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さようなら  作者: けふまろ
本編
3/20

3 図書館と森口さんと

 悠美香と私は学校の近くの都立図書館に足を運んだ。

 今日の新聞には、翔の誘拐事件の話が載っている。

 でかでかと載る誘拐事件の記事に、私は一瞬目が眩んだが、それにも気にせず図書館に足を運んだ。

「あ、木下さん」

 ふいに男子の声がした。

「あ、森口さん」

 森口俊也(もりぐちしゅんや)。今年転校してきた同じ学年の男の子だ。

 ちょっと女子力高めで、あまり人のことを呼び捨てにしないから、皆から少し遠くに見られている。

「森口は何しに来たの?」

「借りてた本を返そうと思ってね。図鑑」

 彼のバッグから『鳥』と大きく書かれた図鑑が見える。

「鳥に興味あるの?」

「うん。ツバメの生態を調べたくてね。知らないかもしれないけど、塾に行くとき、駅の近くにツバメの巣があったのを見かけてさ。ちょっと調べてみたかったんだよね」

 森口さんは、ふふっ、と笑う。鳥が好きなのかな、と一瞬思った。

「ふぅん、あんたってホント生物に興味津々なのね」

 森口さんの持っている本を指差して、悠美香は言った。

「うん、お父さんが生物学者だから」

「へぇ、初耳ね。っていうか、それ、すごくない? 私のお父さんなんて……って、言っても何もないわよね」

 私が見るに、森口さんと悠美香はお似合いだと思う。純粋な男子と引っ張る系女子の組み合わせも良いかもしれない。

「そういう木下さんと峰口さんは何しに来たの?」

 森口さんは、こちらに尋ねてきた。すると、悠美香が、真剣な声で言った。

「あんた頭良いから知ってると思うけど、翔が誘拐されたの知ってるでしょ?」

「白崎さんのことね。知っているよ。でも僕、同じ縦割班だけど、あんまり話さないよ」

「知っているわよそんなこと。それよりも私、誘拐事件の資料を借りていきたいのよ」

 期待外れということを承知していたように言う悠美香。

「あ、だったらこの図書館にあるよ」

「本当? どこにあるか教えてくれる?」

 この都立図書館は、三階建ての豪華な図書館なので、誘拐事件の資料もあるはずだ。


「えーと、ここ、ここ」

 数分図書館を歩いていると、ファイルに入れられている資料を見付けた。

「これは、2010年から2015年までの事件の資料だね。警視庁からのコピーで頂いた物だって言われているから大切に扱った方が良いと思う」

 はい、と資料を差し出して、森口さんはカウンターの方に歩いていった。

「あいつ、そんな鋭くないけど、私よりも頭良いからちょっと悔しいわ」

 フン、と悠美香は鼻を鳴らした。

「でも大丈夫だわ。森口は体育だけはどうしても出来ないんだから」

「そんなこと言っちゃ駄目だよ。森口さんはやりたくてもやれないんだから」

 そう、森口さんは病弱で体が弱い。顔がちょっと青白くて、「そのうちすぐ太るぞ」と男子から言われていた。

「そうね。悪かったわ。でも、何ていうか悔しいわよね」

「そうかなぁ。私は悠美香には悠美香なりの良いところがあると思うよ」

 私がそう言うと、悠美香は溜息をついた。

「お人好しすぎるよ。れっちは。だから男子にいじられたりするのよ。優しすぎるのよ」

 悠美香はまた溜息をついて資料を借りた。


 帰り道。

 五年生の連合音楽会が終わり、辺りはいよいよ冬の勢いを増してきた。

 最近はマフラーをする人も増えてきて、私もマフラーをつけている。

 悠美香は手袋をしてマフラーもしていたが、鼻の付け根が赤くなっている。彼女は三人家族。お父さんが交通事故で彼女が生まれる前よりも先に死んでしまい、悠美香と姉の悠莉香(ゆりか)さんと、母親の三人家族だ。

 私は弟とお父さんとお母さんがいて、時々激しい夫婦喧嘩と姉弟喧嘩が繰り広げられているけど、仲の良い家族。

 悠美香を見ていると、自分は幸せ者なんだなってつくづく思わされる。

「はぁ~。しっかし、寒いよね。もう、寒すぎて風邪引いちゃうよ」

「現にインフルエンザで学校休んだ人もいるって噂だしね」

「ねぇ。ホント勘弁だよ」


「でも私は翔のことが心配で、ホントそっちの方が勘弁だよ」


 あ。


 また話を思いっきり変えちゃった。ごめん……。

 私が黙っていると、悠美香は私の頭をポンポン、と優しく叩いてくれた。

「また話を思いっきり変えちゃったって思ってるでしょ。いいよ、別に。私もそのこと心配だったし」

 悠美香の言葉に、私は少し気持ちが柔らかくなった。


 私達の間にしばらく話題が飛ばなかった頃、ちょうど森口さんと曲がり角で出会った。

「わっ、何森口。どこ行くの?」

「塾だよ」

「ふぅん。ね、今日、森口の家行ってもいい? ちょっと一緒に資料見てほしいのよ。頭いいあんたなら何か分かるかもしれないじゃん」

 唐突な悠美香の言葉に、森口さんはただ単に頷くしかなかった。

「別にいいよ。塾が終わって帰ったら電話するから」

 森口さんはそう言って駆け出していった。

「まったく。あいつも、言い返さないなんて純粋ねぇ」

 悠美香の頬は少し赤くなっていた。

 森口さんに対する気持ちは、変わっているのだろうか。

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