第三話 ステータスと家族
(ん……なんだったんだ?今のは…本当にまた人生がスタートしていくのか?)
「(…明るいな)…あうあうう」
(あれ?思うように喋れないのか?)
綾人は思い通りに喋れない一瞬に違和感を覚える。
「ーーー…ーーー……!!」
(なんだ?聞き覚えのある声?)
ゆっくりと目を開けると、そこには…女性が綾人の顔を覗き込んでいた。
(あれ?この人見たことあるぞ。たしか…あっ!夢の中に出てきた人だ)
その女性は、以前夢の中で綾人を抱きかかえていた人物だった。
(すごく綺麗な人だな。25歳くらいか?お…胸の谷間が)
屈み込むように綾人を眺めていた女性。服装はゆったりとしたもので、大きすぎない胸が綾人の視線を奪った。
「(こ…ここはどこですか?あなたは?)あ…あうあうああ、あうあ?」
(…あ、喋れないんだった)
胸に意識がいって忘れていたことは秘密だ。
「——ーー!…ーー、…ーー!」
満面の笑みで女性は綾人のことを抱き上げる。
(え?僕を持ち上げた?なんで?)
170cmはあった綾人を軽々と持ち上げた女性は、鏡の前に立った。
(な!…本当だったのか。まさか赤ちゃんから人生をスタートすることになるとは)
その鏡に映る姿は、誰がどう見ても母親が男の子を抱きかかえているものだった。
女性は細身であるがしっかりと筋肉もついており、どこか頼もしさを感じられる。少し長めの金髪はポニーテールでまとめられ、赤みのかかった瞳が凄く綺麗だ。
(この女性…僕のお母さん?てことか)
この時、綺麗な女性でラッキーと思ってしまったのは秘密だ。
よく周りを見回すと、自分が寝ていたベビーベッドのようなものや、いくつかの家具があるだけであまりごちゃごちゃとしていない印象だった。
(木造のものが多いみたいだな…僕が前の世界で生きていた頃よりはあまり発展していないのかな?)
徐々に周りの状況を理解しつつ、落ち着いて物事を考え始めた。
(まずは整理しよう。僕は前世では事故で命を失い、神様的な何かに拾われ、新たな命としてこの世界にきた。その際に加護をもらって…あ!加護はどうなったんだ?)
そんなことを考えている間にも、母親と思われる女性は綾人を抱えて喋りかけながら部屋を出て階段を降りて行く。
(ステータス画面のようなものがあればわかりやすいのにな…うわ!)
「あう!」
(おっと驚いて声に出てしまった)
綾人の目の前には見慣れた文字でステータス画面が現れた。
ーーーー
Name:アヤト・クラシキ・ツェット
Level:1
Job:ー
HP:10(10)
MP:20(20)
ST:10(10)
IR:ー
筋力:10
物理攻撃力:10
物理防御力:10
魔力:10
魔法攻撃力:10
魔法防御力:10
敏捷:10
運:10
スキル:ー
加護:武術の加護Ⅹ、魔術の加護Ⅹ、検索の加護
[_________]検索
ーーーー
(お……わかりやすくて助かるな)
ある程度ゲームをやったことのある人であれば、各項目が何を表すのかわかるだろう。
(名前は前世から引き継がれているみたいだな。ツェットっていうのは家名かな?)
比べる対象の無い現状だが、加護がついているので他の人よりは良さそうなステータス画面を最後まで見て行くと、検索バーがついていた。
(これが検索の加護の恩恵かな?)
なぜ綾人は武術、魔法の加護についで検索の加護を求めたのか?
今の時代、わからないことがあればすぐに検索。漢字がわからない、英語の訳がわからない…わからないことがあれば検索してすぐに解決できる。
そんなご時世だからこそ手放せないスキルだ。
綾人がステータスを確認し、検索の加護を確認しようとしたところで先程とは違う部屋に移っていることに気がつく。
「ーーー!…ーーーー…——ー」
今度は小さな女の子が駆け寄ってきた。
女の子は母親と同じ金髪を短く揃えて、手や足、綺麗な顔にも生傷がある。
元気いっぱいの笑顔で駆け寄ってきて、いきなり僕の頬にキスをした
(!!!…おっとこんな小さな子にキスされても動揺なんてしないぞ)
「——ーー!」
今度は男性の低い声が聞こえた。
女の子の後ろからドアを開けて入ってきたのは、上半身裸で、片手に木剣を2本持った男性だ。
その男性は筋肉の鎧を纏い、全身にいくつもの古傷が目立っていた。
「ー…ー……、ーーーー…」
(んーやっぱり、なにを喋っているのかわからないな。)
未だに何を喋っているのかわからず、悩んでいる綾人の眼前に男の顔が迫ってくる。
(!!!ま、まて、男はやめてくれ!!!)
少し長めな灰色の髪は汗に濡れ湿っている。髪の毛と同じ灰色の目を瞑って、唇を尖らせて迫ってくる。
「あう!(べし!)」
迫ってくる顔に渾身の右ストレートを食らわせてやった。
(ふう、あぶなかった。僕のファーストキスが男なんて嫌だ)
「ーーー!…ーーー!ー…——ー」
少し涙目になった男が、叫びながら僕の顔を両手でホールドし再度迫ってきた。
(……。これはカウントしないことにしよう。きっと僕のお父さんだろう。お父さんからのキスは誰しも小さい頃に経験するはずだ。記憶に無いだけで前世でもあったはずだし、気持ちを切り替えて行こう)
父親と思われる人物からのキスにより、その理由を高速で作り上げて行く。
ーーーー