4 自分が助かる代わりに
ここは一体どこだろう。
暗くて、寒くて、冷たくて。
本当にここはどこなんだろう。
ふと、誰かの声がした。
「あいつ誘拐したら多額の金が入るからね、いやぁ、誘拐してよかったね」
「あいつを心配してくれてる奴らもいるかもしれないな。もうちょっと早めにしといた方がよかったか? クリスマスじゃあいくら何でも遅すぎる。一ヶ月も先だし、早く金手に入れた方が、パチンコ早く行けるじゃん?」
男達の含み笑いが聞こえる。
どうやら、僕は誘拐されてしまったみたいだ。
それに、どうやら金目当てで誘拐されてしまったみたいだ。
パチンコに行く金がなくなったらまた誘拐する気だ。誰かを。
そんなこと、絶対にさせたりしない。
僕は立ち上がって、その男達に歩み……寄ろうとした。
だが、すぐに転んでしまう。両足がガムテープで縛り付けられている。こんなんじゃ身動きも取れない。
転んだときの音が予想以上に大きかったため、男達が僕に気付き、こちらに向かってきた。
「お前は俺らの遊ぶ金の為の人質だ。逃げるなんて無駄な抵抗はやめて、大人しくしてろ」
刈り上げの男が僕の胸倉を掴んで、そんなことを言ってきた。
「リーダー、どうします? こいつ、殺しますか? 捜索願出されていると思いますから、晒されたら俺達一生刑務所暮らしですよ」
「ふん、どうせ金渡す奴にも見られてんだろ? そいつも殺しちゃえばいいじゃん。あぁ、金渡す奴は、両親じゃなくて子供の方がいいだろ? 確か、何て言ったっけな」
僕の両親じゃなくて子供の方がいい? 何で? 子供なんて金渡すときに見た奴のことなんかよく覚えてるし……。って、だから殺すのか。
「あぁ、木下麗香だっけ? そいつに金持ってこさせろ。そして殺してどっかの海に沈めとけ」
リーダーなる仏頂面の男がそう言った。
待て、麗香を殺すだって?
麗香……。木下麗香を?
あいつは僕に告白してくれたんだぞ。
自分の気持ちを正直に言ってくれたんだぞ。それなのに殺すとか……。
あいつは何も悪いことはしてないのに、何で殺されなきゃいけないんだよ。
せめて、俺を殺してくれよ、麗香は何にも悪いことはしてないのに!
心の中で言ったつもりが、口に出してしまったらしい。
刈り上げのリーダーなる男が、舌打ちをして僕にこう言った。
「うるせぇよ、その代わり、お前を戻してやる。
麗香ちゃんって子が死ぬ代わりに、君は幸せな生活を送れるよ。
でも、君が死んでも、麗香ちゃんも死ぬんだよね。
つまりどっちを選んでも麗香ちゃんは死ぬわけ」
刈り上げ男の得意そうな笑顔を、殴りたくなった。
「自分の命、大切にしたいでしょ?」
その笑顔を、たっぷり見せつけながら、刈り上げの男がニヤついた。
ちくしょう……。
麗香はどっちにしろ死んでしまう。
僕は男達が去った後、静かに泣いた。