第三十八話 過剰戦力
フロアを降りる一同の表情は様々だ。
満足げな表情の者や、安堵の表情を浮かべる者、さらには不満げな表情の者。
1階層を突破し、2階層へ降りる…通常、無事に突破できれば不満げな顔はしないであろう。
しかし、明らかに不満げな顔をした者が4人も居た。
なんらかのモンスターからダメージを与えられてしまったのか?
それともトラップによりステータス異常があるのか?
だが、4人はどう見ても無傷である。
「いい加減に機嫌を直せ」
ジェルマンが4人に向かって話しかける。
「…………」
黙って階段を降りる4人。
「俺にも予想外だったんだよ…あんなにダンジョンのモンスターが弱いだなんて」
その言葉通り、1階層のモンスターは『エレメントスライム』と『ノーマルゴブリン』が数体のみ。
「まさか先行していたハナビが全部倒してしまうなんて…」
満足げな表情をしていたのはハナビであった。
逆に不満を積もらせていたのは…ルナ・リリー・サーラ・リザであった。
気合いを入れて挑んだダンジョンで空振りであったのだ。
ましてや戦闘狂の多いパーティーだ。
不満が積もるのも無理はない。
「もっとレベルの高いダンジョンにすれば良かったんだ」
「…なにかあったらまずいだろう」
なんとか宥めようとするジェルマン。
「それに下に進めばもっと強いモンスターも出てくるはずだ」
アヤトも珍しくフォローを入れる。
「じゃあ、次の階層でも碌なモンスターが出なかったらどうするの?」
「う…」
余計なことをしてしまったと言葉をつまらせる。
実際にスライムやゴブリン程度は、学園に来る前にレベル上げで何度も戦闘して飽きているのが、知識の宝庫メンバーだ。
ハナビは持ち前のスピードを生かし、モンスターを翻弄して双剣でHPを削っていくスタイルだ。
1撃自体は攻撃力の低いハナビの攻撃だが、的確に急所を突くことであっという間に戦闘を終わらせてしまう。
「もう、先行とかいらないんじゃない?」
「いや、何かあってからでは遅い」
女性陣達からの非難の声にも考えを曲げないジェルマン。
(僕だったら…言い負かされてるな)
「ありがとう」
無駄な言葉は発さずにお礼だけをジェルマンに述べる。
「…アヤト、頼むからもっと助けてくれよ」
「ごめん…たぶん無理だ」
そんな緊迫感の無いパーティーは2階層に到達する。
「ここはさっきよりも通路が広いな!」
「通路が広い場合は大型のモンスターが出る可能性があるので注意しろ!」
ジェルマンが再度パーティーに緊張感を持たせている。
「どうせ出てきたとしてもオーク辺りでしょ」
サーラにしてみれば、アヤトと修行していたころに散々オークを倒してきてる。
「サーラちゃんオーク倒したことがあるなら、出てきたら譲ってね!」
モンスターの取り合いが起きている異常事態だ。
(このパーティーに遭遇するモンスターの方が可哀想になってくるな…)
そんな緊張感がみじんも感じられない会話を続けて進んでいく。
「さっそく、右の通路からオークが3体来ます」
先行していたハナビが戻り、前衛の3人に告げる。
「よーし、ようやく戦闘か!このままじゃ身体がなまっちゃうとこだった!」
リリーが腕を大きく回している。
「よし、前衛の3人で押さえてくれ!」
ジェルマンが的確に指示出す…よりも先に動いているメンバー。
「サンダーナックル」
雷を纏った拳が、オークの頭を消し去る。
「あっ…お姉ちゃんやり過ぎだよ!」
オークの頭部が消え去ったことにより、討伐部位として提出するはずの『右耳』が無くなってしまった。
ダンジョンを管理する学園は、定期的にモンスターを間引く為に討伐を行わなければならない。
討伐代行した証明として特定部位を持ち帰ると、それに合わせた金額で取引を行っている。
また希少モンスターの場合は、素材となる部位を高額取引の対象としている。
「オークはこうやって倒さないと…」
そう言うとリリーは素早くオークとの間合いを詰める。
「おっと」
オークは右手に持っていた棍棒を振り下ろしてきた。
「油断はだめよ、リリーちゃん」
いつの間にか剣を抜いて、オークの背後にまわっていたサーラ。
『オゴオォー』
「危ないサーラちゃん!」
2体のオークがサーラに棍棒を振りかざす。
「大丈夫だよ」
サーラがそう言うと、オークの上半身と下半身がゆっくりとずれていく。
ずれた上半身は通路に転がり、下半身はゆっくりと倒れていく。
「あーサーラちゃん私の分まで取ったー」
あっという間にオーク3体を倒してしまった前衛組。
実質は2人で事足りた戦闘を、観戦する人数の方が圧倒的に多いオーバーキル状態。
「2階でも満足してくれなさそうだな…」
お互いを見つめあうアヤトとジェルマン。
モンスターが強くないと風当たりが強くなってしまう。
当分自分たちの出番は無いと感じていた。
「…今日だけで何階層まで進むのかな?」
「とりあえず5階層のボス次第だろ?」
「ボスか…期待してるぞ」
何故かパーティーの後方で階層主にエールを送る男達であった。
ーーーー




