう。現に見えている者達の何人かは一目散に転移石を使っている。
何人かが目の前から神隠しの様に消え去り、前方で何が起きたのかが分かった。
魔物だ。しかも10や20ではない、全体は見えないがぱっと見でも80はいるだろう。中には今までいなかったタイプの魔物もおり明らかに強そうだ。
「現実にトレイン行為はちょっとね…。」
隣にいた高梨が独り言の様に呟いた。
こっちに向かってくる魔物の少し前には冒険者と思われる5人程のパーティーが走っている。そしてそのパーティーはもう20mもないぐらい近くに来ていた。
「クソがっ!!今残っている者は戦闘準備!我妻と桜小路は全員にスキルをかけろ!魔法職の奴等は詠唱を開始し、合図を出したら全員で天井に向けて放て!!」
今から転移石を使っても無駄だと判断したジェノスは残っている者達に指示を出す。
転移石の使用には約5秒程の時間が掛かる。転移石に設定された迷宮の入り口までの距離や方角の認識に現在地までのルートの固定などで約5秒掛かり、その間位置情報がずれては発動しないので移動しながらの使用もできない。今から発動しては魔物の餌食になるだけなので当然の判断だろう。
「前衛が殆どいねぇ…。」
先程、転移に成功させた者は16名。その全員が前衛職の者だった。後衛の魔法職の者が詠唱に入る事になるので食い止めるのは至難の技だろう。
そこからは乱戦だった。
魔物を押し付けた冒険者は幟達を抜き去りさっさと逃げていき、聖騎士達を中心に前に出て魔物に手傷を負わせていく。
魔物を倒す事が目的ではなく、足止めし、魔法で天井を崩して逃げるのが目的なので深入りする必要はない。
が、それでも3桁はいるであろう魔物を相手にするのは苛烈を極めた。
「詠唱終わりました!!」
スキル『指揮』で全体の指揮を執っていた綾が魔物組の詠唱が終わった事を伝える。
「全員下がれ!!」
ジェノスの指示に従い、全員が下がるが幟だけ移動が遅れる。
「ぐっ。」
前衛が殆どいなくなった今、剣術が使える幟も前衛についていたが攻撃力が足りず、狼型の魔物を3匹同時に相手取る事になり足を噛まれたのだ。
「先輩っ!今、付与魔法を掛けます!!」
その事に気付いていた雪音がすぐに『付与魔法』掛ける為に近付いて来た。
「ああ、ありが──」
それは一瞬だけできた絶好の機会。
前衛の全員が後ろを向き、後衛からは隠れて見えない。
前衛から離れすぎず、目立つ前の状態。
幟がお礼を言おうとした瞬間。
何者かに蹴られた。
「なっ!?」
幟の背中から力強く蹴られ踏ん張る事も出来ず、前に居た雪音共々魔物達の真っ只中に突っ込んで行った。
ザザァー
土を引きずりながら着地した幟はすぐに起き上がった。
「ちっ。」
四面楚歌だった。
元々倒す事を目的にしてなかった為、殆どの魔物は生きており、隙間を縫う様に蹴っ飛ばされた二人は前後左右見渡す限り魔物で囲まれていた。
「せ、せっんぱ。い…」
倒れていた雪音も状況を確認して絶望した様な顔をしていた。
(誰がこんな事した?イヤ、今はそんな事どうでもいい。ダメージ覚悟で突っ込む?ダメだ。奥に来すぎた俺の足じゃ辿り着く前に死ぬ。逆に奥へ進む?ダメだ。奥に行っても助かる道がない。桜小路だけでも投げ飛ばして助ける?ダメだ。明らかに筋力が足りない。なら───)
雪音と一瞬目を合わしながらも思考を回すが、何も解決案が思い付かない。
「羽鳥くん!!雪音ちゃん!!」
こちらの事に気付いたらしい綾の声が響いた。
それが合図だった。
「「「「「Gyaaaaa!!」」」」」
何体もの魔物が一斉に襲いかかって来た。
「きゃぁあ!!」
「クソがっ!!」
せめて雪音が助けられる時間を稼ぐ為に抱き締めた瞬間。
「キュッ」
何の前触れもなしに目の前に魔物が現れた。その魔物は手のひらに乗るぐらいの大きさで狐の顔に尻尾があり、体は人間の子供の様になっている。
直感だった。
もしくは只イライラしていただけかもしれない。
だが目の前のこいつを逃してなるものか。と思った。
目の前に現れた瞬間、魔物を鷲掴みにし引き寄せた。
「キュッ!?」
「「「「「Gyagaaa!!」」」」」
狐の魔物が鳴いた時にはもう幟達は魔物の群れに隠れて見えなくなっていた。
お久しぶりです。神無です。
自転車保険の手続きや引っ越し準備でひーひー言ってました…。
みなさんにご迷惑をかけてしまい申し訳ございません。
前の回をよみかえしたらグルセーヌ迷宮が全500階層という鬼畜使用になってしまっていたので300に修正しました。何故に500…。
それと勇者(笑)の一人称が僕になってたので俺に戻しました。はっきり言ってキモいですね♪
ブクマ数がいきなり倍に増えていたので雪音ちゃん効果かな?と思いつつ喜んでる作者と作品をこれからもよろしくお願いします。