第六話 魔法の酷使
ベビーベッドの上で静かに目を瞑る。
身体を流れる血に全神経を注ぐ。
体中の血液が手のひらに集まるような感覚。
血を押し出すように…
その血が燃える炎に変わるイメージ…
その時だった
瞑った瞳の先に、今まで感じていた光よりも強い暖かさを感じる
(……おぉぉ)
顔の前にかざしていた小さな手の平には
紅くゆらゆらと揺れる『炎』があった
(…これが魔法か。1歳で魔法を使える僕は天才かな)
前世では男子高校生の綾人。
魔法に憧れを抱いたことは何度かあった。
世の男子高校生ならば、漫画やアニメ、ゲームなど、魔法に憧れることは少なからずあるはずだ。
それが叶い、魔法によって出現した火を眺めている。
興奮しないはずが無い。
(よっしゃあぁぁ!どんどん鍛えて最強の魔術師になってやる!)
そんな野望を、魔法を使えたことで興奮して考えていると急に脱力感が綾人を襲う。
その瞬間、ゆらゆらと揺れる火が小さくなり消えていく。
(…やばい。気持ち悪い)
魔力の使い過ぎによる脱力感だ。
(ステータス)
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Name:アヤト・クラシキ・ツェット
Level:1
Job:ー
HP:10(10)
MP: 2(24)
ST:10(10)
IR:ー
筋力:10
物理攻撃力:10
物理防御力:10
魔力:12
魔法攻撃力:12
魔法防御力:12
敏捷:10
運:10
スキル:黒魔術師Ⅰ
(炎のフレイムⅠ)
加護:武術の加護Ⅹ、魔術の加護Ⅹ、検索の加護
[_________]検索
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ステータスを確認してみると、MPは残り2となっていた。
(まずい…まさかこんなちっぽけな炎でこんなにMPを削られるのは予想外だ)
20もあったMPが残りわずかとなっており、綾人の顔は血の気が引いて真っ青だった。
(やばい…気分が悪い…)
その時だった
「ーーー!」
部屋に入ってきたリーナは、綾人の真っ青な顔色を見てだろうか、驚いて駆け寄って抱きかかえる。
(…うぅ。まずい魔法使ったのばれてないかな?)
(なんとかごまかせるか?…だめだ…意識が…)
MP枯渇一歩手前を、初の魔法使用により体験した綾人の意識は闇に落ちていく。
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(ん……)
どれくらい眠っていただろうか?
綾人はゆっくりと目を覚ますと、そこは薄暗い部屋の中だった。
「ーーー!ーーー!」
ロドフが僕に叫びかける。
(昨日から何度も聞き覚えのあるこの単語は、もしかしたら僕の名前を叫んでいるのかな?)
きょとんとしてロドフを見つめ返す目は、魔力の過剰使用による虚脱感は感じられず、ただの寝起きのよくある眠たそうな2つの瞳であった。
(あ…そうか僕は魔法を使って意識を失ったんだった)
「アヤト!ーーー…ー………」
ロドフが叫んだことにより、リーナも部屋に入ってきて僕を優しく抱き上げる。
その瞳には涙が浮かんでいた。
(そうか…心配かけちゃったんあだな)
それはそうだ。
1歳になったばっかりの子が、顔色を真っ青にして意識を失ったんだ。
(すこし悪いことしたなぁ…これからは気をつけないと)
それから少し周りを確認してみると、夜まで眠ってしまったそうだ。
(さすがにお腹減ったなぁ…)
朝から魔法の使用で意識を失った為、朝から何も口にしていない。
『ぐぅぅ…』
綾人のお腹が盛大になったのだった。
「まんま!(ご飯!)」
(おっ少しこの身体の喋り方もわかってきたかも?)
転生初日には、赤ちゃんの口で気持ちを言葉で伝えることの難しさを知った。
必死に喋っていたおかげか、『あ』『う』『泣く』以外にも意識して発音できるようになっていた。
たらふく離乳食を食べた綾人は、転生2日目を終える。
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(離乳食って薄味であんまり美味しくないなぁ…)
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