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さようなら  作者: けふまろ
本編
13/20

13 死人、発生。

 さようなら。


 僕はいつの間にか、そんなことを呟いていた。

 

 麗香、さようなら。って。


「なぁ、こいつ怖ぇよ。本当に返してくれとも言わないでよ、不思議ったらありゃしないぜ」


 坊主頭の男が、僕を蹴りながら、少々ビックリした様子で周りに話していた。


「考えてやれよ、好きな奴が殺されそうになって、大人しくしない理由なんてあるか?」


 


「好きな奴……じゃ、ねぇよ……」

 

 思い切り口に出してしまった。

「あ? 何言ってんだてめぇ……」

 リーダーの菊池春雄(きくちはるお)が、僕に近付いてきた。


「好きな奴じゃねぇって、全否定かよ。可哀想に、麗香ちゃん。好きな人じゃねぇって、恋愛的な意味として、とか一言も言ってねぇよ」

 菊池春雄は、ニヤニヤ笑いながら言った。

「翔君勘違い~。恥ずかしいねえ……」

 坊主頭の男がひっそり呟いた。


「友達としてなら、好きだ。……でも、僕は、麗香を殺すのはやめてくれ。せめて、僕を殺してくれ」


 今年に入ってから何度目かのその言葉に、男達は舌打ちをして、今年に入ってから何度目かの言葉をヒソヒソと喋っていた。


「ふぅん。そうなんだね。友達思いな翔君~」


 そう、こうやって全面的に無視されるのだ。


「だって、麗香は、何も悪くないんだよ……。

 そりゃあ、嫌な思いさせられたことあるけどさ。

 でも、麗香は純粋に僕のことを好きだって、思ってくれたんだよ……? それなのに……」

「それなのにそれなのにうるせぇよ! 黙れ!」


 リーダーは僕の胸倉を掴んだ。

「本当に、お前も殺すぞ」

 

「ご、ごめんなさい……」

 僕が謝ると、リーダーは降ろしてくれた。


「ふん」

 リーダーは鼻を鳴らした。


「待てよ春雄! もう、翔君を解放してやれよ!」


「あぁん?」


 突如として発された、リーダーを制する言葉。

 その声の主は、いつか麗香に付いて語った、中年男性だ。


「ふざけんな。何言ってんだてめぇ」

「何言ってんだよ、(かず)。今更反抗する気かよ!」

 和。中年男性の名前だ。


「翔君の言うとおりだ。麗香ちゃんはただ純粋に、翔君を想っていただけだ。その思いを、ぶち壊す気かよ!」


「何だとてめぇ……。今更この春雄様に歯向かうとは! 小中高と、ずっと俺の手下だったじゃないか!」

「それはお前がまだ不動産会社の社長の息子だったときの話だろ!? 今は関係ねぇだろ!」

 和さんはなおもリーダーに歯向かう。なるほど、こいつは昔、不動産会社の社長の息子だったのか。

「つってもなぁ。今更戻っても、もう自白しかねぇよ? お先真っ暗。人生終わり。知ってるか? 誘拐って結構罪重たいんだぜ」

「くっ……」

 和さんはリーダーを見据える。


「あーあ。ホンットつまんねぇ。お前、本当につまんねぇ。最低ですね、クソですね、キモいですね」


「何だと、てめぇ!」

 

 和さんはリーダーを睨みつける。「おお、怖い怖」とリーダーは仰け反った。


「大丈夫? もうそろそろ、君、死ぬよ?」

 リーダーはポケットから銃を出し、和さんの頭に銃口を突き付けた。


「ふん、いくらでも殺したまえ。……ただし、麗香ちゃんと翔君を殺すなよ。絶対に」


 和さんのその言葉に、リーダーは「はぁ?」と顔を曇らせた。


「お前、その望みが叶うと思うなよ? 何でもそうそう自分の思い通りになると思ったら大間違いだ」


「え?」


 それが和さんの最後の言葉だった。


 バァンッッッッ!


「さよーなら、和君?」


 僕は、和さんをじっと見つめていた。

 

 飛び散る鮮血。

 微かに見える、脳内。

 和さんの、さっきまで生きていた、動いていた、体。


 僕は、人が殺される姿を、見てしまった。

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