第三十四話 先輩の努力
「あら…これは…」
その部屋には大きな机が2つ置いてあり、壁には沢山の本やファイルが並んでいる。
片方の机は両手を広げた幅ほどもある大きな机に、サイドテーブルも備わっている。
大きな机はすっきりとしていて、あまり物なども無い。
サイドテーブルに書類が数枚あるだけだ。
それに比べもう一つの机は、どこまでが机かわからないほどに書類やファイルが積み重なっている。
この机の主が片付け出来ない訳でも、仕事が出来ない訳でもない。
単純に仕事量が異常なのだ。
「…ユリカちゃん、ちょっとは手伝ってよ」
「…」
返事をせずに手に持った書類を眺めている。
「この書類の山はユリカちゃんの分なのに…」
「ウタ…ちょっと出てくる」
ユリカは急に立ち上がり部屋を後にする。
「…はぁ。これじゃ全然終わらないよ…」
目の下のクマを擦りながら書類の山に目を通していく。
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「…はい」
アヤトは自室のベッドの上で正座をしている。
「アヤトくん!はい、じゃわからないんだけど?」
「いや…えーと、でも、もう申請してしまったし」
「なんでお姉ちゃんに相談してくれなかったの?」
アヤトは失敗を繰り返してしまっていた。
ユリカの手にはダンジョン探索の許可証のコピーが握りしめられている。
探索の許可が下りたため、生徒会にも報告が上がって来たのだ。
ダンジョン探索について、弟から何も相談を受けていなかったユリカ。
「…姉さんは忙しいかな?て思ってさ」
「アヤトくんの為ならいくらでも時間空けるし!」
ユリカは実際は生徒会長という立場や、ツヴァイン帝国代表の研究クラブにも属していて多忙極まりないはずだ。
「それにダンジョン探索って複数のパーティーには属せないんでしょ?」
ハンターギルドや学園などでの取り決めの中に、1人の人物が複数のパーティーに属するのは禁止とされている。
それにはいくつか理由がある。
その理由としてもっとも重要なのは、冒険者間での問題が起きないように未然に防いでいるとされている。
以前、複数パーティーに属していたものが原因で情報の流失や、罠にかけたりなど事件が絶えなかったそうだ。
そのことを事前に聞いていたアヤト。
姉のユリカは既に国代表のメンバーで構成されたパーティーに属して、ダンジョン攻略に動いていたため声をかけなかった。
(…ということにしよう)
「そんな些細なこと!アヤトくんの為なら、国代表の方のパーティーからは脱退するわ!」
(な、なに…それは予想外だ)
確かにユリカがメンバーに加わるのであれば、現在の強さは未知数ながらかなりの戦闘力アップにつながるのは間違いない。
「で、でもパーティーなんか軽く辞められるものじゃないでしょ?」
「う…なんとかするわ!」
実際にはパーティーを脱退するには正式な理由を求められるし、何度も繰り返すと今後の心証も悪くなる。
ましてや、現生徒会長がそんな理由で気安く辞められるものではない。
「姉さんとは後々、僕が足を引っ張らないくらい強くなったら、こっちからお願いするよ」
「…絶対だよ」
ベッドに正座をしているアヤトに、可愛らしく上目遣いでお願いしてくる。
「もちろん!」
「…わかった。絶対だからねアヤトくん!」
そう言ってアヤトの自室から出て行くユリカ。
「ふぅ…なんとか乗り越えたぞ」
命の危機をなんとか乗り越えたアヤトであった。
この時、選択肢を間違えていた場合には1週間は動けない状態になっていたであろう。
少しの付き合いだが、ジェルマンから学んだものは多い。
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