第二十八話 本当の不安
少し時間を遡る。
エマに紹介されて出てきた人物にSクラスの8人から拍手がわき起こる。
アヤトとサーラは呆然としていた。
全く聞いていなかったからだ。
「なんで父さんと母さんが…サーラのところまで…」
闘技場に入ってきたのは、ロドフとリーナにガウルとローラであった。
「え?アヤトの両親なの?」
Sクラスの視線が一挙にアヤトに集まる。
「ああ…それとサーラの両親だ」
「マジ?お前達の両親凄いな…」
「まぁ…SクラスとAクラスの冒険者だったみたいだしな」
「いや、そんな軽いもんじゃないぜ!」
ジェルマンが異常なくらい興奮している。
「そんな凄いのか?まぁ…確かにすごい強いけどさ」
「強いってもんじゃない。この世界で最強のパーティー『4本の弓』だ」
「へぇ…そんなパーティー名だったのか」
「何も知らないんだな!自分の親だろ?」
「そのはずだけど…」
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[ 4本の弓 ]検索
ツヴァイン帝国に属する冒険者パーティーの呼称。
4人の冒険者で構成されている。
構成員は下記の4人
『ロドフ・クラシキ・ツェット』Sクラス
『リーナ・クラシキ・ツェット』Sクラス
『ガウル・クリケット・シュガー』Aクラス
『ローラ・クリケット・シュガー』Aクラス
で構成されている。
ダンジョンの最下層記録保持『71階層』
現在はパーティーを解散している。
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(ダンジョンの最下層記録も父さん達なんだ…)
「よ!アヤト、入学式の朝ぶりだな」
笑いながら近づいてくるロドフに飽きれる子供。
「父さん…こんなこと一言も言ってくれなかったじゃないですか」
「いやさ、サプライズってやつよ!驚いたろ」
「無駄に驚きましたよ」
項垂れるアヤトの肩に手を置くロドフは、サプライズが成功し豪快に笑っている。
「このことは姉さんは知っているんですか?」
「いや、ユリカにも言ってないよ」
さらに頭を抱えるアヤト。
「なんだ、父さん達が来て嬉しくないのか?」
「正直、恥ずかしいよ」
クラスの面々に、こんな馬鹿っぽいのが父親かと思われてしまったことに恥ずかしさを感じる。
「なんで恥ずかしいんだよ!」
「母さんだけなら恥ずかしくなかったかも…」
「なんでだー!!!」
「そういうとこだよ…父さん」
遠い目で父親を見つめる子供。
「母さん!アヤトが父さんを恥ずかしいって…」
「私も恥ずかしいわ…」
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「おら!アヤト早く起きろ!」
ロドフは先程の恥ずかしい父親から、強くてかっこいい父親になろうと頑張りすぎていた。
「くそ…紫電!」
愛刀『虎徹』に雷のフレイムを流し込み、ロドフに斬り掛かる。
「くらえ!」
「ぐっ…まだまだ!こんなんじゃ、いつになっても俺を倒せないぞ!」
虎徹に纏わせた雷で、斬りつける直前に刀身を伸ばした。
予想外に攻撃範囲が伸びた為、避けきれなかったロドフだったが、傷は浅い。
「まだダメか…インビジブル!」
ゆっくりと姿が消えていくアヤトの姿。
「一流の冒険者にはその程度関係ない」
「ぐは…」
アヤトの姿がゆっくりと戻ってくる。
「まだですよ…父さん!」
インビジブルで消えていたウォーターショットがロドフを襲う。
「こんなもの!なっ!」
飛んで避けようとしたロドフの足を、土で出来た手が足に絡まる。
「やった…」
ウォーターショットと一緒に消していたマッドハンド。
「…まだまだ、だな」
決まったと思っていた搦め手。
ロドフの強靭な脚力により、土の手が粉々に砕けてしまった。
「馬鹿力で脱出されるとは…」
「父さんを甘く見んなよ!なんなら魔術でゴリ押しでも俺はかまわないぜ」
「それは魔術の時間に私が担当するわ」
そんな桁外れの攻防にSクラスの面々は唖然としている。
それもそのはずだ。
家で鍛錬している時は、怪我に気をつけたレベルでの鍔迫り合いだ。
ましてや真剣でなく、木剣での鍛錬だ。
怪我を気にしない分、お互いより真剣に打ち合う。
本気の両者の戦いに息をのんで見守るクラスメイト。
1つでも自分のものに出来ないかと集中している。
そんなところはさすがSクラスである。
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初めて見る石の壁。
「いや…天井か…」
石造りの高い天井からは何も下がっていない。
その代わりに壁にはいくつものランプが掛けられていた。
そこまで広さはない空間。
「ここは…」
ゆっくりと起き上がるアヤトはベッドの上に寝ていたようだ。
「出血多量だと」
「ジェルマンか…僕は…」
なぜ自分がベッドの上に寝ているか記憶にない。
「ロドフさんと散々やり合って、血が足りなくなって倒れたんだよ」
魔法で傷は治るが、過多の出血は戻らないリング。
「そっか…全然歯が立たなかったな」
「無謀だろ、あのあと全員対戦したが、手加減された上に擦りもしなかったよ」
貧血気味に気絶したアヤトの後は、剣すら持つことなく素手で軽く捻られたらしい。
善戦したのはサーラくらいらしい。
「もう動けるのか?」
「ああ…大丈夫かな?」
手を握りしめて力が入るか確認する。
「ところで今って何時?」
「あーだいたい17時くらいかな?もう授業は終わったよ」
「そっか、午後の授業受けられなかったな…」
朝の不安の原因…本当はこれだったのか。
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