第四十二話 魔石
「じゃあ、討伐証明部位と素材を回収しよう」
硬い岩で作り上げられたゴーレムの胸部には、大きな魔石が淡い光を放っている。
階層主の討伐証明部位はこの大きな魔石だ。
一定以上の強さをもつモンスターは体内のどこかに魔石を持っている。
この魔石から魔力を得て操り、強さを増していく。
魔石はこの世界の様々なものの動力として使用されている。
電力が動力源として発展していないこの世界には、魔石は数少ない動力源として希少とされている。
「今回のゴーレムの魔石はなかなかの大きさだね」
リリーはゴーレムから魔石を取り出した。
その魔石の大きさは大人の拳位の大きさだろうか。
その魔石の形はゴツゴツとした石のようだ。
とても綺麗な球体とは言えない形である。
「ゴーレムだから…属性は土みたいだね」
ルナはリリーの手の中の魔石を眺めている。
魔石にはさらに特徴がある。
その輝きの色合いによって属性が「炎・水・雷・土・風」に分かれている。
需要度によって売却価格も変動するが、炎と水は特に高く取引されている。
「これだけ大きければそれ相応の報酬が望めそうだな」
ハナビは戦闘で乱れてしまったポニーテールを結び直している。
よく見れば全員、土埃なんかで汚れている。
そんな汚れなどは気にせずにリザは一生懸命何かをしているようだ。
「やったぁー!ゴーレムから取れるなんてラッキー!」
何かを手にして喜んでいるようだ。
その手にはゴーレムの残骸が握られていた。
「硬いと思ったら、鉱石も結構混ざっていたみたいなの!」
ゴーレム類はその階層付近の岩や鉱物で身体を構成していることが多い。
15層以下ではミスリルなどを含んだゴーレムが出現することがあるが、通常は5階層程度では出現しないボスである。
5階層で生み出されたゴーレムでは、良くて鉄など碌な鉱石では無いはずだ。
「どうせ碌な鉱石はないだろ?」
そのことを知っていたジェルマンはリザに尋ねる。
「それがね!ミスリルも入ってるのよ!」
リザの手にする塊には銀色に輝くミスリルが光っている。
「これ売却しないで貰っても良いかな?」
ドワーフ族としては、ミスリルは喉から手が出るほど欲しい素材であろう。
まだ5歳のリザは加工するどころか、手にすることも殆ど無いのだ。
「まぁ、鉱石関係はリザに任せるよ。ちょっと後で試してみたいこともあるし。みんなもそれで良いかな?」
考えのあるアヤトは鉱石の管理をリザに任せようと考えていた。
その意思を汲んだメンバーは素材の回収を手伝い始める。
大きな岩などは転がしながら鉱石が含まれていないか確認をしている。
周りを見回しながら今後のことを考えるアヤト。
ここまで5階層…経過時間はわずか5時間程度。
時間的にはお昼近くであろう。
アヤトのお腹がそれを知らせてくる。
ダンジョン探索にはまだ時間的余裕がある。
メンバーの疲労度などもそれほど蓄積はしていないだろう。
過酷さで言えば学園の授業の方が過酷である。
休み明けの授業は、午前中に武術、午後に魔術と鬼のフルコースだ。
こちらの方が明らかに死亡率は高いだろう。
「この後だけど、どうしようか?このまま進もうか?」
メンバーに意見を求める声がフロアに響く。
瓦礫を転がす音しかしない空間にアヤトの声。
「アヤトの判断に任せる」
まさかの声に一瞬、声の主を疑ってしまった。
その声は長年聞き慣れた、懐かしい声。
顔を伏せたまま素材回収をして表情を見せない…サーラ。
「ずいぶん丸くなったのね」
サーラの隣に居たルナが耳元で囁く。
俯いたままで表情はわからないが、だんだん挙動がおかしくなるサーラ。
「あとでゆっくり話でもしましょうね」
そんなサーラの背中を軽く叩くルナは、パーティーのお姉さん的存在だ。
今まで鍛錬一筋だったサーラの心の内などお見通しであろう。
「私はこのまま先に進んでも大丈夫かなって」
一通り反応を楽しんだルナの返事は、このまま探索を続けるに1票を投じる。
「まだまだ行けるよー!」
元気いっぱいのリリーはやる気満々だ。
これで2票入ったことになる。
次のメンバーが賛成すれば、このまま進むことになるだろう。
「俺は反対かな…階層主のレベルが5階層にしては異常だったと思う」
ここでジェルマンが反対票を投じてきた。
冷静な判断の持ち主の彼の意見は軽視できない。
「さっさと次に行きましょう!次の階層主はどんな素材かしら」
素材回収でホクホク顔のリザがさらに欲をかいている。
そんな時は碌なことが起きないのが常である。
だが賛成票が3票、反対票が1票、中立票が2票。
この時点で次層への挑戦が決まってしまった。
「ハナビはどうかな?先行を任せるから負担が大きいけど…」
「今までは鍛錬にもならなかった。もっと厳しい状況の方が学べることは多いと思う」
心配をするアヤトを余所に頼もしい発言をするハナビ。
「じゃあ素材をマジックバックにしまってお昼にしようか?」
腰に備えているマジックバックに素材をしまい込み、お昼の材料を取り出していく。
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