第四十七話 ルナ
だが罠とわかっていても、湖に飛び込むしか手段は無かった。
頭上にはいくつもの先の尖った石柱。
目の前には未開の湖。
いくつもの水に飛び込む音が聞こえていたが、今は石が砕ける音や石柱が湖の中に沈む音も混ざっている。
最後に泉の中に飛び込んだのは、メンバー全員が飛び込んだかを確認したアヤトである。
(…なんとか石柱はかいくぐれたか)
暗闇の水中には、水上に残された火球の光がわずかに届いている。
(…全員無事か、落ち着いたら浮上するか)
おおよそ水深5mくらいの深さまで潜っている一同。
予想より深い湖の底にはまだ光が届いていないようだ。
湖の中にも未だに石柱が降り注いでいる。
水の中でも機敏に動けているのはハナビだ。
小柄な身体をひねり、最小の動きで避けている。
逆に泳ぐのが苦手なのか、動きの悪いのはルナとリリーだ。
(ネコ科の獣人に属しているからか?)
ネコは水が苦手で金槌とも言われているのを思い出す。
一説によると、ネコは元々は砂漠出身であり、ネコの歴史上に水を浴びたり、泳いだりといった経験がないため泳げないと言われている。
むしろ水浴びですら嫌がるネコも珍しくはない。
(あれは酷いな…なんとかしないと)
無駄に力の入っている四肢がバタバタと水を蹴っている。
遂には息が苦しくなったのか周りが見えていない2人。
そんな2人の頭上には大きな石柱がゆっくりと確実に降りてくる。
(ーーーまずい!!あのままじゃ避けられない)
他のメンバーは既に大きな石柱の落下範囲からは逃れている。
(ーーー間に合うか!!)
ルナとリリーの元へ急ぐアヤト。
必死に腕を掻き回し、足で水を蹴る。
(くっーーーこのままじゃ間に合わない)
どう考えてもアヤトの水中を進むスピードと、石柱の落下では分が悪い距離である。
2人の頭上2m付近には既に石柱が狙いを定めている。
息の続かない2人は気づいてもいない様子だ。
(やばい…どうしたら2人とも助けられるーーー考えるんだ!)
水を蹴る足を止めずに深い思考に落ちるアヤト。
普通に泳いでいっては到底間に合わない。
他のメンバーが助けに動いたとしても、2次災害の方が高確率で危険だ。
(ーーー僕に何が出来るだろうか?)
アヤトには特別な加護がいくつかある。
しかしどれも水の中で特に役立つ加護という訳でもない。
(くそ…何も出来ないのか)
刹那の瞬間、これから起きるであろう事柄に様々な思考を巡らせるアヤト。
(ここで何もしなかったら後悔する!)
何かを決心するとアヤトは素早く指先を動かしている。
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[ 水中移動 ]検索
水中を移動する方法
一般的にはクロール・平泳ぎ・背泳ぎ・バタフライなどの泳法がある。
また…
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(違う…こんな検索結果は求めていない!僕の求めているものはこの現状を打破する方法だ!)
ーーーその時であった。
意味の無い検索結果の表示が変わっていく。
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[ 水中移動 ]検索
魔法による移動法
泳法以外に魔法により水中を移動する方法が存在する。
水のフレイム…周囲の水に水のフレイムを溶け込ませ、水流を操り対象の物体を移動させる。
雷のフレイム…水の電気分解により水素と酸素を発生させる。発生させた気体に電気を流し爆発を引き起こし、その力により遊泳速度を加速させる。
ハイスト…自身の遊泳スピードを加速させることにより水中での移動も加速させる。
※自動検索で最適な情報に絞り込みました
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(なんだこれは…しかし迷っている暇はない!)
検索の加護により魔法での解決法が導きだせたアヤト。
(水のフレイムなら…いけるかもしれない!)
自身の周りの水に魔力を溶け込ませる。
アヤトの周りに水の流れが出来始めていく。
しかしーーーアヤトの頭上にも石柱が迫っているとは…全く気がついていない。
必死に前に進むように手足を動かし、視線は前を向いていたが検索結果に目を奪われていた。
アヤトにも危険が迫っていることにサーラ達が先に気づく。
周りのメンバーがしきりにアヤトの頭上を指差している。
(わかっている…なんとかしないといけないことは)
アヤトはサーラ達の指する意味を理解できずにいた。
ルナとリリーを助けることに必死で頭がいっぱいだったのだ。
ーーーその時だった。
(っつ!!!な、なんだ!?)
頭に衝撃を受けたことに動揺を隠せず、一瞬何が起きたのかわからずにいた。
(なっ!油断していた!)
水中であることが幸いし、落下スピードが殺された石柱ではアヤトにそこまでのダメージを負わせることは出来なかった。
しかしルナとリリーを助けられるかギリギリであった中、このロスは致命的だ。
(くそ…これじゃあ間に合わない)
このままでは後一歩届かないであろう。
なんとか手前に居るリリーは間に合いそうだが、ルナは難しそうである。
(リリー!…掴まれ!)
強引にリリーの手を掴み石柱の落下位置から遠ざけるアヤト。
すかさずリリーを仲間に託し、ルナの元に駆け寄ろうとする。
しかしその手を掴むーーージェルマン。
(無理だ!お前まで巻き込まれる!)
そう目で訴えて首を横に振るジェルマン。
(無理じゃない!なんとかするんだ!)
手を振りほどき、ルナの元に駆けつけようと視線を戻す。
その先には…石柱に背中を叩き付けられ、肺の中の空気を一気に吐き出してしまっているルナの姿。
(間に合わなかった…まだだ!諦めるな!)
その間にも石柱とともに沈んでいくルナ。
(一度浮上するぞ!)
目と指で浮上のサインを出すジェルマン。
アヤトの息ももう長くは続かない。
水中で身体を動かす為に大量の酸素を消費している。
肺の中の残酸素は限界ギリギリであった。
目の前には力なく石柱と共に湖の底に沈んでいくルナ。
(待っていてくれ…)
水流を操って一旦水面に浮上するアヤト。
「ぶはっ!はぁはぁ…」
息を整えるアヤト。
「ぷはぁ…」
ジェルマンがリリーの手を引っぱり、水中から顔を出す。
「リリーを任せた!僕はルナを助けにいく!」
大きく息を吸い込み、勢い良く水中に戻っていくアヤト。
「無理はするなよ!」
ジェルマンの声は既にアヤトには届いていない。
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