17 騙された…
公園で偽札が入ったバッグを持って、刑事さんが来るのを待っていると、突然、背後に嫌な気配がした。
私が振り返ると、そこにいたのは中年男性だった。
「こんにちは。僕は榎本篤志。早速だけど、行かない?」
私は首を捻る。何かホームレスみたいな顔立ちだけど。
「はぁ? 榎本篤志? 誰?」
「誰とは失礼な。私服警官ですよ」
そこで思い出した。この人、私服警官なんだ。2時30分に約束した……。
「いや、あと何人か私服警官の人いますよね? 流石に私服警官一人っていうのは少々……」
「いやぁ、あはは。僕だけ早く来すぎちゃったみたいだね。……さ、早く行こう」
榎本さんは私に手を伸ばす。
私はその手を振り払い、榎本さんを睨みつけた。
「とにかく、私今、待っているんで。全員を。
っていうか刑事さんには分かんないと思いますけど、翔は大切な友達なんです。
よく男女間の友情は有り得ないって言いますけど、私はそうじゃないと思います。少なくとも翔はそう思ってます。私のこと友達だと思っているはずなんです。
なのにそのノリで言わないでくださいよ」
一瞬榎本さんは真顔になった。
「あはは、ごめん。君がそんな風に思ってるなんて知らなかった。
でももう行こう。その大切な友達が待ってるんだよ。その大切な友達が殺されるかもしれないしね」
「!!」
榎本さんが、私の心をえぐるような言葉を、軽いノリで発した。
「ふざけないでくださいよ! ……私は翔のことを大切に……」
「うるせぇよっ!」
榎本さんが私を殴った。
「もう行こう。他の警察にも連絡しておく。そのうち倉庫に来るから!」
「え、でも……」
グイッッッッ!
突然、榎本さんが私の腕を掴んで、駅の方向へと引っ張っていった。
何かこの刑事さん、怖い……。
◆◇
榎本さんは、「仲間に連絡する」と言ってケータイを持ってトイレに駆け込んでいった。
私は電話し終わった榎本さんと電車に乗り込んだ。
公園の目の前を電車が通ったときに見た光景は。
私服警官十数人が、公園を見渡しているのが分かった。
「え?」
私服警官に連絡したと、榎本さんは言ってなかったか?
「あの、榎本さ……」
「騙されちゃったね、麗香ちゃん?」
榎本さんはニヤニヤと笑ってそう言った。
その瞬間、私はやっと分かったんだ。
あぁ、私、騙されちゃったんだって……。