1/20
1 あいつがいない
あいつが私に言い残してくれた言葉なんてあっただろうか。
ううん、絶対にない。
あいつはある日、小学校を去ってしまった。
突然の別れで、
あまりにも、突然すぎて。
さよならの言葉も言えなかった。
あいつは家族の目の前から、皆の前から、私の前から消えてしまった。
私が伝えたかった言葉を、最悪の形で伝えてしまったままで。
好きという気持ちを、最悪の形で伝えてしまったままで。
私が好きだったのは、他でもない彼だ。彼のことが好きだと、どうしてクラス一馬鹿な男子に教えてしまったのだろうか。
そこから、クラスの男子、女子、更には私が好きだったあいつにまで拡散してしまったのだ。
私が真っ先に自分に待っている未来を、文字で書くと、『絶望』。
そう、『絶望』なのだ。
皆には冷やかされ、好きだったあいつにはキモい、と言われ、それこそ絶望的だった。
うぅん、その方が、私にはまだマシだったかもしれない。
あいつが私の前からいなくなったことこそが最低最悪の事態なのだ。