第五十三話 手詰まり
白い雷を纏う虎徹。
チリチリと雷を帯電させる技はアヤトの得意技だ。
刀の切れ味を上げ、雷によるダメージも付与させる。
だが今向き合っている階層主に後者のダメージは見込めないであろう。
切れ味を最大限に上げた虎徹を振るう。
ーーーブシュッ
アヤトと大鯰までの距離はまだ10m近くある。
しかし雷により刀身を伸ばした虎徹には些細な距離だ。
「浅いか…ジェルマン大丈夫か?」
大鯰がひるんだ隙に湖へと入り、ジェルマンとハナビを助け出す。
「…ったく、遅いんだよ」
しびれて上手く喋れないジェルマン。
「悪い…でも悪態つけるなら大丈夫だろ?」
「早く倒しちまえよ…」
それだけを言い残し、意識を失うジェルマン。
だが既に気を失っているハナビを未だに離していないとは男を見せたと言ってもいいであろう。
「任せとけ…」
既に気を失っているメンバーが3人。
大きく戦力を失ってしまった『知識の宝庫』
あと少しでも目覚めるのが遅かった場合は全滅も大いにあり得たであろう。
ここからはアヤトと階層主の1対1である。
既に先程アヤトの付けたはずの傷は塞がっている。
「分厚い上に自然治癒が高いな…」
大鯰の身体の大きさから考えると刀傷など致命傷には至らないかもしれない。
満身創痍のパーティーメンバーを頼る事もできない。
アヤトの手札のみでこの状況を打破しないといけない。
「水も雷もダメ…手当たり次第試していくしか無いか」
目の前に火球を出現させると、更に魔力を注いでいく。
青白い火の玉はあっという間にアヤトの背丈を超えると形を変えていく。
球状に大きくなっていたものは鋭い槍と化していた。
「これでどうだ…」
槍を投げるモーションを見せると、勢いよく大鯰に向かっていく。
その瞬間、飛んでいる槍に湖の水がまとわりついてきた。
白い煙が上がる槍は、湖の水を蒸発させながら大鯰の表皮に着弾する。
「相性が悪すぎるな…」
白い煙が晴れて来て、大鯰の表皮のダメージの確認が出来た。
「少しこげる程度か」
碌なダメージは入っていないだろう。
正直なところ、炎・水・雷が防がれてしまった今、アヤトの手持ちは心もとない。
土のフレイムもある程度は使えるが、問題はこのバトルフィールドだ。
土の存在するのはアヤト達の居る小島だけだ。
足場を崩してまで有効なダメージを与えられる可能性は低い。
「さっそく手詰まりか?」
自分に問いただすように呟く。
「アヤト!水が…」
後方でサーラが叫ぶ。
先程まで足下は地面であった。
それが膝丈まで水が迫っている。
「自分のテリトリーに引き込むつもりか?」
急いで島の奥へ避難するメンバー。
「しかし…」
アヤトは大鯰の行動で不可解な点がある事に気づく。
それは…直接攻撃をしてこない。
正確にはこの島に上陸してから、アヤトは攻撃繰り出しているが、大鯰は防戦でしか魔法を発動していない。
通常であれば、相手も攻撃するタイミングはあったはずだ。
水や雷を操れるのであれば遠距離攻撃も余裕のはずである。
島の奥へ避難している今も全く攻撃のそぶりを見せない。
「凄い勢いで水かさが!」
サーラが意識の無いルナを抱えて走っている。
後方から迫ってくる水際。
走りながら牽制で火球を飛ばすアヤト。
やはり水の壁に阻まれ、今度は大鯰に届く事すら無い。
「やっぱり、攻撃してこないな」
島から一定の距離を取っている階層主。
サーラの話を聞いてみると、この小島に来る前には頻りに魔法で攻撃を受けていたとの事。
「なんだ…この小島に罠でも仕掛けられているのか?」
思考を巡らせながら奥地に進んでいくアヤト。
奥地にあるものを見つけ歩を止める。
「これは…これが奴が攻撃してこない原因か?」
アヤトの眼前に聳えるものは…
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