第二十一話 入学式
昨日の事件を思い出しながら、白い壁を見つめていると…
「お待たせいたしました、これより合格者の発表を行います」
3年前に見た光景と殆ど一緒だ。
順番に受験番号が表示されていく。
「あった!あったよーアヤト!」
隣で騒いでいるのは、共に地獄の鍛錬をくぐり抜けた『サーラ』
肩くらいに揃えられた赤い髪は母親そっくりな綺麗な髪だ。
小さな顔にはつり目の赤い眼が強気な性格を物語っている。
「合格位は当たり前だよ、それより入学したら早く姉さんに追いつくんだろ?」
「ふん、当たり前じゃない!これで憧れのユリカさんと一緒の学園に…」
遠くを見つめるサーラには、勇敢なユリカの姿が見えているのだろう。
「とにかく来週からはこの学園の一員だ、頑張っていくか…」
合格証書を受け取り、宿に戻っていく。
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擂り鉢上に広がるホールには沢山の人が集まっている。
小等部、中等部、高等部の生徒に教員が一同に集まるその光景は圧巻だ。
生徒だけでも4000人を超える。
その中で学年・クラスごとにまとまって席に着いている生徒達。
「新入生代表挨拶…主席『アヤト・クラシキ・ツェット』壇上まで」
「…はい」
アヤトはゆっくりと席を立つと、鋭い視線が集まる。
そんなアヤトの周りにはSクラスの面々が揃っている。
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[ 学園のクラス ]検索
学園のクラスは入学試験の成績により5クラスにわけられている。
進級の際は「進級試験」の内容が加味される。
1学年の生徒数は約390人
Sクラス=10人
Aクラス=30人
Bクラス=50人
Cクラス=100人
Dクラス=200人
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アヤトの周りには金髪縦ロールのお嬢様や騎士の様な格好の身なりの良い人物が多い。
それもそのはずだ…この学園に入学するにはある程度の力量が必要となる。
それを小さい頃から磨くには、一流の冒険者などを雇い、鍛錬していくしか方法は無いからだ。
その為にはある程度の財力や権力が必要となっていく。
地力で力をつけるには天賦の才かより良い加護が必要となってくる。
また加護は遺伝するとも言われている。
貴族は、より良い加護を権力と金に物を言わせて研究している。
それによりSクラスはアヤトとサーラ以外は貴族の出が多くなっている。
それによって後に一悶着起きることとなる。
「本日はーーーー」
壇上に立つアヤトは、5歳児が考えるとは思えない内容の挨拶をすらすらと口にしていた。
(こんなときにも役に立つとはな…)
入学式の直前に、新入生代表挨拶を主席が行う旨を聞かされたアヤト。
検索の加護を使い、スピーチに合いそうな文面をステータス画面に表記させる。
ただそれを読んでいるだけだ。
しかし傍から見ていると、5歳の子供が何も見ずに喋っているように見える。
「ーーーーご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いいたします」
アヤトがスピーチを終えると、大雨のように拍手が舞い降りる。
続けて小等部代表挨拶となり、壇上から降りる時だった。
「久しぶりね、アヤト君。大っきくなったわね」
「姉さん!」
アヤトが壇上ですれ違った人物は3年ぶりに会ったユリカだった。
「姉さん…小等部代表になっているとは」
3つ年上のユリカは4年生のはずだ。
5年生を実力で抜いて代表の座を勝ち取ったユリカ。
アヤトは姉の怪物ぶりに飽きれながら席に戻る。
「素敵です…ユリカさん」
「はぁ…頭が痛いよ」
隣では、壇上のユリカに熱い視線を注ぐ幼馴染みの姿があった。
「ーーーーでは諸君の健闘を祈る」
ユリカの挨拶が終わり、中等部・高等部の代表挨拶も終わり、校長挨拶が残るのみ。
以前、ユリカの合格発表の際に見かけた老人が壇上に立つ。
「ーーーー勉学に鍛錬も結構じゃが、今年は3年に1度の決闘大会も行われる」
一通り挨拶を終えたその時、校長が手を掲げると生徒達の頭上には5つの巨大な旗が表れた。
それは『アインスト』『ツヴァイン』『フィーリア』『フンフ』『ドライスト』の旗である。
「去年はアインスト王国の勝利で終わったが、今年はどうかのぉ」
「10月に行われる大会は学園だけではなく、各国からの客人達も多く集まる」
「各国の代表に選ばれた者も、選ばれなかった者も悔いの残らぬよう励むことだ」
「儂からは以上だ」
校長が挨拶を終えると、頭上に掲げられていた旗が花火のように散って盛大な拍手により式が終わる。
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