第五十四話 魔法融合
アヤトはこの懐かしさを感じていた。
前世ではこの赤い柱の間をくぐり、よく神様に願い事を伝えにいったものだ。
この小島にはこの赤い柱だけで、建物や賽銭箱のようなものは無い。
ハナビが言っていた赤い柱とは…『鳥居』の事であった。
この世界には鳥居は珍しいのだろうか?
「あの大鯰を祀る鳥居なのか?」
思わず口に出すアヤト。
「トリイ?って何?」
サーラも鳥居は初めて目にしたのだろう。
「これは鳥居って言ってね、神様の神域と人が住む世界をわける結界の入り口みたいなものって言われてるんだ」
前世での記憶が正しければ神聖なものといったイメージだ。
しかし、サーラや周りのメンバーを見るとあまりピンと来ていないようだ。
「アートラス神殿みたいなもの?」
この世界では神々に愛されし『アートラス神』が存在する。
「それとは少し違うかな…そこまで大層なものではないと思うけど」
しかし、この鳥居のおかげで攻撃は免れているのかもしれない。
あの大鯰にとってこの鳥居は特別な物と仮定する。
こちらを直接攻撃出来ないのであれば、猶予はある。
「しかし手札が無い…」
既に使える魔法は使い尽くしている。
愛刀でのダメージも微々たる物だ。
倒しきる前に水が満ちて終わりであろう。
「アヤト…水が迫ってきてるよ」
既に鳥居の周囲5mほどしか陸地は残っていない。
「もうみんなの魔法を一斉に打ち込む?」
リザも破れかぶれになっている。
「そんな事言っても、魔法を下手に合わせたら威力が…」
この世界の魔法は上手い具合に強弱の循環を表している。
リザの得意な炎は、大鯰の水に弱い…その水の魔法もアヤトの得意な雷の魔法には弱い。
さらに雷は土に弱いなど自然界の法則に則っている。
全部の属性を合わせるような事があれば相殺され威力が低下してしまう…
「…そうか」
何かに気づいたアヤト。
「リザ!ありがとう」
リザの不意の発言がヒントになった。
水の中を早く移動する為に検索機能を使った。
その際の1文に記載されていた…水の電気分解により水素と酸素を発生させる。発生させた気体に電気を流し爆発を引き起こし…
「これだ…」
アヤトの考えだした方法とは魔法を使った科学実験だ。
水のフレイムで塩水を生み出す…その純粋を雷のフレイムにより電気分解で酸素と水素にわける…その2つの気体に炎のフレイムを合成させる。
(中学で習った理科だけど…水素で爆発を誘因する事が出来るはずだ)
「みんな姿勢を低くして衝撃に備えてくれ」
メンバーに爆発の衝撃から守るよう頭を抱えるよう指示を出す。
「まずはウォーターボール…」
なるたけ多くの水素と酸素を発生させるべく、大量の塩水を作り出す。
「これにエレキボールを…」
ウォーターボールにエレキボールの2つ組み合わせる。
「おっと危ない…バリア」
エレキボールを合わせる直前に気体を閉じ込めるバリアを張る。
ここまで同時に3つの魔法を展開している。
「う…」
同時の魔法展開が脳に負担をかけてくる。
片膝を地面に付けて最後の仕上げにかかる。
「上手く言ってくれよ…」
塩水に電気が加わり、気体が充満していく。
「よし…これをあの鯰に」
ここからさらに2つの魔法を駆使しないといけない。
1つは風のフレイムで大鯰にこの気体を近づけないといけない。
もう1つは仕上げに炎のフレイムで着火だ。
だが、もうほとんど力は残っていない。
「サーラ…僕が合図をしたらあの気体に炎のフレイムを打ち込んで」
「わかった…たぶん魔力ギリギリだと思うけど」
「大丈夫だよ。小さな火種でもいけるはずだから」
指示を出しつつ、大鯰の視界の端から気体を近づける。
欲を言えば大鯰の体内から爆発させる事が出来れば致命傷は確実だろう。
しかし口を横一文字に閉じている大鯰の口を開けさせるのには誰かが生け贄にならなければいけない。
そんなことは不可能である。
次にダメージの大きそうな頭部付近に気体を近づける。
「サーラ!今だ…大鯰の頭部を狙ってくれ」
ファイアーボールを構えて待機していてくれたサーラの手から火球が飛んでいく。
「吹っ飛べぇ!!!」
腹の奥から力を出して、ファイアーボールのあたる瞬間にバリアを解く。
ーーーバンズンッ
一瞬早くけたたましい破裂音が響くと、遅れて衝撃が届く。
衝撃に耐えきれず、天井の岩盤がいくつも崩れ落ちていく。
大きな水しぶきが霧状になり、爆発の煙と相俟って視界が悪くなる。
爆発から1分…2分が経過しただろうか。
あの爆発からはあの大鯰でさえ無事ではいないだろう。
だんだんと視界がクリアになっていく…
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