第四十三話 オーク
その材料の量は…何人分であろう。
しまっていった鉱石よりも見た目多いその材料は、パーティーメンバーが倍は居ても大丈夫であろう。
その大量の食材を手にしているのはルナとアヤトである。
これだけ女性の多いパーティーなのだから、もっと分担して調理すればより早く進むだろう。
しかし2人以外は決して包丁も鍋も持とうとはしないのである。
なぜか5人掛かりで火起こしをしている。
だがこの世界には魔法という便利なものがあるのだ。
炎のフレイムであっという間に火種は起こせる。
木の棒で摩擦熱を利用して…などといった旧時代の火起こしではない。
良いとこ育ちの多いSクラスのメンバーで構成された『知識の宝庫』
料理などしたことの無いメンバーがほとんどだったのだ。
実家では誰かしらが作ってくれる料理に舌鼓を打っている。
あっても野営の時に、肉塊を火で炙るくらい…。
そんな5人と比べるのは烏滸がましいほどの手際を見せるアヤトとルナ。
2人の息のあったコンビネーションであっという間に大量の料理が出来ていく。
「むしろあんなに出来る方が珍しいんだから…」
後ろの方から皮肉の声が聞こえてくる。
その声の主はサーラであった。
この時、アヤトの隣に立っているのが自分ではないことに、内心焦りを感じているとは自覚していない5歳の女の子であった。
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暗がりを照らすいくつもの火の玉。
明かりがテラス先には大型の影がゆっくりと動いている。
ザンと音が立つ。
大型の影から腕がずるりと落ちる。
「ギャァァー」
醜く低い声の主は大型のオークだ。
オークも油断をしていた訳では決して無い。
視界に届かぬほどの前方から何かが飛び込んで来たかと思うと、自分の腕が肩口から切り離されているのだ。
片腕を無くしたオークがヨタヨタと後退していく。
それをみすみす見逃すサーラではない。
「ーこれで止めよ」
サーラのその手に握られている剣がオークの首筋にかかる。
すると熱せられた鉄でバターを切っているかのようにオークが両断される。
「図体がでかいだけでたいしたことはないわね」
通常のオークはだいたい2mから3m程度だ。
しかし8階層で出会ったこの1体は4mを超えるサイズであった。
大きさだけであれば階層主のゴーレムを超える。
さらに多くのゴブリンを連れており、メンバー総出の駆逐作業となった。
「このサイズだとオークジェネラルでもおかしくないんだけどな」
先程アヤトの検索結果によるとオークには上位種となる存在が確認されている。
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[ オーク ]検索
『オーク』Fランク:中型モンスター
全長:約2m〜3m
特徴:2足歩行で棍棒を扱う
配下としてゴブリンを従える
『オークソルジャー』Eランク:中型モンスター
全長:約2m〜3m
特徴:2足歩行で剣と盾を扱う
配下としてゴブリンやオークを従える
『オークメイジ』Eランク:中型モンスター
全長:約2m〜3m
特徴:2足歩行で杖を扱い魔法を得意とする
配下としてゴブリンやオークを従える
『オークジェネラル』Dランク:中型モンスター
全長:約3m〜4m
特徴:2足歩行で様々な武器を得意とし、鎧を纏っている
配下としてゴブリンやオークを従える
『オークキング』Cランク:大型モンスター
全長:約5m〜
特徴:2足歩行で身の丈程もある巨大な斧を扱う
配下としてゴブリン種・オーク種・リザード種を統べるものとして君臨する
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サーラによって切り捨てられたオークの残骸は鎧を纏うことも無く、棍棒を振り回す程度のレベルだった。
「ちょっと周りのオークより育ちが良かったんじゃない?成長期ってことだよ!」
愉快な見解を発しているのはこのパーティーの明るさ担当のリリーだ。
拳に付着した返り血を拭いながら、暢気なことを言っている。
行動と言動が乖離しているのが彼女の特徴でもある。
「まぁ、俺らのパーティーならこれ位は余裕の範囲だな」
冷静にパーティーの総合力とモンスターレベルを見極めるジェルマン。
「この先を右に曲がると下層への階段があった」
先行しているハナビが報告に戻ってくる。
「特に危険な場面も無かったわね」
綺麗な小麦色の肌に金色の髪が美しいルナ。
「グギィィー」
最後のゴブリンを殴り飛ばし絶命させている。
振り返った顔には赤黒い返り血が飛んでいる。
「よし、さっさと討伐証明部位を取って下に進もう!目標は今日中に10階層のボスだ!」
メンバーに気合いを入れるジェルマンはゴーレム戦で活躍が出来なかったので意気込んでいる。
少し前まで、ダンジョンの違和感に先に進むのを反対したとは思えない。
所詮は女性の多いパーティー…ジェルマンがいくら言っても意見は変わらないだろう。
そういった時は諦めも肝心である。
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