8 もしかして…
「しかし、何で誘拐犯は私に行くように命じたんだろう……」
「あのさ、れっち、それ今日何回目?」
「多分五回目だね。うん」
今日も翔の行方を捜査する平和(いやそんな平和じゃない)な日々が始まる。
はずだった。
まさか誘拐犯が私に現金を持って来いって指名するなんて思いもしなかった。
思い通りにいかないのが現実ということを、改めて知った。
私が悠美香にそのことを話したのは、多分五回目。
今日、急に緊急の朝会があって、そのときに校長から「誘拐犯から電話が来ました。港の倉庫に現金を持っていくのは木下麗香さんだと伺いました」という情報を伝えられなければ、今頃私はマイペースに事件の資料を読み漁る、青春とも言えない青春が待っていたはずなのに……。
朝会のときの、私に視線が集まった瞬間は忘れたくても忘れられない。嫌な思い出だ。
現金を渡すときには、倉庫の荷物に隠れて警視庁のエリート刑事達が潜んで、犯人を即逮捕らしいから、心配ないと校長が私に向かって言っていたが、今のどこに心配ないと言い切れる要素があるのだろうか。
私は誘拐犯に現金三億円を渡すバッグを、今、悠美香の家の近所のショッピングモールで選んでいるわけなんですが……。
何故か森口さんと、翔の家族まで来ているわけなんだよ。
翔のお父さん、昌道さん、翔のお母さん、翔子さん、翔のお姉さん、直香さん。
というより翔、お姉さんがいたんだね。兄弟いないような感じだったから、意外。
「私の大切な弟が誘拐されたんだから、行くっきゃないでしょ!?」というのがお姉さんの言い分。
翔を大切にしてるのはよく分かったから、そんな怒った顔しないでよ。こっちは怖いんだよ。通りすがりの人に何て言われるか……。
「木下さん、峰口さん」
森口さんが、真剣な顔をしている私と悠美香を呼び止めた。
「何、森口。私今バッグを……」
「あのね、僕、もしかしたらって思うことがあるんだよね」
「おっ、何だ、言ってみな」
さっきの迫力とは打って変わって、悠美香は森口さんのことをじっと見据えた。
翔の家族も森口さんのことをマジマジと見つめる。
急に何言い出すつもりだこいつ……。という目をしている。
「翔を誘拐した人は、児童誘拐殺人事件の模倣犯だと思うんだ」
私達の周りは、一瞬、静かになった。




